事業主が講ずべきセクシュアルハラスメント対策

 

職場におけるセクシュアルハラスメントとは

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」といいます。)において、職場におけるセクシュアルハラスメントとは、

「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること(第11条)と定義され、これには、同性に対するものも含まれています。

そして、事業主は、こうしたセクシュアルハラスメントが生じないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされ、当該措置が適切かつ有効に実施されるよう、厚生労働大臣が10項目の指針を定めています。

 

○それぞれの用語について詳しく見ていきますと、次のとおりです。

まず、「職場」というのは、デスクのある通常就業している場所はもちろんのこと、取引先や取引先と打合せするための外出先、出張先など、労働者が業務を遂行する場所全般を指します。

次に、「労働者」には、事業主が雇用するすべての労働者が含まれますので、正社員に限らず、パートタイム労働者や、派遣労働者も上記「労働者」に含まれます。

また、「性的な言動」とは、文字どおり、性的な内容の発言や性的な言動を指しますが、これら性的な言動を行う者は、事業主や上司に限られるものではく、取引先担当者等々も、また、同性同士についても行為者として含まれるものとなります。

厚労省のパンフレット(H27.6作成no11)では、性的な言動の例として、次のような例が挙げられています。

① 性的な内容の発言

性的な事実関係を訪ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど

② 性的な行動

性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強姦など

 

セクシュアルハラスメントによる使用者の不法行為責任

「職場」という点では、宴会などでのセクシュアルハラスメントも多く見られる事例です。裁判上では、被害を受けた者が、同僚や直属の上司などセクハラを行った行為者のみならず、事業主の「使用者責任」(民法715条)を問う形で表れることがほとんどであり、そこでは、「事業の執行につき」行われた行為であるかどうかが問われています。

東京地判平成15年6月6日(判タ1179267頁)では、次のような事例について、使用者責任が認められました。

会社主催の飲食会が開催され、原告(女性)を含む17名の社内チームと、会社の専務取締役A(男性)など4名の管理職が参加した。原告とAを含む4名は、その後三次会まで行き、午前1時ころ、原告とAがタクシーに同乗し帰途についた。その車内で、Aは、原告の体を押さえ付け、執ようにキスをしたほか、「エッチしよう。」と言葉をかけるなどのセクハラ行為をした。タクシー下車後、原告は、直属の上司に電話でこのセクハラ行為を訴え、また、精神的ショックから欠勤し、約半年後に退社した。その後、A及び被告会社に対し、慰謝料等の損害賠償を請求したという事案です。

この事案では、Aの不法行為責任(民法709条)が認められるとともに、使用者である会社についても、①一次会が会社の職務として開催されたこと、②二次会は一次会の最高責任者であるAの発案で、一次会の参加者全員が参加していること、③Aは原告に対し三次会についてくるよう声をかけていること、④三次会に参加したのはいずれも会社の従業員であり、職務についての話がされていることなどから、Aのセクハラ行為は、会社の業務に近接して、その延長において、上司としての地位を利用して行われたものであり、会社の職務と密接な関連性があり、事業の執行につき行われたというべきであるとして、使用者責任(民法715条)の成立が認められています。

このように、「職場」にあたるか否かについては、職務との関連性や、参加者の状況、参加に任意性が認められるかどうかが判断のポイントになっています。

 

「職場におけるセクシュアルハラスメント」の種類

厚生労働省の指針では、セクシュアルハラスメントを次の二つタイプに整理しています。

「対価型セクシュアルハラスメント」

労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。

具体的には、

  • 事業主が性的な関係を要求したが拒否されたので解雇する
  • 人事考課などを条件に性的な関係を求める
  • 職場内での性的な発言に対し抗議した者を配置転換する
  • 性的な好みで雇用上の待遇に差をつける などがあります。

「環境型セクシュアル・ハラスメント」

労働者の意に反する性的言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。

具体的には、

  • 性的な話題をしばしば口にし、あるいは、特に用事もないのに執拗にメールを送り、それを苦痛に感じて就業意欲が低下している。
  • 事務所内にヌードポスターを掲示し、それを苦痛に感じて業務に専念できない。 などがあります。

 

事業主が雇用管理上講ずべき措置

職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、厚生労働大臣の指針により10項目が定められており、事業主は、これらを必ず実施しなければなりません。これらは大企業であると中小企業であるとを問わずに実施しなければならない義務ですので、それぞれの企業規模等に応じ、適切に実施していく必要があります。

 

1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

① 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容及びセクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

② セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(措置の具体例)

⇒文書でセクハラ防止の方針や規定内容を示す

⇒社内報、パンフレットなどによる広報

⇒研修会、講習会などの実施

⇒就業規則によるセクハラに対する懲戒内容を明示  など

2 相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定めること。

④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

また、広く相談に対応すること。

(措置の具体例)

⇒相談制度。相談担当者を決める

⇒外部機関に対応を委託する

⇒窓口担当者と人事担当者の連携を可能にする

⇒相談担当者に対する研修

⇒二次セクシュアルハラスメントの防止 など

3 事後の迅速かつ適切な対応

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

⑥ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。

⑦ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うぉと

⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)

(措置の具体例)

⇒当事者双方から事実関係を確認する

⇒当事者双方の間で事実関係が一致しない場合は、第三者からも事実関係を確認する

⇒迅速かつ正確に確認することが困難な場合は、男女雇用機会均等法第18条に基づき調停の申請を行うこと、あるいは中立の第三者機関に紛争処理を委ねる

⇒セクハラ防止について再度社内報などで周知徹底する

⇒研修会、講習会を実施する

4 1から3までの措置と併せて講ずべき措置

⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。

⑩ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

(措置の具体例)

⇒プライバシー保護のためのマニュアル作成

⇒プライバシーは保護されることの広報

⇒相談者は不利益を受けないことの広報

 

最後に

職場におけるセクシュアルハラスメント対策は、事業主の義務とされ、上記のように厚生労働大臣による10の指針が示されています。特に、中小企業の事業主にとっては、人的にも物的にも措置を講じることは必ずしも容易ではありませんが、これらは法律上の義務であり、会社としては使用者責任(民法715条)も含めて、セクハラ対策を先延ばしにしてしまうことは、大変大きな企業リスクを背負うこととなってしまいます。

貴社に合わせた対策については、当事務所までご相談ください。
ハラスメント研修

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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