破産手続における未払給料の取扱いについて弁護士が解説
Contents
1 はじめに
会社が破産を行う場合において、従業員の給料が未払になっていることがあります。経営者として破産を決断するにあたり、従業員への未払給与が破産手続きにおいてどのように取り扱われるかについては知っておくべき事項です。
本稿では、従業員の未払給与について、破産手続における法的性質と厚生労働省が所管する独立行政法人労働者健康安全機構が実施する未払賃金立替払制度について解説いたします。
2 破産手続における未払賃金の法的性質
(1) 債権の種類によって配当の順番が変わる
破産手続では破産手続開始時に会社に残っている財産を換価し、債権者に配当することになります。当該配当の対象となる債権はその性質によって、財団債権や優先的破産債権、劣後的破産債権等に区別され、配当を受けることのできる順番に優劣が付けられます。
財団債権であれば最も優先的に配当を受けることが可能であり、次に優先的破産債権となります。劣後的破産債権はその名のとおり後順位でしか配当を受けることができません。
会社が破産を行う場合は、会社の資産でもって債権者への支払いが不可能となった状態であるということから、配当をうけることができる順位の優先度は債権者にとって重要になります。
(2) 労働債権について
① 破産手続開始前三ヶ月間の給与
破産手続開始前三か月間の従業員の給与請求権は財団債権となり(破産法第149条第1項)ます。財団債権の場合は、破産手続中に破産財団(換価された会社の財産)から随時(配当手続によらず)速やかに支払いを受けることが可能です。
② 破産手続開始前三ヶ月以前の給与
破産手続開始前三ヶ月以前の給与については、優先的破産債権となります。配当手続においては優先度が高いですが、当然財団債権には劣後しますし、財団債権と異なり随時支払いを受けることはできず、配当手続によって支払いを受けなければなりません。財団債権支払い後には配当すべき財産が残っていないということもありその場合は配当を受けることができません。
③ 退職金
破産手続終了前に退職した従業員の退職金は退職前三ヶ月分の給料の総額に相当する額は財団債権となり(破産法第149条第2項)、それ以外は優先的破産債権となります。ただし、当該退職前三ヶ月の給料総額が破産手続開始前三ケ月間の給料の総額より少ない場合は、破産手続開始前三ヶ月間の給料総額分が財団債権となります。
以上のとおり、従業員の給料は破産手続開始前三ケ月を起点として破産手続内での優先度が大きく変わります。従って、従業員の給料が支払いない状況となった場合は速やかに破産手続きを行う必要があり、いたずらに破産手続きを遅らせることは避けなければならず、一刻も早い弁護士への相談が必要である状況と言えます。
3 独立行政法人労働者健康安全機構が実施する未払賃金立替払制度
(1) 未払賃金立替制度とは
労働債権はその発生時期により、財団債権と優先的破産債権に分けられますが、いずれの場合も会社の財産が残っていない場合は、破産手続内で支払いを受けることができません。
しかし、労働者にとって働いた分の給与がもらえないということは生活に重大な影響を与える一大事です。そこで、労働者とその家族の生活の安定を図る国のセーフティネットとして、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対する「未払賃金立替制度」が独立行政法人労働者健康安全機構により実施されています。これによって、未払賃金の8割相当額について労働者は支払いを受けることができます。
(2) 事業者側の要件
未払賃金立替制度を利用するにあたって、まず事業者が次の要件を満たしている必要があります。
① 労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行っていたこと
② 倒産したこと
この倒産したことには大きく分けて2つの場合があります。
ア 法律上の倒産
破産手続開始決定、特別清算手続開始命令、民事再生手続開始決定、会社更生手続開始決定がなされていること。この場合破産管財人等に破産の事実等を証明してもらう必要があります。
イ 事実上の倒産
中小企業の場合で、企業が倒産して事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がない状態になったことについて労働基準監督署長の認定があった場合
(3) 労働者側の要件
労働者が、倒産について裁判所への申立て等(上記法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(上記事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であること。
例えば令和4年10月10日に破産手続開始申立てがなされた場合は、令和4年4月10日から令和6年4月9日までに退職した人が対象となります。
(4) 請求可能期間
