新型コロナウィルス感染症と下請法における留意点について

新型コロナウィルス感染症の影響により、企業活動の縮小が余儀なくされており、企業のサプライチェーンにも大きな影響を与えています。

新型コロナウィルス感染症による下請事業者への影響については、令和2年3月10日には経済産業省から「新型コロナウィルス感染症の拡大により影響を受ける下請等中小企業との取引に関する一層の配慮について」との要請文書により、

① 下請事業者が物資不足及び人手不足等に起因して納期に遅れる恐れがあることに留意し、十分な協議の上、顧客を含めた関係者の理解を得て、下請事業者に損失補填を求めることなく、納期について柔軟な対応を行うとともに、取引を継続的に実施するように努めること(納期遅れへの対応)

② 原材料価格の高騰及び短納期による残業や休日出勤の発生等によるコスト増を踏まえ、下請代金の支払に当たって追加コストの負担を行うこと(適正なコスト負担)

③ 受注減等を受けて下請事業者の資金繰りが苦しい状況にあることを踏まえ、規定の支払条件にかかわらず支払期日・支払方法について改めて協議し、速やかな支払いや前金等の柔軟な支払に努めること(迅速・柔軟な支払の実施)

④ 下請事業者に対し、発注の取消、または数量、仕様等の変更を行う場合には、十分な協議を行い、下請事業者に損失を与えることとならないよう、仕掛品代金の支払を行うなど最大限の配慮を行うこと(発注の取消・変更への対応)

が要請されています。

そこで、本稿では、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」と表記します。)対象の親事業者と下請事業者の取引において、新型コロナウィルス感染症の影響による問題が生じやすい事項について解説いたします。

1 下請法で定められている禁止事項

下請法では親事業者に対し様々な義務及び禁止事項が定められていますが、下請法第4条に定められている禁止事項は以下のとおりです。

① 受領拒否の禁止
② 下請代金の支払遅延の禁止
③ 下請代金の減額の禁止
④ 返品の禁止
⑤ 買いたたきの禁止
⑥ 物の購入強制・役務の利用強制の禁止
⑦ 報復措置の禁止
⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
⑨ 割引困難な手形の交付の禁止
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
⑪ 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

本稿では、新型コロナウィルス感染症の影響による問題が特に生じやすい①受領拒否、②支払遅延の禁止、⑤買いたたきの禁止について解説いたします。

2 受領拒否について

下請法で禁止されている受領拒否とは「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」です。よって、下請事業者に責任がある場合を除き、受領を拒否することは下請法上問題となります。

例えば、新型コロナウィルス感染症に関連して、親事業者が休業等を実施し当初定めた納期に受領できないと主張する場合は、下請事業者に責任がある場合といえず、下請法上問題となります。

従って、親事業者としては、代替的な事業場での受領の可能性も含めて可能な限り受領する手段を講じる必要があります。そのような手段を講じることを検討したうえで、それでも客観的に当初定めた期日に受領することが不可能であると認められる場合に、両社間で十分協議の上、相当期間納期を延ばすこととなったときには、そのような事情は考慮することが可能です。

そのような場合でも親事業者としては、このような特別な事情や経緯(可能か限り受領の手段を講じたことなど)について事後的にも分かるような記録を残しておくことが望まれます。

ただし、納入場所の変更や、上述の特別な事情や経緯を考慮したうえで納期の延長等を行った場合に発生する追加費用について、親事業者が支払うべきであるにもかかわらず、下請事業者に負担させることは下請法で禁止されている「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」に該当する恐れがあり下請法上問題となりますので、注意が必要です。

また、禁止される受領拒否には取引先の都合を理由とした受領拒否も含まれます。例えば親事業者が下請事業者に特定の商品の製造を委託していたものの、当該商品の販売先として予定されていた取引先が倒産した場合、親事業者が当該商品が不要になったとしてあらかじめ定めていた納期に当該商品を受領しないことは認められません。

従って、新型コロナウィルス感染症に関連し、親事業者の取引先が休業等により親事業者に対し納期の延長を要望した場合でも、親事業者はそのことのみをもって下請事業者に対し当初定めた納期を一方的に延長させることはできず、親事業者が納期に商品を受け取らないときは受領拒否に該当する恐れがあります。

3 支払遅延について

下請法で禁止されている支払遅延とは「下請代金を支払い期日の経過後なお支払わないこと」です。下請代金の支払は、下請法により給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とされていますので、支払期日が受領した日から起算して60日以内に定められている必要があります。

支払遅延についても、①受領拒否と同様に、取引先の都合を理由とした支払遅延は下請法上問題があるとされていますので、新型コロナウィルス感染症に関連し、親事業者の取引先が資金繰りに窮し入金が遅れている場合でも、親事業者は下請事業者に対し期日通りの支払が必要になります。

4 買いたたきの禁止について

下請法で禁止されている買いたたきとは「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」です。

具体例の一つとして、原材料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来通りに単価を据え置くことは買いたたきに該当するおそれがあるとされています。

新型コロナウィルス感染症に関連し、原材料費・運送費・労務費等の増加により下請事業者のコストが通常の発注時に比して大幅に増加するような場合に、下請業者が単価引上げを求めたにもかかわらず、十分に協議することなく、通常の発注時の単価と同一の単価に一方的に据え置くことは、買いたたきに該当する恐れがあります。

5 最後に

新型コロナウィルス感染症に関連し、納期や代金支払等について様々な交渉が必要となる可能性がありますが、交渉にあたっては下請法の観点からの検討も不可欠になります。

当事務所では新型コロナウィルス感染症に関連する法律相談について無料相談を行っておりますので遠慮なくお問い合わせください。

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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