褥瘡管理編(請求棄却)【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】
介護事故は、事故類型ごとに分類することが可能であり、介護事故全般に共通する対策の他に類型ごとに取るべき対策があります。
本稿では褥瘡管理事故について、事業者の責任が否定された実際の裁判例を基に事業所として取るべき対策について検討します。同じ褥瘡管理で事業所の責任が認められた裁判例(褥瘡管理編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】平成24年3月23日横浜地方裁判所判決)もご参考ください。
褥瘡管理においては、利用者に褥瘡が発症した際に以下に早く医療機関への受診を行えるかという点が重要になります。介護事業所として、入所者に褥瘡を発症させないために体位変換や患部の洗浄など出来る手は尽くしたうえで、なお褥瘡が発症した場合は速やかに医療機関への受診へつなげる体制ができているかがポイントになります。
Contents
平成26年2月3日東京地方裁判所判決
- 事案の概要
有料老人ホームにおいて入所者に褥瘡が生じた場合において、適宜に専門医に受診させており、事業者が入所者を専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められないとされた事例。
- 当事者
入所者:判決文上、詳細は不明であるが、入所時以前に褥瘡の発症の経験があり、2時間に一回の体位変換が必要である程度は介護が必要であった。
事業所:株式会社が運営する有料老人ホーム
- 事故に至る経緯
- 平成19年12月17日、入所者は右大転子部四cmポケット形成Ⅲ度・左大転子部Ⅱ度の褥瘡を発症していると診断された(有料老人ホーム入所前)。
- 平成20年2月、有料老人ホーム入居
- 平成22年6月11日、利用者の仙骨部に皮膚剥離(3×0.5㎝程度)が認められた。
- 平成22年10月21日、臀部表皮に剥離と出血が認められた
- 平成22年10月29日、1㎝程度の仙骨部表皮剥離とその周囲が黒くなっていることが認められた
- 平成22年11月5日、臀部の皮膚状態の悪化が認められ、医療機関(皮膚科)を受診した。当該受診では直径5㎝程度で全体的に皮膚が壊死し、褥瘡が認められた。
- その後、治療によっても褥瘡が改善しなかったことから、総合病院にて診察を受けたところ、利用者に高度の炎症が見られ、褥瘡処置のため入院が必要となった。
- 裁判所の判断
④⑤より、1㎝程度の仙骨部表皮剥離とその周囲が黒くなっていることを発見していから1週間後には医療機関に受診をさせている。その後、褥瘡が悪化したのは、医療機関での治療が奏功しなかったためである。
よって、事業者は入所者の臀部を観察して異常を認めた際、適宜に専門医を受診させており、事業所に入居者を専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められない。
裁判例からみる取るべき対応
本件では事業所に対し入居者の遺族から(入居者は後に亡くなられています。)約2000万円の賠償請求がなされていました。
この裁判例では、事業所が入居者の褥瘡を適宜に観察し、その観察の記録を残しており、褥瘡を発見してから1週間以内に医師の診断を受けていることから、「入所者の臀部を観察して異常を認めた際、適宜に専門医を受診させており、事業所に入居者を専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められない。」として事業者の責任が否定されています。
しかし、この裁判例から褥瘡発見後1週間程度で医療機関への受診を行えば事業所の責任が免れるのかといえば、そうではありません。
むしろ、①より入所以前に褥瘡を発症していたことや、③より仙骨部に皮膚剥離が認められていることから、当該入所者は褥瘡が発症しやすいことを事業所は把握できたはずであり、褥瘡を発症させず、また発症した場合は直ちに専門医の診断を受けさせるより高度な注意義務(褥瘡管理におけるより高度な注意義務については、事業所の責任が認められた別稿:褥瘡管理編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】をご参照ください。)が認められ、適切な褥瘡管理を怠り、また直ちに受診させる義務を怠ったと判断されるおそれもあります。
いずれにしても、褥瘡管理として事業所が行ったことをきちんと記録しておくこと(体位変換の頻度や時間、患部洗浄の頻度や方法など)と褥瘡を発見した場合の迅速な医療機関への受診連携について、事業所内で情報共有を行うことが必要となるでしょう。
グロース法律事務所がお手伝いできること
グロース法律事務所では介護事故に関する事故マニュアル・ヒヤリハット報告作成のアドバイス、紛争予防対策、紛争解決を行っており、これらに合わせた顧問プランもご用意しております。褥瘡管理についても、上記のとおり、日々の介護を記録化しておくことや医療機関との連携を迅速に行える体制の構築が必要になります。
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徳田 聖也

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