退職勧奨
上記の記事では、解雇についてお話をしてきましたが、解雇は使用者からの一方的な行為であることから、どうしても労働者との紛争のもとになりやすいことは否定できません。しかも上記のような解雇無効のリスクを常に背負うことになります。
しかし、経営を行う上で、特定の労働者に会社を辞めてもらう必要がある場合もあります。そのような際にはその労働者との話し合いを行い退職を促し(退職勧奨)、合意のうえで退職してもらうことを検討することも有用です。
退職勧奨とは、使用者が労働者に対し、自主的な退職を促す一連の説得活動のことです。つまり説得の結果、あくまでも従業員が自主的に退職を決意することが重要であり、形式上自主退職扱いによる退職であっても、退職勧奨の状況によって退職を強制させたと捉えられるようなものであれば、違法な退職勧奨となります。このような違法な退職勧奨は、後に法的な紛争のきっかけとなる可能性を含むほか、違法な退職勧奨により退職させられたと感じる従業員には不満が残り、円満な退職が実現しません。
それでは円満な退職のための退職勧奨について、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。以下にいくつかの視点を挙げます。共通の視点は、従業員が退職を選ばざるを得ない状況に追い込まれていないか否かです。
そして、退職勧奨を行う際に重視すべきポイントは以下の4つです。
Contents
退職勧奨を行う際に重視すべき4つのポイント
伝える場所・方法に配慮する
労働者に退職を促すときに、労働者一人に対し経営者や上司・人事部の担当者などの多人数が取り囲むような状態であれば、その労働者は威圧的に感じて退職を強要されているように感じるかもしれません。
また、他の労働者の前で対象の労働者を呼び出し、周囲にわかるような状況で退職勧奨をすると、その従業員は「見せしめ」をされたと感じてしまい退職を強要されたと感じる可能性があります。
従って、対象労働者に退職勧奨を行う際は、周囲の労働者にわからないようにしながら、できるだけ少人数で伝えることが良いでしょう。
嘘の理由を告げない・人格攻撃をしない
退職勧奨の理由を告げる際に、虚偽の理由を告げることは許されませんし、人格を否定するような言動は慎むべきです。
例えば、懲戒解雇に至らない事由を起こした労働者に対し、「退職勧奨に従った退職をしなければ、懲戒解雇になる」と告げることは避けなければなりません。この場合、後に労働者が本当は懲戒解雇になりえなかったことを知ると、退職は無効であると争われてしまい(この場合は裁判になっても退職は無効とされる可能性が高いでしょう。)、余計に紛争を複雑化してしまうことになりかねません。
また、例え労働者の能力が低くて辞めてもらわなければならない場合でも、人格を攻撃するような言動をすると円満退職が実現するはずもありませんし、そのまま退職に至った場合も後に紛争となる可能性が高いでしょう。
執拗に行わないように配慮する
退職勧奨を長期間に亘って何度も何度も退職勧奨を行っていれば、それはもはや勧奨ではなく、強要とみなされるでしょう。しかし、退職するか否かの決断期間を極端に短く設定すると選択の自由を与えていないことになり、これも自由な意思のもと退職を選択したと認められない可能性が高くなりますし、労働者にも不満が溜まります。
少なくとも、退職勧奨に対する返答は日を改めて回答するように期日を設定し、従業員が明確に退職を拒否している場合は、繰り返して退職勧奨を行うことは控えましょう。繰り返して退職勧奨の交渉を行うことが許されるのは、労働者が退職勧奨に後ろ向きではなく、条件の提示などの交渉を行う場合などに限られるでしょう。
対価の設定について
退職勧奨を行うには、労働者が納得できる対価を提示する必要があります。退職勧奨を行う理由によっては、当該労働者に多く対価を支払うことに抵抗があるかもしれませんが、後に退職が強制であったことを争われた際の費用や手間を考えると、早期に退職することの対価を支払い、円満な退職を目指すべきでしょう。
退職勧奨について、誰もが納得しないような条件提示から始めると、まとまるべき交渉もまとまりません。初めから合理的な対価や条件を提示し、労働者にきちんと話し合いに応じてもらう姿勢が必要となります。
解雇・退職勧奨のご相談はグロース法律事務所へ
以上、解雇および退職勧奨について注意点などを挙げさせていただきました。しかし、解雇や退職勧奨を行うにあたっては、解雇・退職勧奨を行うに至った事情、会社の規模、対象労働者の事情などによって個別具体的に検討が必要です。つまり、一律に「このようにすれば大丈夫」というものはありません。
解雇や退職勧奨の方法を個別具体的に検討するにあたっては、紛争になった際に最終的に裁判所でどのようなことが重視されるのかという視点は外せません。その視点がなければ、紛争が顕在化した際に解雇や退職勧奨を行ったことが会社にとって致命的な損害を与えるきっかけになってしまうかもしれません。そのうえで経営的な視点を織り交ぜつつ、個別具体的な退職勧奨の方法をとる必要があるのです。
従って、具体的な解雇手続きや退職勧奨を行う前に、その方法でよいのか弁護士によるチェックが入ることが最善策であると言えます。
労働者との関係で悩んでおられる企業様、実際に解雇や退職勧奨を行ったけど失敗したことのある企業様、解雇や退職勧奨はタイミングに応じて適切な対応を足らなければなりません。
グロース法律事務所は、労働問題における使用者側専門の法律事務所として会社の事情に合わせた解雇や退職勧奨の方法に関するアドバイスも行っており、法的リスクを排除した円満退職のお手伝いができます。「従業員の退職」にかかわるご相談はお気軽にお問合せください。

徳田 聖也

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