介護事業所における利用者間トラブル
介護サービスでは、同一の空間で多くの利用者が同時に利用することも多く、利用者間の暴力などトラブルが生じる場合があります。そのような場合に介護事業者はどのような責任を負うのでしょうか。
1 安全配慮義務違反
介護事業所内で発生した事故や損害について、介護事業者がどのような責任を負うのかということについては、別稿「介護事故における法的な責任」にも記載していますが、入居者間トラブルで損害が発生した場合に介護事業者が問われうる責任は利用者との介護サービス利用契約に基づく安全配慮義務違反(債務不履行違反)です。
介護事業者と利用者は介護サービス契約を締結しており、その契約上の責任として、介護事業者は利用者の生命身体財産に損害を与えないように安全に配慮しなければならない義務が発生します。
具体的には、危険(損害結果)が発生することが予見可能であり、事業者が何らかの措置をとれば損害結果を回避できる可能性が有ったにもかかわらず、十分な措置を取らなかったことから損害結果が発生し場合には事業者に安全配慮義務違反が認められます。
これによると事業所内で暴力事件が発生した際に直ちに介護事業者がその責任(安全配慮義務違反)を負うわけではありません。
しかし、普段から折り合いの悪い特定の利用者2名がいて、その当事者間で暴力沙汰になりそうなことが過去にあった場合などは暴力事件が発生することが予見可能な状態であるといます。そのような状態であるにもかかわらず、当該利用者について利用場所を離したりせず、特に監視もせずに漫然と両者に対し近距離で介護サービスを提供していた際に両当事者の間で暴力事件が発生した場合などは問題です。このような場合は、損害結果(暴力事件)を回避できる可能性が有ったにもかかわらず、必要な措置(利用場所を離したり時間をずらしたりするなど)を取らなかったとして、介護事業者に安全配慮義務違反があったと認定される可能性が高いです。
また、介護事業者は利用者に対してのみ安全配慮義務を負うものではありません。介護事業者は職員との間で雇用契約を締結しており、雇用契約上の安全配慮義務として、使用者(介護事業者)は労働契約に基づき労働者(介護職員)がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければなりません。
従って、利用者の行動により職員に危害が及ぶ可能性が予見できる場合などは、当該職員をその利用者の担当から交替させるなど必要な措置を取らなかった場合に、実際に危害が加えられた際に安全配慮義務違反となる可能性が高いでしょう。
2 監督義務者責任
上記の安全配慮義務違反の他に、介護事業者が責任を負う可能性としては不法行為責任の一種である民法714条2項の監督義務者(代理監督者)責任です。
利用者が精神疾患や認知症などにより責任能力がない場合に第三者に損害を加えた場合、法定監督義務者と監督義務者に代わって責任能力がない者を監督する者(代理監督者)が、その賠償責任を負うとされています。
介護事業者は介護サービス契約上、代理監督者に該当する可能性があり、そのような場合は、責任能力のない利用者が第三者に与えた損害を賠償する責任が生じます。
以上のとおり、介護事業所内で生じた利用者間のトラブルにおける損害についても、介護事業者は責任を負わなければならない可能性があります。損害の賠償を防止するためには、介護事業者としての安全配慮義務を果たしておかなければなりません。これは一律に定められるものではなく、各利用者の各状況によって取るべき措置は異なります。
グロース法律事務所では介護事業者向けサービスとして、安全配慮義務に関する措置についてアドバイスを提供しておりますので、いつでもお問い合わせください。

徳田 聖也

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