ノウハウ使用許諾契約書について弁護士が解説
1 はじめに
本稿では、「ノウハウ」のライセンス契約(使用許諾契約)について解説致します。
まず、「ノウハウ」とは、多義的に用いられている用語でもありますが、概ね技術的知識、営業秘密、企業秘密といった意味で用いられています。
法律に紐付けて考察した場合には、不正競争防止法において「営業秘密」という概念があり、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」(第2条6項)について法律上の保護がなされています。
したがいまして、「ノウハウ」はこのような「営業秘密」の一つにあたる場合もありますが、そうでないものも含んで用いられることがあります。
ノウハウは秘密性が本質であるため、この秘密にアクセスするための許諾を必要とするのが通常です。
また、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するノウハウに関しては、ライセンサーから、同法上の請求を受けないという意味も持つことになります。
ノウハウは方式主義によって保護されている特許権とは異なり、特定の難しいものでもあります。
契約書においては、まず、この契約においてライセンスの対象とする「ノウハウ」とは一体何か、というところから厳密に特定をしていく必要があります。
以下、重要な条文を解説致します。
2 条文解説
第1条(定義)本契約において、使用する用語の意味は以下のとおりとする。
(1) 「本件ノウハウ」 本件製品に関して、甲が本契約締結日現在保有している技術情報であって、本件製品を製造、加工するために必要な情報をいう。 (2) 「本件製品」 本件ノウハウを使用して製造される別紙目録記載の製品をいう。 |
冒頭の解説のとおり、特許権などのように番号が付与されているわけではありませんので、ノウハウの特定が必要です。ひな形はその一例です。
第2条(使用許諾)
1 甲は、乙に対して、本契約に定める条件に従って、乙が、本件ノウハウに基づき、日本国内において本件製品を製造し、販売する非独占的権利を許諾する(以下「本件ライセンス」という。)。 2 乙は、本件ライセンスに基づき、第三者に対して本件ノウハウを再使用許諾する権利を有しない。 |
ライセンスは、独占的ライセンスと非独占的ライセンスに分けることが出来ますが、その範囲で実施が許諾されているのか、明確に合意しておくことが重要です。特に子会社その他の関連会社に製造販売を委託することを予定しているのであれば、契約締結段階においてその可能性を示し、疑義が生じないように契約条項に盛り込んでいただく必要があります。
第3条(ノウハウの提供)
甲は、乙に対して、本契約締結後速やかに、本件ノウハウを記載した説明書を提供し、必要な技術指導を行うものとする。技術指導の内容及びスケジュールは別途協議の上定める。 |
ライセンシーからすれば、ノウハウが可視化され、製造する上において必要な技術支援を受ける必要があります。ひな形は比較的シンプルな内容ですが、より具体的な技術指導の内容、スケジュール、費用負担の有無等を交渉段階から協議し、契約条項に盛り込むことも検討して下さい。
第4条(対価)
1 乙は、甲に対して、本契約に基づく本件ライセンスの許諾の対価を、次の通り支払う。 (1) 契約一時金(イニシャルフィー)として○円(税別) (2) 乙が販売した本件製品の純販売価格の○%(税別) 2 乙は、本契約締結日から○日以内に、前項第1号に定める金額を、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。なお、振込手数料は乙の負担とし、以下本条において同様とする。 3 乙は、毎月1日から末日までに販売した本件製品の純販売価格に基づき算出される本条第1項第2号に定める金額を、翌月末日までに、甲の指定する銀行口座に振り込み支払う。 |
ライセンス料の計算方法につき、一時金と、継続支払の方式によって合意する場合のひな形です。ライセンス料の相場につき、定まったものがある訳ではありません。当該ノウハウ毎に判断いただく必要があります。
第5条(報告)
乙は、甲に対して、毎月1日から末日までに販売した本件製品の販売日時、販売先、販売数量、販売価格および純販売価格等を翌月○日までに集計の上、甲所定の書面により報告しなければならない。 |
ライセンサーにとって重要なことは、報告が正確になされるようにどのような担保がなされているかということです。ひな形では、「甲所定の書式」とし、虚偽報告が出来ない程度の情報記載を求めることによって担保しようとしていますが、必ずしも十分に担保されている訳ではありません。
乙の事務所内への立ち入り調査、乙の費用負担での甲が委託する会計士等による帳票類の調査を認めもらうなど、報告が正確になされるような心理的強制手段についても必要とされる場合があります。
第6条(改良技術)
1 乙は、本契約の有効期間中、本件ノウハウに関し取得した改良技術に関する情報を甲に通知するものとする。 2 乙は、前項に基づき甲に通知した改良技術に関する情報について、甲から要求がある場合には、別途協議の上合意した条件に基づいて、その使用許諾を行うものとする。この場合、当該改良技術が、特許権の対象となる発明または実用新案権の対象となる考案に該当する可能性があるときは、乙は、直ちにその旨を甲に通知し、その取扱いについて甲乙協議の上、対応を合意の上決定するものとする |
