育児介護休業法の改正対応について
Contents
1 はじめに
育児介護休業法については、令和3年6月に改正が行われ、令和4年4月1日・同年10月1日・令和5年4月1日の3段階に分けて施行されます。
このうち、令和5年4月1日に施行される育児休業取得状況の公表義務(当該義務は従業員数1000人超えの事業主に限られる)以外は全ての事業主の義務であり、就業規則の変更等の対応が必要となりますので、注意が必要です。
本稿では施行日ごとに改正内容を解説いたします。
2 令和4年4月1日施行について(産後パパ育休に関するものは10月1日から)
(1) 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
従前から定められている育児休業と本改正で新たに定められた出生時育児休業(産後パパ育休(後述参照))の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
①育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する研修の実施
②育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
③自社の労働者の育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)取得事例の収集・提供
④自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
これらの措置は複数行うことが望ましいとされています。
①の研修の実施については、全労働者を対象とすることが望ましいですが、少なくとも管理職は、研修を受けたことがある状態にすることが求められています。
②の相談窓口の設置については、実質的な対応が可能な窓口を置くと共に当該窓口を周知させることが必要です。
③の事例収集及び提供については、自社内での書類の配布やイントラネットへの掲示により従業員が閲覧できるようにすることを意味します。
④の方針の周知については、いかなる制度があるのか、促進に関する会社の方針を事業所内やイントラネットへの掲示により行うことを意味します。
(2) 個別の制度周知・休業取得意向確認
本人または配偶の妊娠・出産を申し出た労働者(有期雇用労働者も含みます)に対して、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業取得の意向確認の措置を、個別に行わなければなりません。
①育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する制度
②育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)の申出先
③育児休業給付に関すること
④労働者が育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)期間に負担すべき社会保険料の取扱い
周知・意向確認の方法は、面談(オンライン可)・書面交付・FAX・電子メール等のいずれかによりますが、FAXと電子メール等による方法は労働者が希望した場合に限られます。
(3) 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
従前は育児・介護休業共に、有期雇用労働者が取得するためには「引き続き雇用された期間が1年以上」との要件が定められていました。今回の改正により当該要件は撤廃されました。
従って有期雇用労働者は雇用期間が1年に満たない場合でも「子が1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない」場合を除いて育児休業を取得することが可能となります。
同様に有期雇用労働者が雇用期間が1年に満たない場合でも「介護休業開始予定日から起算して、93日経過日から6か月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない」場合を除いて介護休業を取得することが可能です。
当該改正については、育児・介護休業の取得について従前の法令と同様に「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件を記載されていることがあり得ます。当該記載がある場合は就業規則を変更する必要があり、対応が必要です。
なお、無期雇用労働者と同様に引続き雇用された期間が1年未満の労働者を労使協定によって育児・介護休業取得の対象から除外することは可能です。
2 令和4年10月1日施行について
(1) 出生時育児休業(産後パパ育休)の創設
出生時育児休業(産後パパ育休)とは、産後休業をしていない労働者が原則出生後8週間以内の子を養育するために取得する休業のことで、本改正により新たに創設されました。
対象労働者は産後休業をしていない労働者(日々雇用されるものを除きます)であり、主に男性が対象ですが養子の場合は女性も対象となります。
有期雇用労働者の場合、申出時点で子の出生日又は出産予定日のいずれか遅い方から起算して8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない者に限られます。
また、労使協定により、入社1年未満の者・申出の日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外とすることが可能です。
取得可能日数は、子の出生後8週間以内に4週間(28日)を、分割して上限2回まで取得することが可能です。ただし分割する場合は初めにまとめて申し出ない場合、事業主は後から行われた申出を拒むことができます。
なお、労使協定を締結したうえで、個別に労働者と合意した範囲で休業中に就業することが可能です。
(2) 育児休業の分割取得
これまでは原則として育児休業は分割して取得することができませんでしたが、本改正により1歳までの育児休業について、分割して2回取得することが可能となりました。
また、従前は1歳以降の育児休業の開始日は、各期日の初日に限られていましたが(1歳6か月までの育児休業は1歳到達日の翌日、2歳までの育児休業は1歳6か月到達日の翌日)、改正法により配偶者が1歳以降の育児休業を取得する場合は、配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前を本人の育児休業開始日にできることとなりました。これにより1歳以降の育児休業について夫婦で途中交代を行うことが可能となります。
3 令和5年4月1日施行について
育児休業取得状況の公表の義務化
常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1回公表することが義務付けられます。
