残業代請求事件における使用者側の反論
一口に残業代請求事件といっても、タイムカードに基づく請求で労使共に時間外労働に対して争いのない事例もあれば、時間外労働自体が争われる事例、時間外労働に争いはないけれども、管理監督者であることが争われる事例など、多種多様な紛争の形態があります。
ここでは、主に使用者側の視点にたって、労働者から残業代請求がなされた場合に、どのような反論があり得るのか、まとめて解説したいと思います。
労働者側の時間外労働に対する主張について
労働者側の時間外労働の主張に対しては、そもそも労働者側が主張する時間が「労働時間」と言えるかどうか、という問題が生じることがあります。
「労働時間」の考え方については、既に最高裁判例(三菱重工業長崎造船所事件・平成12年3月9日労判778号)があり、これによれば、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に決まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めいかんにより決定されるべきものではない」と判示されています。
使用者側として留意すべきは、必ずしも明示の業務命令に限らないということです。つまり、黙示にでも業務命令を行ったと認められるような事実関係があれば、指揮命令下の労働と認定されますので、明示の業務命令はしていない、ということ自体ではすべての反論を尽くしたこととはなりません。
タイムカード打刻時間以外の時間や休憩時間などについて、「労働時間」であると主張されるケースがありますので、まずは、上記の最高裁判例に従って、「労働時間」と認められるのかどうか、が使用者側の第1の反論ポイントとなります。
また、そのような「労働時間」において、労働者が実際は労働していなかったというケースもありますので、これも、使用者側の反論としてなされることがあります。
時間外労働の主張がひとまず認められる場合の反論
このような時間外労働の主張がなされたケースにおいて、ひとまず労働者側の時間外労働についての主張が認められるという場合でも、使用者側としては,労働者との合意や役職等から、以下のような内容で争うことが可能となる場合があります。
詳しくはそれぞれの項目にて、解説致しますが、近時の判例や労働者との合意、就業規則の記載等々、時間外労働の主張に対する以下の反論は、それほど簡単な反論ではありません。平常時からの労務管理としても、改めての見直しを行ってみてください。
□ 固定残業代として支払いを行っている
□ 管理監督者である
□ 裁量労働制である
□ 事業場外みなし労働時間制である
□ 変形労働時間制を採用している
□ フレックスタイム制を採用している
□ 時効が到来している
□ 合意によって相殺することとしていた労働者に対する債権がある

谷川安德

最新記事 by 谷川安德 (全て見る)
「残業代請求事件における使用者側の反論」の関連記事はこちら
- 「事業場外みなし労働時間制」による反論
- いよいよ義務化されるパワーハラスメント防止措置~今から求められる事業主の対応
- テレワーク導入と就業規則の関係
- 事業場みなし労働時間制と裁量労働制
- 使用者の安全配慮義務違反による責任の範囲
- 働き方改革で変わる割増賃金請求への対応策
- 内定をめぐるトラブルを避けるために
- 労働時間の管理
- 労働条件の通知をめぐるトラブル対策
- 労働者の安全衛生
- 労働関係法令上の帳簿等の種類と、その保存期間について
- 労働関係訴訟
- 労基署対応のポイント
- 同一労働同一賃金~不合理な待遇差の診断、対応プラン
- 同一労働同一賃金とは?制度の趣旨・概要や2021年度法改正に向けた対応内容について解説
- 同一労働同一賃金における賞与と退職金の取扱いの注意点
- 団体交渉・労働組合対策(法人側)
- 固定残業代
- 変形労働時間制
- 就業規則のリーガルチェック
- 年次有給休暇
- 従業員のSNS対策
- 新型コロナウイルス感染予防のための休業・時短勤務命令による賃金支払い対応プラン
- 新型コロナウイルス感染予防を原因とする休業・時短勤務命令と賃金について
- 新型コロナウイルス感染拡大と賃貸借契約に関する諸問題について
- 新型コロナウイルス感染症と企業に求められる個人情報保護
- 新型コロナウイルス感染症に関して企業がとるべき対応 ~労働者を休ませる場合の措置に関する留意点~
- 新型コロナウィルス感染症の影響による解雇について
- 新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について
- 新型コロナウイルス感染症対策として企業に求められる安全配慮義務
- 新型コロナウィルス感染症対策にかかる雇用調整助成金について
- 新型コロナウイルス感染症影響下における年次有給休暇の取得について
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『下請法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『個人情報保護法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『労務問題・労務管理』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『契約』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『株主総会』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『資金繰り・倒産・事業再生』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時に中小企業が利用可能な資金支援について
- 新最高裁判例紹介~同一労働同一賃金
- 残業代問題
- 残業代請求とは
- 残業代請求に対する使用者側の反論(各論)
- 残業代請求事件における使用者側の反論
- 異動(出向・転籍・配置転換)
- 経歴詐称が判明した社員を懲戒解雇することができるか
- 育児・介護休暇、休業
- 裁量労働制を採用する使用者の反論
- 解雇
- 試用期間とは何か?
- 試用期間と解雇・本採用拒否のご相談
- 賃金の支払いについて
- 資金繰り対策として当面可能と考えられる支出抑制策
- 退職勧奨
- 退職後の競業避止義務について
- 過重労働撲滅特別対策班(かとく)の監督指導・捜査
- 労働審判の申立にどのように対応すべきか?
グロース法律事務所が
取り扱っている業務
新着情報
- 2021.04.13お知らせ
- 社会保険労務士様向け勉強会~残業代請求~ 2021.06.10
- 2021.04.12お知らせ
- 残業代請求対応セミナーのお知らせ 2021.05.27
- 2021.04.12お知らせ
- 【実施済み】人事労務問題勉強会のお知らせ 2021.03.16
- 2021.04.12お知らせ
- 【実施済み】新型コロナ禍における問題社員対応の実務セミナーのお知らせ 2021.02.25
- 2021.03.19お知らせ
- 事業承継勉強会 第3回 2021.3.18