一定の技術情報に基づく製造、販売過程において、新たな改良技術が発生することがあります。顧客からのフィードバックなども踏まえると、むしろ通常改良技術が生じると言っても過言ではありません。
この場合、ライセンサーとしても、改良技術を用いることが出来るよう、予め必要な取り決めをしておくことが重要です。
第7条(侵害の排除)
1 乙は、本件ノウハウが第三者により侵害され、または、侵害されるおそれのあることを知ったときは、直ちに甲に対して、その旨を通知する。 2 乙は、甲において第三者に対する訴訟提起その他の法的手段を講じる場合には、甲の求めに応じ、必要な協力を行うものとする。 |
ノウハウの価値を維持することはライセンサーにとってもライセンシーにとっても重要であり、侵害排除の協力を行っていくことを合意・確認する条項です。
第三者のノウハウ侵害によって、不当に競合製品が流通した場合には、ライセンシーの製品販売に影響を及ぼし、結果、ライセンサーも本来期待できたはずのライセンス料が得られなくなるリスクが生じます。よって、速やかに法的手続等の対応がとれるよう協力体制を契約書上も明らかにしておくことは重要です。
その他秘密保持義務等他の契約においても必要な条項はありますが、ノウハウの使用許諾契約において重要な内容は以上のとおりですので、契約締結上の参考となれば幸いです。
ひな形のダウンロードはこちら

谷川安德

最新記事 by 谷川安德 (全て見る)
「ノウハウ使用許諾契約書について弁護士が解説」の関連記事はこちら
- 「利用規約」を契約内容とするための留意点を弁護士が解説
- WEBサイト製作業務委託契約書について
- システム開発委託契約書について
- ノウハウ使用許諾契約書について弁護士が解説
- プライバシーポリシーはなぜ必要?契約書に詳しい弁護士が解説
- フランチャイズ契約における契約審査上の留意点・チェックポイント~総論~
- フリーランス新法が成立しました ~「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」~
- ライセンス契約について
- 不動産売買契約書とは
- 事業譲渡契約書のポイント・留意点を弁護士が解説
- 入社誓約書のポイント
- 労働契約と業務委託契約の違いと留意点
- 反社会的勢力排除に関する契約書・誓約書の作り方を弁護士が解説
- 取引基本契約書について
- 売買契約書とは
- 外国人の雇用契約書
- 契約書のサンプルに潜むリスク
- 契約書のチェックプラン
- 契約書をめぐるトラブルと回避のためのチェックポイント
- 契約社員・パート社員の雇用契約書
- 建設工事請負契約締結時の注意点
- 懲戒処分ではない業務指導の履歴についてのポイント ~能力不足を例に~
- 新型コロナウイルスの感染拡大と債務不履行責任に関する諸問題~企業間取引~
- 新型コロナウイルスの感染拡大と債務不履行責任に関する諸問題~企業間取引の契約書~
- 新型コロナウイルス感染拡大と賃貸借契約に関する諸問題について
- 業務委託契約において注意すべき下請法 ~その1 下請法とは何か、下請法違反で契約はどうなる?
- 業務委託契約において注意すべき下請法 ~その2 下請法の規制対象となる事業者、取引内容
- 業務委託契約において注意すべき下請法 ~その3 親事業者の義務
- 業務委託契約において注意すべき下請法 ~その4 親事業者の禁止行為
- 業務委託契約書とは
- 業務提携契約書について
- 法務担当者の退職対応と突然の退職に備えた法務体制
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)対応の業務委託契約について解説
- 秘密保持契約の目的から考える!~どのような場面で、誰との間で必要か~
- 秘密保持契約書とは
- 秘密保持誓約書のポイントを弁護士が解説
- 著作権譲渡契約書
- 販売代理店契約のいろいろ ~厳密に使い分けるために知っておくべきポイント~
- 販売代理店契約を締結するに当たって理解しておくべき法知識
- 販売代理店契約書とは その①
- 販売代理店契約書とは その②
- 販売代理店契約書ひな形解説~購入販売型編~
- 賃貸借契約書とは①
- 賃貸借契約書とは②(原状回復義務)
- 金銭消費貸借書
- 雇用契約書
- 雇用契約書・労働条件通知書のポイント
- 顧問契約書/コンサルタント契約書
- 契約書の作成
グロース法律事務所が
取り扱っている業務
新着情報
- 2023.08.30お知らせ
- 「税理士×弁護士」インボイス制度と中小企業が気をつけるべき独占禁止法・下請法ポイント解説セミナー 2023.11.16
- 2023.07.23お知らせ
- 【実施済み】従業員との合意書・誓約書と就業規則の最低基準効セミナー 2023.09.14
- 2023.07.20お知らせ
- 【実施済み】顧客従業員の引き抜きを許さない「競業避止対策」セミナー 2023.08.23
- 2023.04.27お知らせ
- 2023.05.18開催予定セミナー・会議室変更のお知らせ
- 2023.04.24お知らせ
- 【実施済み】退職トラブルを回避するために 必要な労務管理~顧客対応時の重要チェックポイント~ 2023.06.15