公表すべき具体的な内容は、公表を行う日の属する事業年度(会計年度)の直前の事業年度(公表前事業年度)の男性の「育児休業等の取得割合」又は「育児休業等と育児目的休暇の割合」です。
公表については、インターネットの利用その他適切な方法で、一般の人が閲覧できるようにすることが必要です。自社のホームページの他、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表することも推奨されています。
4 グロース法律事務所のサポート内容
以上のとおり、今回の改正では就業規則等の変更が必要になることがあると共に、事業主が行うべきことが多くあり、実際の対応が必要となります。グロース法律事務所ではこのような改正に合わせた労務体制構築のアドバイスを行っておりますので、ぜひお問い合わせください。

growth 法律事務所

最新記事 by growth 法律事務所 (全て見る)
- 「税理士×弁護士」インボイス制度と中小企業が気をつけるべき独占禁止法・下請法ポイント解説セミナー 2023.11.16 - 2023年8月30日
- 【実施済み】従業員との合意書・誓約書と就業規則の最低基準効セミナー 2023.09.14 - 2023年7月23日
- 【実施済み】顧客従業員の引き抜きを許さない「競業避止対策」セミナー 2023.08.23 - 2023年7月20日
「育児介護休業法の改正対応について」の関連記事はこちら
- 「事業場外みなし労働時間制」による反論
- 10か月間の使用期間は認められるのか?についての相談事例
- いよいよ義務化されるパワーハラスメント防止措置~今から求められる事業主の対応
- テレワーク導入と就業規則の関係
- トラブルにならない為の退職合意書のポイントを弁護士が解説 ~紛争事例を前提に~
- ハラスメント
- メンタル不調社員への対応 ~休職制度と治癒についての留意点~
- 事業場みなし労働時間制と裁量労働制
- 令和6年4月から労働条件明示のルールが変わります
- 企業が定める休職規定について
- 使用者の安全配慮義務違反による責任の範囲
- 使用者側弁護士による労務コンサルティング
- 働き方改革で変わる割増賃金請求への対応策
- 入社時誓約書に関する解説
- 内定をめぐるトラブルを避けるために
- 副業・兼業の促進に関するガイドラインについて
- 労使協定の締結について
- 労働時間の管理
- 労働条件の不利益変更の実務~休職事由の追加~
- 労働条件の不利益変更の実務~固定残業代の手当減額の可否と限界~
- 労働条件の通知をめぐるトラブル対策
- 労働者の安全衛生
- 労働関係法令上の帳簿等の種類と、その保存期間について
- 労働関係訴訟
- 労基署対応のポイント
- 同一労働同一賃金~不合理な待遇差の診断、対応プラン
- 同一労働同一賃金とは?制度の趣旨・概要や2021年度法改正に向けた対応内容について解説
- 同一労働同一賃金における賞与と退職金の取扱いの注意点
- 問題社員への対応のポイント ~企業経営者が身についておくべき基本方針~
- 団体交渉・労働組合対策(法人側)
- 固定残業代
- 変形労働時間制
- 定年制度について弁護士が解説
- 就業規則のリーガルチェック
- 年次有給休暇
- 従業員のSNS利用への対策
- 従業員の服装等を問題とする懲戒処分の可否について
- 懲戒処分に必要な適正手続~懲戒処分が無効とされないためのポイント~
- 新型コロナウイルス感染予防のための休業・時短勤務命令による賃金支払い対応プラン
- 新型コロナウイルス感染予防を原因とする休業・時短勤務命令と賃金について
- 新型コロナウイルス感染症に関して企業がとるべき対応 ~労働者を休ませる場合の措置に関する留意点~
- 新型コロナウィルス感染症の影響による解雇について
- 新型コロナウイルス感染症対策としての時差出勤の実施について
- 新型コロナウイルス感染症対策として企業に求められる安全配慮義務
- 新型コロナウィルス感染症対策にかかる雇用調整助成金について
- 新型コロナウイルス感染症影響下における年次有給休暇の取得について
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『下請法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『個人情報保護法』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『労務問題・労務管理』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『契約』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『株主総会』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時における『資金繰り・倒産・事業再生』
- 新型コロナウイルス感染症拡大時に中小企業が利用可能な資金支援について
- 新最高裁判例紹介~同一労働同一賃金
- 残業代問題
- 異動(出向・転籍・配置転換)
- 経歴詐称が判明した社員を懲戒解雇することができるか
- 育児・介護休暇、休業
- 育児・介護休業法改正~令和4年以降の施行対応について~
- 育児介護休業法の改正対応について
- 裁量労働制を採用する使用者の反論
- 解雇
- 試用期間と解雇・本採用拒否の相談事例
- 試用期間満了時の解雇(本採用拒否)について
- 賃金の支払いについて
- 資金繰り対策として当面可能と考えられる支出抑制策
- 退職事由による退職金の不支給・減額について~モデル就業規則を例にそのリスクを考える~
- 退職勧奨
- 退職後の競業避止義務について
- 退職金不支給・減額条項に関するポイント解説
- 過重労働撲滅特別対策班(かとく)の監督指導・捜査
- 労働審判の申立にどのように対応すべきか?
グロース法律事務所が
取り扱っている業務
新着情報
- 2023.08.30お知らせ
- 「税理士×弁護士」インボイス制度と中小企業が気をつけるべき独占禁止法・下請法ポイント解説セミナー 2023.11.16
- 2023.07.23お知らせ
- 【実施済み】従業員との合意書・誓約書と就業規則の最低基準効セミナー 2023.09.14
- 2023.07.20お知らせ
- 【実施済み】顧客従業員の引き抜きを許さない「競業避止対策」セミナー 2023.08.23
- 2023.04.27お知らせ
- 2023.05.18開催予定セミナー・会議室変更のお知らせ
- 2023.04.24お知らせ
- 【実施済み】退職トラブルを回避するために 必要な労務管理~顧客対応時の重要チェックポイント~ 2023.06.15