問題社員への対応のポイント ~企業経営者が身についておくべき基本方針~
1 こんな問題社員はいませんか?
問題社員にはいくつかの類型があります。
大きく分けると、わざと(故意に)問題を引き起こしている問題社員、わざととまでは言えないが過失等によって問題を引き起こしてる問題社員に分けることが出来ますが、より具体的には、また比較的相談の多い類型としては以下のような例を挙げることが出来ます。
① 能力不足
・当然このレベルまで出来ると思って採用したのに
・他の社員が代わりに対応する始末
・指導しても能力が向上しない
② 協調性の欠如、勤務態度不良
・社内の規則を守らない
・上司の指導に従わない
・遅刻の繰り返し
③ 不必要な残業
・残業は許可制であるのに無断で残業している。人件費がかさむ。
④ 情報漏えい
・営業秘密を同業他社に漏えいしている
・営業秘密を顧客に漏えいしている
⑤ ハラスメントを繰り返す社員
・パワーハラスメントにあたることを注意指導したが改善しない社員がいる。
⑥ SNSを利用した不適切投稿
・会社の悪評を個人のFacebookに投稿している
2 問題社員を放置するリスク
これら問題社員への対応については、当然、会社にとってのリスクが存在します。
① 会社に生じる損害
まず、会社に生じる損害としては、問題のある社員に対しても、約定の100%の給料を支払う必要があることから(懲戒処分としての減給等を行う場合は別とします)、それ自体が会社にとっての損害と言えます。
また、問題社員の行動によって交渉上のミスが生じてしまった場合や、顧客に対する関係でトラブルを引き起こしてしまったようなケースでは、契約上の損害賠償リスクや、信用失墜といったリスクが生じます。
② 有能社員の離職
また、問題社員がいる場合、多くのケースでは他の社員がその不足をカバーするなどしています。これによって、他の有能な社員の負担が増え、あるいはモチベーションの低下につながるなどの結果、有能な社員が離職し、問題社員が会社に残るといったケースも見られます。
③ 解雇等対応の遅れ
さらに、初動や注意指導等の履歴作りを誤ると、いざ解雇に踏み切ろうとした際にも、解雇無効のリスクが高すぎ、思い切って解雇したものの、後日の裁判で解雇無効の判断がなされる、それによって遡って給料を支払う必要が生じた、などという例も存します。
3 問題社員への対応方法
これら問題社員への対応方法は一概にというわけではありません。類型毎の特殊性に応じ、より厳密に段階や指導を踏まなければならないケースや、証拠収集に特殊性があるケース、一方で思い切って懲戒解雇に踏み切っても可能と判断されるようなケースもあります。
本稿ではいくつかの類型別に問題社員対応のポイントを解説致します。
① 能力不足、協調性の欠如、勤務態度不良
この類型で特定が難しいのは、労働契約時に約束した能力の程度と現状がどの程度違っているのか、不足しているのか、何をもって協調性の欠如と考え、また不良と判断しているのか、という点です。
主観的になりがちな内容であるため、中止指導の際には、具体的事実を示し、労働者においてもそれが協調性を欠く行動であること、あるいは能力不足であると認識していること、を記録化しておくことが重要です。
また、懲戒処分を行うとしても、特に解雇に踏み切る場合には、より慎重なステップを踏む必要があります。特に新卒社員の場合には、もともと能力が100%ではないことが前提と言えますし、変わりつつありますが終身雇用の日本型の会社においては、会社として従業員教育を繰り返し行っていくこともある程度想定していると評価されがち です。
したがって、注意指導、軽微な懲戒処分としての戒告等、それでもという場合の懲戒解雇といったように相当程度の段階が求められる類型といえます。
② 不必要な残業
不必要な残業に対しては、会社としてはそれが許可していない残業であること、よって労働時間として認めないという主張をしていく必要があります。
この点で、就業規則上、残業が許可制となっているから、ということで安易に残業代の支払いを拒むことは紛争リスクを生じさせます。裁判例をみても、単に許可制にしているということだけではなく、それを実態に合わせて徹底していたかが問われています。よって、例えば、残業しているところを見かけても注意しない、許可制を徹底するような社内アナウンスをしていないといったケースでは、残業代の支払いを命じる判 決も出ています。
高額の人件費の支払いに直結する問題であり、対応を間違えると大きな損害につながります。
③ 情報漏えい
情報漏えいのケースは、概ね社員がわざと秘密とされている情報を漏えいしているため、懲戒処分相当となる行為が多いと考えられます。
但し、何をもって営業上の「秘密」であるのか、「秘密」の対象範囲が不明確な場合には、会社の中の情報すべてを秘密と考えざるを得なくなりますが、会社の主張としてはそのように考えても、裁判実務では必ずしも、社内で接した情報すべてを秘密とは認定してくれません。
そのためには、入社時の誓約書、就業規則、社内の情報管理規程などを整備し、「秘密」の範囲をある程度具体的に明確にしておくことが重要です。
そのうえで、漏えいによって生じる会社の損害の程度によっては、1回の漏えい行為であったとしても懲戒解雇が認められるケースもあると思われます。
4 よく相談いただく内容
上記類型の相談は弊所でも多い相談内容ですが、会社として対応したい内容としては多くの場合、解雇したい、という内容です。
しかし、解雇についてはご承知のように解雇権濫用法理によって、解雇できる場合が極めて限定されています。仮に解雇に踏み切るとしても、一気に出来るものではなく、初動、そして継続的な対応が極めて重要です。
弊所では、ご相談時点での希望される対応方針を伺ったうえ、現時点で可能なこと、そして最終的に希望内容の対応を行うとしてもどういった段階や証拠が必要かを具体的にアドバイスさせていただきます。
また、初期の相談段階から、継続的なフォローを行わせていただいております。必要に応じ、顧問契約もご利用下さい。
問題社員分野に関するグロース法律事務所の提供サービスのご紹介と費用
〇注意指導等をどのように行うべきか。
・事案に応じた各種書式の作成・提供等
(費用の目安)
5万5000円~
顧問契約先様の場合、ひな形提供、若干の修正は顧問料内
〇退職勧奨をどのように行うべきか。
・従前の対応の確認、事案の把握
・スケジューリング、Q&A、当日の具体的対応
・事後対応
(費用の目安)
継続案件の場合は、11万円(税別)~又はタイムチャージ
〇懲戒処分をどのように行うべきか。
・従前の対応の確認、事案の把握
・弁明の機会の対応
・懲戒処分通知書等の作成フォロー
(費用の目安)
継続案件の場合は、11万円(税別)~又はタイムチャージ
〇訴訟対応
訴額等に応じて算定
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谷川安德

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