立替払の請求ができる期間は、法律上の倒産の場合は裁判所の破産手続の開始等の決定日又は命令日の翌日から起算して2年以内、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。この期間内に未払賃金の立替払請求書を労働健康安全機構に提出しなければならず、期間を過ぎた場合は立替払を受けることができません。
(5) 対象未払賃金
立替払の対象となるのは、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している「定期賃金」及び「退職手当」です。ただし、未払賃金総額が2万円未満のときは対象外です。
定期賃金とは、労働基準法第24条第2項に規定する、毎月1回以上定期的に決まって支払われる賃金(例:基本給・家族手当・通勤手当・時間外手当等)で、所得税、住民税、社会保険料等法定控除額を控除する前の額になります。
退職手当とは、退職手当は、労働協約、就業規則(退職金規程)等に基づいて支給される退職金をいいます。事業主が、中小企業退職金共済制度等の社外積立の退職金制度に加入し、他制度から退職金が支払われる場合は、支払われる額の確定を待って、その額を差し引いた額が立替払の対象になりますと定められています。
従って、賞与や解雇予告手当などは立替払の対象となりません。
また、立替払される金額は上記対象額の80%の額です。ただし、退職日の年齢によって以下のとおり立替払の上限額が定められています。
■45歳以上 296万円
■30歳以上45歳未満 176万円
■30歳未満 88万円
以上が独立行政法人労働者健康安全機構の立替払制度ですが、未払賃金立替制度の請求は、解雇された各労働者が行います。従って、会社からあらかじめ未払賃金立替制度の存在及び請求方法について従業員に周知する必要があります。また、請求には破産管財人の証明が必要になるなど、会社が協力すべき事項も多くあります。
従って、破産申立てにあたって従業員への賃金未払いが発生する場合は、従業員に対し未払賃金立替制度の説明を行い、破産手続開始後も必要な手続きに協力する必要があります。
破産を検討される場合は早期に弁護士までご相談ください。
4 グロース法律事務所のサポート内容
グロース法律事務所は企業法務を中心に取り扱う法律事務所として、会社の破産申立代理業務も取り扱っております。また必要な際は代表者の同時申立ても行っております。
破産申立においては、上述の否認権対象行為など準備の段階で行ってはならない事項も多くあります。破産手続を検討される際は、早期にご相談ください。
①グロース法律事務所によくご相談をいただく内容
・資金繰りが厳しく、資金ショートする可能性が高いが、どのような手続きをとればよいかわからない。
・経営状況が厳しく、破産を考えているがどのような準備が必要かわからない
・会社の破産と共に、代表者の破産もお願いしたい
・会社の破産ではなく、事業を継続させる民事再生手続をお願いしたい
②分野に関するグロース法律事務所の提供サービスのご紹介と費用
〇法人破産(破産管財申立事件)66万円~220万円まで
原則として110万円を基準とし、資産や事業実態のない関連会社の申立については減額要素となる一方、申立前に資産を適正に換価等する必要のある破産申立案件等については増額要素となります。
(弁護士費用の他、裁判所への予納金が必要となります。大阪地裁への申立の場合、最低額が20万5000円とされていますが、債権者数や賃借物件の明渡未了の場合などの状況によって最低額も50万円・80万円と増額されます。)
〇法人破産と同時に行う代表者破産申立 22万円~
法人破産と同時に代表者個人の破産を申立ていたします。
(法人破産と同様に裁判所への予納金が必要になりますが、大阪地裁への申し合っての場合、代表者に資産がほとんど存在せず、訴訟等の必要性等が存在しない場合は、代表者個人の予納金は5000円との取扱いがなされています。)
〇民事再生(※申立てにあたり顧問契約を締結させていただきます。)
着手金 165万円~(債権者数・法人の規模等により異なります。以下同様です。)
認可決定までの月額費用 33万円~
認可決定報酬 165万円~
認可決定後の顧問料は通常の顧問プランで契約いたします。
③グロース法律事務所への問い合わせ
お電話(06-4708-6202)もしくはお問い合わせフォームよりお問い合わせください。お電話の受付時間は平日9:30~17:30です。また、お問い合わせフォームの受付は24時間受け付けております。初回の法律相談については、ご来所いただける方に限り無料でご相談させていただいております(※遠方の方はオンライン会議での初回面談も承りますので、お申し付けください。また、新型コロナウイルス感染症の影響でどうしても来所ができないという方につきましても、オンライン会議で初回無料で面談を承りますので、お申し付けください。)
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