新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について
新型コロナウイルス対策により、労働者の時差出勤を検討・実施されておられる事業主も多く、ご相談も増えております。本稿では時差出勤を実施する際の留意点を記載いたします。
始業・終業時間変更の可否
時差出勤を導入するには始業時刻、終業時刻を変更することになりますが、始業時刻・終業時刻は就業規則の絶対的記載事項であり(労基法第89条)、休憩時間(休憩時刻)も含めて通常は労働契約の内容に定められています。
従って、時差出勤導入にあたっては、具体的な始業時刻・終業時刻について労働契約の変更として、労働者との間で合意を行うことが原則として必要になります。
ただし、多くの就業規則において始業時刻・終業時刻について変更できる旨が規定されていることが多く、そのような規定がある場合は合意なくして時差出勤を命じることが可能です。なお、就業規則に時差出勤を命じることができる場合について具体的な記載がある場合は、新型コロナウイルス感染症対策による時差出勤が当該要件を満たすか否かの検討は必要になります。
例えば厚生労働省のモデル就業規則例では始業・終業時刻の変更について「ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、または繰り下げることがある。この場合、前日までに労働者に通知する。」と例示されています。
当該内容の就業規則であれば、新型コロナウイルス感染症対策による時差出勤が「その他やむを得ない事情」に該当するかが問題となりますが、新型コロナウイルス感染症対策としていわゆる3密を避けることが要請されており、通勤電車等の混雑を避けるために時差出勤が推奨されていることからすると、電車通勤以外の方法をとることが現実的ではない労働者については時差出勤を命じることは「その他やむを得ない事情」に該当すると言えます。なお、あくまでも新型コロナウイルス感染症対策として時差出勤を命じる場合に「その他やむを得ない事情」該当することから、新型コロナウイルス感染症終息後は「その他やむを得ない事情」に該当しないことが考えられることから、新型コロナウイルス感染症対策をきっかけに恒久的に始業・終業時刻を変更する場合は、やはり労働者との合意が必要になると考えられます。
時差出勤時の時間外労働割増賃金について
時間外労働の割増賃金が発生するのは、就業規則にて別途定めがない場合には、法定労働時間(一日8時間、週40時間)を超える場合です。従って、時差出勤導入にあたり、始業時刻・終業時刻を繰り上げ、繰り下げを行うのみで、労働時間に変更がない場合は、時間外労働の割増賃金は発生しません。
ただし、就業規則にて、法定労働時間を超えない場合でも所定の労働時間を超えた場合に割増賃金が発生する旨の定めがある場合は、当然当該規定が適用されますのでご注意ください。
なお、始業時刻・終業時刻を繰り上げまたは繰り下げた結果、労働時間が午後10時から午前5時にまたがる場合は、法定労働時間を超えていない場合でも深夜業に対する割増賃金は発生することにご留意ください。
まずは各労働者の事情に合わせた話し合いを
時差出勤導入による始業時刻・終業時刻の変更は、労働者の生活習慣等を変更する必要があるものであり大きな影響を与える可能性があります。これら個別の事情を無視して安易に時差出勤を導入すると、労働者のモチベーションの低下や生産性の低下を招きかねません。新型コロナウイルス感染症対策として、会社にて時差出勤を導入する場合でも、時差出勤の適用の有無や適用する場合の繰り上げ・繰り下げの時刻について、まずは個別の労働者と十分な話し合いを行うことが重要です。

徳田 聖也

最新記事 by 徳田 聖也 (全て見る)
- 事業承継勉強会 第1回 2020.12.22 - 2020年12月30日
- 新型コロナウィルス感染症に関して企業が取るべき対応~株主総会の開催に関する留意点~ - 2020年3月16日
- 新型コロナウィルスへの対応に関するご相談について - 2020年3月9日
「新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について」の関連記事はこちら
- 「事業場外みなし労働時間制」による反論
- いよいよ義務化されるパワーハラスメント防止措置~今から求められる事業主の対応
- テレワーク導入と就業規則の関係
- 事業場みなし労働時間制と裁量労働制
- 使用者の安全配慮義務違反による責任の範囲
- 働き方改革で変わる割増賃金請求への対応策
- 内定をめぐるトラブルを避けるために
- 労働時間の管理
- 労働条件の通知をめぐるトラブル対策
- 労働者の安全衛生
- 労働関係法令上の帳簿等の種類と、その保存期間について
- 労働関係訴訟
- 労基署対応のポイント
- 同一労働同一賃金~不合理な待遇差の診断、対応プラン
- 同一労働同一賃金とは?制度の趣旨・概要や2021年度法改正に向けた対応内容について解説
- 同一労働同一賃金における賞与と退職金の取扱いの注意点
- 団体交渉・労働組合対策(法人側)
- 固定残業代
- 変形労働時間制
- 就業規則のリーガルチェック
- 年次有給休暇
- 従業員のSNS対策
- 新型コロナウイルス感染予防を原因とする休業・時短勤務命令と賃金について
- 新型コロナウイルス感染拡大と賃貸借契約に関する諸問題について
- 新型コロナウイルス感染症と企業に求められる個人情報保護
- 新型コロナウイルス感染症に関して企業がとるべき対応 ~労働者を休ませる場合の措置に関する留意点~
- 新型コロナウィルス感染症の影響による解雇について
- 新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について
- 新型コロナウイルス感染症対策として企業に求められる安全配慮義務
- 新型コロナウィルス感染症対策にかかる雇用調整助成金について
- 新型コロナウイルス感染症影響下における年次有給休暇の取得について
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『下請法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『個人情報保護法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『労務問題・労務管理』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『契約』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『株主総会』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『資金繰り・倒産・事業再生』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時に中小企業が利用可能な資金支援について
- 新最高裁判例紹介~同一労働同一賃金
- 残業代問題
- 残業代請求とは
- 残業代請求に対する使用者側の反論(各論)
- 残業代請求事件における使用者側の反論
- 異動(出向・転籍・配置転換)
- 経歴詐称が判明した社員を懲戒解雇することができるか
- 育児・介護休暇、休業
- 裁量労働制を採用する使用者の反論
- 解雇
- 試用期間とは何か?
- 試用期間と解雇・本採用拒否のご相談
- 賃金の支払いについて
- 資金繰り対策として当面可能と考えられる支出抑制策
- 退職勧奨
- 退職後の競業避止義務について
- 過重労働撲滅特別対策班(かとく)の監督指導・捜査
- 労働審判の申立にどのように対応すべきか?
グロース法律事務所が
取り扱っている業務
新着情報
- 2021.01.14お知らせ
- 緊急事態宣言発令に伴う電話受付時間等変更のお知らせ
- 2020.12.30お知らせ
- 事業承継勉強会 第1回 2020.12.22
- 2020.12.30お知らせ
- 年末年始の休業期間お知らせと緊急のご相談について
- 2020.11.18お知らせ
- 【ご報告】同一労働同一賃金10月最高裁判決解説セミナーの講演動画を公開します
- 2020.10.19お知らせ
- 【実施済み】パワハラ防止法対策セミナーを医療法人朋友会様・社会保険労務士法人IMI様と開催しました