退職後の競業避止義務について
企業のノウハウ等に接した従業員が退職する場合、企業が、当該従業員が同業他社に転職することで、ノウハウが流出することを防ぎたいと考えるのは、当然です。一方で、退職をした従業員にも、退職後は職業選択の自由があり、諸判例において、競業避止義務に関する就業規則や契約の効力は、制限的に判断されてきました。
よくある就業規則の例としては、
第○○条 従業員は在職中及び退職後 6ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業避止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。 |
といった規定があります。
短い規定ですが、ここに書かれているポイントは以下のとおりです。
① 在職中及び退職後の競業避止義務を定めていること
② 退職後の競業避止義務の期間を6か月としていること
③ 競合する他社について地域的な限界を設けていないこと
④ 従業員がどのような地位の者であったかの限界がないこと
⑤ 禁止される行為が包括的であること
⑥ 代償措置のないこと
⑦ 就業規則と別に、個別に競業避止に関する契約を結ぶ場合があることを明確に規定すること
によって、就業規則以上の義務を当該契約によって定めても、当該契約が有効となることに疑義を生じさせないようにすること
です。
諸判例においても、このようなポイントのうち、特に②から⑥について、就業規則の規定がどのようになっているか、当該労働者との契約内容がどのようになっているか、という複数の視点から、契約の有効性が判断されてきました。
②について言えば、1年以内の禁止期間については、比較的短期として認められやすい傾向ある一方、2年を超える場合には、他の要素との総合考慮とはなりますが、その有効性を認めない判例も存在します。
企業のノウハウ等の流出を防ぐために、ただただ厳しい規定を設ければ良いということではありません。どのような守られるべき利益が企業にあり、それに接する従業員に対して、どの期間、どの場所的範囲で、どのような条件下に競業避止を求めるのか。
厳密な制度設計が必要ですので、貴社に合わせた対応をご検討ください。

Contents
谷川安德

最新記事 by 谷川安德 (全て見る)
「退職後の競業避止義務について」の関連記事はこちら
- 「事業場外みなし労働時間制」による反論
- いよいよ義務化されるパワーハラスメント防止措置~今から求められる事業主の対応
- テレワーク導入と就業規則の関係
- 事業場みなし労働時間制と裁量労働制
- 使用者の安全配慮義務違反による責任の範囲
- 働き方改革で変わる割増賃金請求への対応策
- 内定をめぐるトラブルを避けるために
- 労働時間の管理
- 労働条件の通知をめぐるトラブル対策
- 労働者の安全衛生
- 労働関係法令上の帳簿等の種類と、その保存期間について
- 労働関係訴訟
- 労基署対応のポイント
- 同一労働同一賃金~不合理な待遇差の診断、対応プラン
- 同一労働同一賃金とは?制度の趣旨・概要や2021年度法改正に向けた対応内容について解説
- 同一労働同一賃金における賞与と退職金の取扱いの注意点
- 団体交渉・労働組合対策(法人側)
- 固定残業代
- 変形労働時間制
- 就業規則のリーガルチェック
- 年次有給休暇
- 従業員のSNS対策
- 新型コロナウイルス感染予防のための休業・時短勤務命令による賃金支払い対応プラン
- 新型コロナウイルス感染予防を原因とする休業・時短勤務命令と賃金について
- 新型コロナウイルス感染拡大と賃貸借契約に関する諸問題について
- 新型コロナウイルス感染症と企業に求められる個人情報保護
- 新型コロナウイルス感染症に関して企業がとるべき対応 ~労働者を休ませる場合の措置に関する留意点~
- 新型コロナウィルス感染症の影響による解雇について
- 新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について
- 新型コロナウイルス感染症対策として企業に求められる安全配慮義務
- 新型コロナウィルス感染症対策にかかる雇用調整助成金について
- 新型コロナウイルス感染症影響下における年次有給休暇の取得について
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『下請法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『個人情報保護法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『労務問題・労務管理』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『契約』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『株主総会』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『資金繰り・倒産・事業再生』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時に中小企業が利用可能な資金支援について
- 新最高裁判例紹介~同一労働同一賃金
- 残業代問題
- 残業代請求とは
- 残業代請求に対する使用者側の反論(各論)
- 残業代請求事件における使用者側の反論
- 異動(出向・転籍・配置転換)
- 経歴詐称が判明した社員を懲戒解雇することができるか
- 育児・介護休暇、休業
- 裁量労働制を採用する使用者の反論
- 解雇
- 試用期間とは何か?
- 試用期間と解雇・本採用拒否のご相談
- 賃金の支払いについて
- 資金繰り対策として当面可能と考えられる支出抑制策
- 退職勧奨
- 退職後の競業避止義務について
- 過重労働撲滅特別対策班(かとく)の監督指導・捜査
- 労働審判の申立にどのように対応すべきか?
グロース法律事務所が
取り扱っている業務
新着情報
- 2021.04.13お知らせ
- 社会保険労務士様向け勉強会~残業代請求~ 2021.06.10
- 2021.04.12お知らせ
- 残業代請求対応セミナーのお知らせ 2021.05.27
- 2021.04.12お知らせ
- 【実施済み】人事労務問題勉強会のお知らせ 2021.03.16
- 2021.04.12お知らせ
- 【実施済み】新型コロナ禍における問題社員対応の実務セミナーのお知らせ 2021.02.25
- 2021.03.19お知らせ
- 事業承継勉強会 第3回 2021.3.18