取締役の解任~任期満了による退任に関して弁護士が考察~
Contents
1 はじめに
会社法は、取締役を含む役員等を株主総会の決議によって、いつでも解任できる旨を定めています(会社法339条1項)。
もっとも、同条2項は「正当な理由」なく任期途中に解任された者が会社に対する損害賠償請求をなしうる旨も定めています。
多くの学説では、この損害賠償請求を認める規定について、会社による解任の自由の保証と取締役の任期に対する期待の保護の調和を図るために定められた法定責任であると説明されています。
ご相談例の中で、取締役の解任に関するご相談も多くいただきますが、本稿での解説は、株主総会での「解任」によって取締役の地位を喪失させるケースではなく、「解任」の代わりに、任期短縮の定款変更によって取締役を退任させ、不再任によってその地位を喪失させることができるのか、その場合に損害賠償請求のリスクはないのか、という点について解説するものです。
2 任期短縮の定款変更によって取締役を退任させられるか
まず、任期短縮の定款変更によって取締役を退任させられるかについて検討致します。もしこれが可能だとすると、解任と同じ効果を得られることが出来ますし、別の見方をすれば、正当な理由なき定款変更による退任に関しては、損害賠償請求を認めるべきではないかという問題が生じるからです。
本稿に関しては、東京地判平成27年6月29日(判時2274号113頁)、名古屋地判令和元年10月31日(金判1588号36頁)が重要な先例で、本稿執筆時点で最高裁判例はありませんが、判例・学説ともに、任期短縮の定款変更の効力は現任取締役に及ぶという結論は一致をみているように思います。後者の判例においても「取締役の任期途中において,その任期を短縮する旨の定款変更がなされた場合、その変更後の定款は在任中の取締役に対して当然に適用されると解することが相当であり、その変更後の任期により任期が満了した者については、取締役から退任する。」と示されています。
3 会社法339条2項は類推適用されるのか
そこで、問題となるのが、「正当な理由」なく任期途中に解任された者が会社に対する損害賠償請求をなしうる旨を定めた会社法339条2項が類推適用されるか否かです。
法理論を別に実質的に考察すれば、この種紛争が生じている事例では、多かれ少なかれ、当該取締役を解任したいとの意図が含まれている例が多く、個別具体的事例を前提とした裁判において、法律の明文がないからといって、一切その類推適用は認められない、という判決を期待することは難しいと思われます。
実際、名古屋地判令和元年10月31日は、「本件定款変更による取締役の任期の短縮には、XをY社の取締 役から退任させることがその目的に含まれていたということができるから」、「会社法339条2項が類推適用されるとする余地もあ(る)」と判示しています。
また、東京地判平成27年6月29日も、会社法339条2項の趣旨は、「取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者についても同様に当てはまるというべきであるから、そのような取締役は、会社が取締役を再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社に対し、会社法339条2項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求することができると解すべきである」とした上で、当該事例において損害賠償請求を認めています。
したがって、実務上の対応としては、任期短縮の定款変更の手段をとったとしても、損害賠償リスクは免れない判断を前提に、取締役の解任方法を検討すべきです。
そうすると、結局「正当な理由」とは何か、損害賠償の範囲はどの範囲か、が考察の対象となります。
詳しくは別項に委ねますが、「正当な理由」は、事情変更が生じたため継続的契約関係を強制することが正義に反すると評価される場合や 解任された役員等が著しく不誠実な行為を行った場合に認められると説明されています。具体的には、法令や定款に違反する行為や不適切な業務執行が行なわれているような場合、役員としての能力に著しい欠如が見られる場合、心身の故障のために職務執行に支障が生じている場合などに、正当な理由が認められています。
また、損害賠償の範囲については、実務的には、大阪高判昭和56年1月30日判タ444号140頁を参考に、「解任されなければ、残存任期期間中と任期満了時に得られたであろう利益の喪失による損害」と解した上で、リスクを検討しています。
もっとも、会社法339条1項による解任を前提とした同条2項の損害賠償の範囲と、類推適用によって認めた損害賠償の範囲については、正当な理由の解釈も含めて、同じであるとは限りません。この点は判例・学説のさらなる積み重ねが必要な領域ですが、実務的な対応としては、現時点では本稿の考察を前提にいただく必要があると考えています。
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