介護施設における労務トラブル(就業規則)
介護事業所で働く従業員の方々に関する労働基準関係法令や雇用管理に関する規定の適用について、厚生労働省は介護事業所における雇用環境に合わせた「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」を発表しています。
本稿ではそこで紹介されている介護事業所における「就業規則」について、解説いたします。
Contents
就業規則とは
就業規則とは職場におけるルール(服務規律)や労働条件を定めたものであり、その内容に従って該当する労働者に一律に適用されるものです。また、就業規則は適用される労働者ごとに異なる内容のものを複数作成することもあります(無期労働者と有期労働者に分けて作成するなど。)。
就業規則には必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と定めた場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があり、それらは以下のとおりです。
【絶対的必要記載事項】
・労働時間に関する事項(始業・終業、休憩、休日・休暇等)
・賃金に関する事項
・退職に関する事項(解雇・定年制を含む)
【相対的必要記載事項】
・退職金に関する事項
・賞与等の臨時の賃金に関する事項
・労働者に負担させる食費や作業用品等に関する事項
・安全衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償に関する事項
・表彰・制裁等に関する事項
・その他当該事業場の全労働者に適用される事項
就業規則の作成・届出義務
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所管の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法89条)。就業規則を変更した場合も同様です。
この「10人」とは企業・法人全体の人数ではなく、「事業場」の人数ですので、介護事業所や保育所であれば事業所や園ごとに10人が常時働いていれば、事業所や園ごとに届出を行う必要があります。
また、10人の労働者の中には、いわゆる正社員以外にもパートタイマーやアルバイト等も含まれます。
また、従事する業務内容は問われませんので、事務職員、管理栄養士などの介護(保育)労働者以外の労働者も含まれます。
適正な内容
就業規則は、職場の労働者の労働条件を定めるものですが、法律や労働協約(労働組合等との協約)に反する内容のものを定めることはできません。仮に法律や労働協約に反する内容のものを定めた場合は、その範囲で就業規則は無効となります(就業規則全体が無効となるわけではありません。)。
また、定められた就業規則は労働条件の最低基準となります。よって、個別の労働者との労働契約が就業規則を下回っていた場合は、下回った部分について労働契約は無効となり、就業規則の基準まで引き上げられることになります(労働契約法12条)。
就業規則はどのような働き方の従業員でも一律に定めている場合や、昔に作成した就業規則を見直すことなくそのままにしてあるということが、多くあり、現在の実際の就労実態と合致していないことがあります。
このような就業規則の規定内容と実態がかけ離れていることは、労働条件を巡るトラブルの原因となるどころか、紛争となった場合に使用者に不利なものになります。介護事業所は様々な雇用形態や職種の労働者が存在する態様の職場ですので、特に注意が必要です。
よって、使用者は就業規則が法令等に反していないか、実態とあった適正な内容となっているかを見直す必要があります。
就業規則の周知
就業規則は単に定めるだけではなく、全ての労働者に「周知」させる必要があります。「周知」するとは労働者が就業規則を確認したいときに、容易に確認できるような状態に置いておくことが必要であり、次のような①から③の方法によることが必要です。
- 常時事業場内の各作業場ごとに掲示し、又は備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- 電子的データとして記録し、かつ各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できるパソコン等の機器を設置すること
但し、①③については単に備え付けたり、設置するだけでは足りず、備え付け場所や機器の設置について労働者に周知し、労働者がいつでも自らの意思で確認できるような状態にすることが必要です。
グロース法律事務所がお手伝いできること
以上のとおり、就業規則の作成については、事業場の実態に合わせたものを作成する必要があり、現在の実態と合致していない場合は、就業規則を見直す必要があります。この見直しがなされず、実態とかけ離れた就業規則を放置すると労使トラブルのもととなり、紛争に発展した場合には使用者にとり大きなダメージとなることもあります。
また、単に作成するのみでなく「周知」も行わなければなりません。
グロース法律事務所では、労務問題における企業側専門の法律事務所として介護事業所における労務問題を取扱っており、就業規則に関するお問い合わせもお気軽にご相談ください。
グロース法律事務所によくご相談をいただく内容
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徳田 聖也

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