契約社員・パート社員の雇用契約書
使用者側も労働者側も雇用期間を限定した働き方(契約社員)や短時間雇用(パートタイム労働者)のニーズは強く、多くの使用者が契約社員・パートタイム労働者を雇用しています。
契約社員・パートタイム労働者との雇用契約でも雇用契約書の作成は重要であり、本稿では特有のポイントについてご説明いたします。
Contents
1 契約社員の契約期間と無期転換ルール
契約社員の契約期間は原則として3年を超えることができません(労基法14条)。但し、特定の高度専門的知識等を有する職業や60歳以上の労働者との間に締結される労働契約であれば最長5年まで可能です。
従って、雇用契約書では契約社員との契約期間が3年を超えていないかの確認が必要になります。
また、労働契約が更新され、契約が期間5年以上となった場合には労働者からの申し込みにより有期契約から無期契約に転換できる権利が労働契約法18条により認められることになりました(いわゆる無期転換ルール)。これは平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約に適用されることから、今後無期転換権を有する契約社員は増えてきます。
対象契約社員から無期転換権を行使された場合は、期間以外の労働条件については有期契約のときと同一の条件になります。
例えば契約社員であることを前提に定年や転勤がないと就業規則や個別契約で定めていた場合、無期転換後について雇用期間は無期であるにも関わらず、定年や転勤がないということになります。
従って、そのようなことを防ぎたい場合は、雇用契約書において無期転換後の労働条件について定めておくことも必要でしょう。
2 解雇・雇止めの制限(更新の有無及び更新基準の明示)
有期労働契約者はその雇用期間が定められていることから、契約期間中の雇用保障の期待は高いと考えられます。そこで、労働契約法17条では有期労働契約者の解雇について「やむを得ない事由がある場合」でなければできないと規定しています。
この「やむを得ない事由がある場合」とは解雇権濫用法理における「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」よりも狭いと考えられており、有期労働契約者の解雇は困難であると言えます。
従って、従業員として特に遵守しなければならない事項などがある場合は、就業規則の他、雇用契約書にも別途明記し、使用者として当該事項について重視していることを明確する必要がある場合もあります。わざわざ雇用契約書に別途明記しているにも関わらず、違反をした場合はやむを得ない事由がある場合を基礎づける一因にはなりえるでしょう。
一方、契約期間満了時においても無条件で雇用契約を解消できるものではありません。労働契約法19条により、
①過去に労働契約が更新されたことがあり、更新しないことが正社員の労働契約を終了させることと同視できる場合
②当該有期労働契約者が更新を期待することに合理的な理由がある場合
のいずれかに該当する場合は、使用者の更新拒絶について、更新しないことについて客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には同一条件で労働契約が更新されてしまいます。
従って、更新の有無及び更新基準については雇用契約書において明記しておく必要があります。
すなわち、更新時における雇用契約書において次の更新はない旨や更新の限度(回数や年数)を事前に明らかにしておくことで労働者に更新の期待を抱かせないことも可能ですし、更新基準を明らかにしておくことで比較的客観的に更新が可能か不可能か判断することができます。
また、更新の有無及び更新基準については有期労働契約における労働条件の通知事項でもありますので、労働条件通知書にとどまらず、雇用契約書にも具体的に記載するべきです。
3 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
労働契約法20条では期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止が定められています。これにより契約期間の有無にかかわらず、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」といいます。)や人事異動や役割の変化(配置転換)の有無や範囲を考慮して労働条件を定めなければいけません。
つまり職務の内容や配置転換の有無・範囲の違いに応じた労働条件である必要があり不合理な待遇は許されません(均衡待遇)。なお、この労働条件とは賃金のことのみを指すのではなく、災害補償や服務規律、福利厚生等の労働者に対する一切の待遇のことを指します。
同様の規定はパートタイム労働法にも規定されており、上記均衡待遇の他に、職務の内容や配置転換の有無・範囲が同じ場合に差別的取り扱いを禁止する均等待遇も定められています。
なお、2020年4月1日から施行される「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」)ではパートタイム・有期雇用契約者共に均衡待遇及び均等待遇が法律上明記されることになります(それに伴い労働契約法20条は削除)。
従って、今後は基本給や賞与、各種手当はもちろんのこと、災害補償や福利厚生などもその性質や目的を考慮して、各個別の雇用契約に落とし込んでいく必要があり、漫然とこれまでの慣例に基づいた待遇は改める必要に迫られます。
グロース法律事務所では、働き方改革に対応した雇用契約書の作成・チェックを行っておりますので、ぜひ一度ご相談ください。

徳田 聖也

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