【取締役の責任~その2】名目的(名ばかり)取締役・辞任した取締役の第三者に対する責任

本稿では、名目的(名ばかり)取締役の責任、辞任した取締役の責任について解説致します。

1 名目的取締役とは

名目的取締役とは、登記の有無を問わず、創立総会又は株主総会において取締役として適法に選任され、その就任を承諾した者のうち、実際には取締役としての任務を遂行しなくても良いという合意が会社と当該取締役との間でなされている者をいいます。
  
取締役の員数が1名以上でも良いとされている現行会社法(別稿の「株式会社の機関構成についての基本的な考え方」もご参照下さい。)の下では、多くの中小閉鎖会社においては、名目的取締役の問題は「法制度上は」生じることがなくなってきたとも評価出来ます。
  
しかし、なお対外的な信用誇示のため名前だけの利用がなされるケースもあり、また、取締役会設置会社については、法制度上引き続き員数確保が必要であるため、名目的取締役の問題が生じることがあります。
  
名目的取締役を上記のように定義した場合、適法に株主総会において取締役として選任された者を前提とするため、単に、登記上取締役として登記されることだけを承諾していたという意味での名目的な取締役(登記簿上の名目的取締役)とは、区別して検討することとなります。
 

2 取締役の第三者に対する責任

 (1) 名目的取締役について

 取締役の第三者に対する責任(会社法429条)については別稿で解説致しましたが、会社法429条にいう「役員等」(以下本稿では「取締役」とします。)は、創立総会又は株主総会において適法に選任され、就任を承諾した者をいいます。
  
 したがって、前記1で定義された意味での名目的取締役は、会社法429条の「取締役」に該当します。
  
 自らは職務執行を行わず、直接には違法行為を行う者ではない名目的取締役が、なぜこのような第三者に対する責任を負うのか、責任を負わない場合があるのか、ということについては、裁判上も多く争われてきました。
  
 これについては、次の3つの最高裁判例が重要です。

① 最判昭44.11.26民集23巻11号2150頁

「代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何ら意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解するのが相当である。」
  
⇒この判例により、例え名目的な代表取締役であったとしても、他の(実質)取締役の職務執行への監視を行ったことに対する任務懈怠が認められることとなります。

② 最判昭48.5.22民集27巻5号655頁

「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有すると解すべきである」
  
⇒この判例により、取締役の監視義務が、取締役会の構成員としての地位に基づくものであり、「平」取締役であったとしても、代表取締役の職務執行を監視すべき立場にあること、監視対象は上程された事項に限らないことが明確に判断されました。

③ 最判昭55.3.18判時971号101頁

「株式会社の取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事項についてのみならず、代表取締役の業務執行全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め、又は自らそれを招集し、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものである(最高裁昭和四六年(オ)第六七三号同四八年五月二二日第三小法廷判決・民集二七巻五号六五五頁)が、このことは、前記被上告人につき原審が認定したような会社の内部事情ないし経緯によっていわゆる社外重役として名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である」
  
⇒この判例により、「名目的」「平」取締役であったとしても名目的であるという理由のみでは責任を免れないことが明確に判断されました。

 (2) 登記についてのみ承諾した名目的取締役

 前記しましたとおり、取締役としての登記をされることについてのみ承諾した者については、ダイレクトには、会社法429条の「取締役」にはあたりません。
  
 しかし、このような者についても、会社法908条2項の類推適用によって、責任を負う場合があります。
  
 具体的には、会社法908条2項は「故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。」と定め、登記の外形を信頼した第三者を保護しています。
  
 この規定は「不実の事項を登記した者」として、本来、登記義務者であるところの会社を前提としていますが、最高裁判例において、次のような判断が示されました。
  
「その不実の登記事項が株式会社の取締役への就任であり、かつ、その就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたのであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく、したがつて、同人に対する関係においても、当該事項の登記を申請した商人に対する関係におけると同様、善意の第三者を保護する必要があるから、同条の規定を類推適用して、取締役として就任の登記をされた当該本人も、同人に故意または過失があるかぎり、当該登記事項の不実なことをもつて善意の第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする」(最判昭和47.6.15民集26巻5号984頁)
  
つまり、登記申請にあたり承諾を与える等、故意又は過失で虚偽の登記に加功した者も、善意の第三者に対しては、自分が取締役ではない、ということが主張できない結果、会社法429条の「取締役」にあたらないということも主張できない、とされるのです。

 (3) 辞任した取締役について

 現在も相談事例の中で多くみとめられ例として、辞任取締役について登記が残ったままという例があります。
  
 このような取締役は、直接的には会社法429条の「取締役」に該当しません。なぜなら、辞任は一方的な会社に対する意思表示によって行うことができ、登記が辞任の効力を発生させるための要件となっていないからです。
  
 したがって、最高裁判例(最判昭和62.4.16判タ646号104頁)においても、原則としては、「株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法266条ノ3第1項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである」と判示しています(商法266条ノ3第1項前段の責任は、本稿で検討している現行会社法429条の責任に該当します)。
  
 一方、「右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法14条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である」(同法14条というのは、現行会社法908条2項に該当します)として、辞任取締役についても、損害賠償責任が発生する場合のあることを認めています。
  
 くれぐれも、辞任後に経営に対して現実の関与をしないことはもちろん、会社に対して辞任登記の申請を請求するなど、登記の残存に明示的な承諾をしていたととられないような対応をすることが必要です。

3 最後に

 取締役の責任は、会社債権者からなされることがほとんどです。そして、取締役個人に対して責任追及してくる事例の多くは、会社には財産がなく、債権者としては取締役に責任追及しなければ債権回収が期待できないといったケースです。 
  
 債権者の立場からすれば、このような法制度に基づく請求を検討すべきと言えますが、一方、取締役からすれば、会社の連帯保証をしていないからといって安心ではなく、任務懈怠によって直接損害賠償責任を負うことがあることに留意が必要です。
  
 なお、名目的取締役については、会社内部の責任(会社に対する任務懈怠責任)も生じることがあります。たとえ就任時に名前だけの借用ということで合意していたとしても、それですべてが免責されるとは限りません。仮にこのような就任を承諾する場合には、報酬は受領しない、責任限定契約を締結するなど他に講じえる手段も併せて講じておく必要があります。

 

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谷川安德

谷川安德

大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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