介護事故における法的な責任
介護施設を運営するにあたり、不幸にも介護事故やその他の損害事故が生じることがあります。そのような場合に介護事業所はどのような責任を負うのでしょうか。
Contents
介護事故における法的な責任について
介護施設における利用者からの暴言・暴力について対応・対策の解説動画です。
・契約責任(安全配慮義務違反における予見可能性・結果回避可能性)
・不法行為の種類について
10分程度でまとめておりますので、記事と合わせて是非ご覧ください
1 契約上の責任(安全配慮義務違反)
介護事業者と利用者は介護サービス契約を締結しており、その介護サービスに付随するものとして、介護事業者は利用者の安全に配慮し、生命身体財産に損害を与えてはならないという義務が発生します。これを安全配慮義務と言います。
具体的には、危険(損害結果)が発生することが予見可能であり、事業者が何らかの措置をとれば損害結果を回避できる可能性が有ったにもかかわらず、十分な措置を取らなかったことから損害結果が発生した場合、事業者に安全配慮義務違反が認められます。
上記予見が可能であったか否かという判断について、介護サービスを行ううえでの危険を予見できたか否かということが問題になることから、介護サービスを行う人を基準として予見が可能であったかを判断することになります。
また、同様に回避できる可能性があったか否かについても、介護サービスを行う人を基準にして結果を回避させることができたかを判断します。
2 不法行為責任
(1) 使用者責任(民法715条)
使用者責任とは、事業のために他人を使用する者は被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償しなければならないというものです。事業者は他人(従業員)を使用して利益を得ていることから、その従業員の不法行為については同様の責任を負うべきという考えから定められています。
従って、介護職員が介護サービス提供時に介護事故により損害を生じさせた場合に、その介護職員に不法行為責任(民法709条)が認められた場合は、介護事業者はその損害について、使用者責任により損害を賠償する義務が生じます。
なお、使用者責任は使用者が被用者の選任及び事業の監督について相当の注意をしたとき(又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき)は、責任を負わないと規定されていますので、介護事業者は、従業員の選任や損害発生防止の為の事前・事後の対策が十分になされていたことが立証できれば、使用者責任を免れることが可能です。
(2) 監督義務者責任(民法714条2項)
介護サービスの利用者の中には、精神障害や認知症によって自己の行為の責任を理解する能力を欠く方がおられる場合も少なくありません。このような方は自己の行った行為に対する責任が認められず(責任能力を欠き)、他人に損害を与えても不法行為責任を負うことはありません。
但し、そのような場合には責任能力を欠いている方を監督する義務がある者(監督義務者)に不法行為責任が認められます。また、監督義務者に代わって監督を行う者も同様の責任を負います(代理監督者)。
介護事業者や担当職員・施設長などは、代理監督者にあたる可能性があり、重度の認知症等により責任能力が欠けている利用者が他の利用者を傷つけた場合などに責任を負わなければならない場合があります。
(3) 工作物責任(民法717条)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じさせた場合はその工作物の占有者は損害を賠償する責任があります(占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が責任を負います。)。
従って、介護事業所の設備不具合が介護事故の原因となっている場合は、介護事業者が損害賠償責任を負います。設備に不具合がある場合は前記の安全配慮義務違反に該当することも多いかと思いますが、工作物責任の所有者責任は無過失責任(過失の有無に関係なく責任を負う。)ですので、注意が必要です。
以上介護事故等の損害が生じた場合は、利用者との契約に基づく債務不履行責任(安全配慮義務違反)や各種不法行為責任を負う可能性があります。但し、介護事業者として安全配慮義務を果たしていた場合や使用者責任における従業員の選任及び事業の監督について相当の注意をしたときは責任を負わない場合もあります。そのためには介護事業所内で介護事故防止の為の事前対策及び事後対処体制を整えておくことが必須です。
グロース法律事務では介護事業者向けサービスとして、介護事故に関する情報や対処方法をご提供しておりますので、いつでもお問い合わせください。

徳田 聖也

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