改正民法で新たに留意すべき賃貸借契約のポイント

2020年4月1日から施行された改正民法により、賃貸借契約に関する規律についても、いくつかの法改正がなされました。その多くはこれまでの判例・実務を反映したものと言えますが、今後の賃貸借契約に与える影響が大きい内容がありますので、既存の契約書については、この機会に見直しが必要です。

1 改正民法のポイント

賃貸借契約に関する改正民法のポイントは大きく3つです。

① 賃貸借契約継続中の契約関係に関すること
② 賃貸借契約終了後に関すること
③ 保証人に関すること(賃貸人は特に注意)
です。

2 ① 賃貸借契約継続中の契約関係に関すること

(1) 賃貸物件の修繕について

近年の台風・地震等の災害に伴い、賃借人から修繕に関する問い合わせが増えてきています。特に、賃貸物件は賃借人の所有物ではなく、また、これまでの民法では、賃借人が賃貸人に無断で修繕を行うということは条文上、認められていませんでした。

その結果、賃貸人側には様々事情があるとはいえ、賃貸人が修繕に応じてくれず(費用がない、修繕の必要がない等々)、不具合のあるまま生活を続けなければならないという事例もありました。また、賃貸人が修繕を約束してくれているケースでも、賃貸人が手配する業者の予定が相当先で、復旧に急を要するにもかかわらず、不便なまま居住せざるを得ない例もありました。

改正民法では、
① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、又は賃貸人がその旨を知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
又は
② 急迫の事情があるとき

には、賃借人が賃借人の判断と、手配のもと修繕を行うことを認めました。
これは、このような場合に修繕を行ったとしても、賃貸人側からの損害賠償請求、契約違反の主張が認められないことを意味します。

(2) 賃貸物件の所有者の変更

これまでの賃貸物件の所有者変更した場合に、賃貸人の地位まで移転するのか、どういった場合に賃貸人の地位が移転するのかということについて明確な規定はなく、判例によって賃借人が賃貸借契約の対抗要件(主には所有権移転登記前の引渡)を備えている場合に、所有者が変更しても所有者は賃貸人の地位をそのまま引き継ぐものとされてきました。

改正民法では、賃借人が賃貸借の対抗要件を備えていた場合に、賃借物である不動産が譲渡されたときは、賃貸人としての地位は、原則として不動産の譲受人(新所有者)に移転するという規定を設けました。

また、これに加え、不動産の譲受人が、賃借人に対して賃料を請求するためには、
貸借物である不動産の所有権移転登記が必要である旨の規定も設けました。

つまり、賃貸人としては、登記を備えるまでは、賃貸人としての地位は引き継いでも、移転登記を済ませるまでは、賃料請求は出来ず、賃借人はそれまでの間、従前の賃借人に賃料を支払うか、供託すれば良いということになります。

これまでの実務においても、移転登記を済ませたのちに、賃借人に所有者の変更と賃料の支払い先の変更案内を出してくることが多かったとは思いますが、改正民法では、上記のように条文で規定されました。

3 ② 賃貸借契約の終了後に関すること

改正民法では、これまでの判例実務を反映して、原状回復義務の範囲や敷金・保証金の返還時期等に関する規定が新設されました。

まず、原状回復義務については、賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うことが明記されるとともに、通常損耗や経年変化による損傷ついては原状回復義務を負わないことが明記されました。これ自体はこれまでの実務の取り扱いを変更するものではありませんので、例えば、家具類の設置後(へこみ)や、家電によるクロスの汚れなどは通常損耗に当たります。一方で、タバコの不始末によるフローリングの損傷やペットによるひっかき傷などは通常損耗とは認められないのが通常です。

また、敷金・保証金について、これまで定義規定もありませんでしたが、敷金・保証金については、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されました。

そして、その返還時期については、賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が発生することと、その額は受領した敷金・保証金の額からそれまでに生じた賃借人の債務の額を控除した残額であることが明確にされました。これについては、従来の判例実務の取り扱いに変更はありません。

4 ③ 保証人に関すること

保証人の保証債務の範囲に関しては、賃貸人としては、特に留意が必要な改正がありました。
すなわち、将来発生する不特定の債務について保証する契約を「根保証」といいますが、根保証に関する賃貸借契約の保証については、改正民法はこれを無効としました。

これに伴い、従来例えば、賃借人について生じた一切の債務を保証するとしていたような契約書については、修正を迫られます。具体的には、金額の上限を示したり、「賃料の●か月分」とするような定め方です。なお、金額さえ書けば良いというものではなく、あくまで趣旨は、保証人が想定外の債務を負うことを防ぐという保証人保護の趣旨にありますので、不相当な金額設定は無効とされる可能性があります。

この関係で、改正民法施行前に賃貸借契約が締結されたが、自動更新され、改正民法後も賃貸借契約が続いている場合の保証については、保証人について改正民法の適用があるのか、そうでないのかといった問い合わせがあります。この場合、保証について、もともとの賃貸借契約締結時に、賃借人の債務については、自動更新後のものも含めて保証契約が結ばれている場合には、特にあらたな合意によって保証契約が更新される場合でない限り、改正前の民法が適用されることとされています。

賃貸借契約については、従来の判例実務を反映した改正が多くなされていますが、改正民法によって新たに規定された内容もありますので、今一度見直しをお願い致します。

 

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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