不動産売買契約書とは

1 不動産売買取引の特徴

不動産売買取引は比較的高額な取引であることが多く、契約締結から決済までの期間が比較的長期であったり、担保権の対象となっていたり、買主がローンを利用することも多い取引形態であることから、そのような売買の特徴に合わせた契約書を作成することが必要です。

本稿では、不動産売買取引における契約書の留意点について説明します。

 

2 使用目的の記載

不動産の使用用途は多岐にわたるため、その使用目的が決まっている場合は契約書にて使用目的を明らかにしておく場合があります。

使用目的を明らかにすることにより、売買契約解除における目的不達か否かの判断に役立つことや、2020年4月1日から施行される改正民法(以下単に「改正民法」と表記します。)において、取引当事者の契約目的が重視されるとされている履行不能か否かの判断や契約不適合責任(瑕疵担保責任の代わりに導入される規定)の不適合性の判断について役立つことになります。例えば当該土地に土壌汚染が発覚した場合に、売買の目的が同種の工場を建築するためであるのか、人が居住するマンションを建設するためであるかによって、瑕疵(契約不適合)にあたるか否かの結論が変わる可能性があります。

従って、特定の目的のために不動産を購入する場合は、当該目的を契約書上にて具体的に規定しておくことが重要になります。

 

3 境界について

土地の売買の場合、目的物の特定は不動産登記簿に基づき行われることが多いですが、土地の境界があいまいで確定していない場合があります。そのような場合、土地の引き渡しまでに境界を確定させるのか(その際には境界確定の費用はどちらが負担するのか)、境界を確定させないまま引き渡すのかを明らかにし、後に隣地との間で境界に関する紛争が起こった場合の責任について記載しておく必要があります。

甲は、乙に対し本物件と隣地との境界については、現状有姿のまま、境界標の設置及び境界の明示並びに確認を行わずに引き渡すものとする。なお、将来隣地地と境界に関する紛争が生じた場合も甲は一切の責任を負わず、乙は自己の責任と負担で解決することを確認する。

 

また、境界確定の調査の結果、実測面積が公簿面積と異なった場合に代金の修正を行うか否かも契約書に明記しておくべきでしょう。

 

4 所有権移転時期

不動産売買契約は契約締結日から決済までの期間が長い場合も少なくないため、所有権の移転の時期を定める必要があります。契約書に定めていない場合は、所有権の移転時期は契約時となります。通常は決済時(代金支払時)とされることが多いですが、引渡時(鍵の引渡し時)に所有権が移転するとされる場合もあります。

 

5 危険負担

不動産売買における危険負担とは、契約締結後引渡前に売主買主どちらにも責任がない事由により当該不動産が滅失・損傷してしまった場合に買主は売買代金を支払う必要があるかという問題です。

現在の民法の規定は債権者主義をとっていることから(民法534条1項)、引渡前に不動産が滅失してしまっても買主は代金を支払わなければなりません。このような結論は不合理なため、大半の不動産売買契約書では修正が行われています(引渡前の滅失の場合解除が可能であることや損傷の場合に売主に修繕義務を課すなど)が、危険負担の条項の有無及びその内容は必ず確認するようにしてください。

なお、改正民法では売買契約締結後引渡前に目的物が滅失してしまった場合は反対給付の履行を拒むことができる(代金の支払いを拒むことができる)と改正されています。

 

6 手付

不動産売買では手付金が支払われることも多くあります。手付は次の3種類に分けられます。

・証約手付(売買契約が成立したことを証するための手付)

・解約手付(買主の手付放棄・売主の手付倍額償還による解除権を認めるための手付)

・違約手付(損害賠償の予定額としての手付)

手付がどの種類に該当するかについては、当事者で反対の表示がない限り解約手付であると推定されます。また、違約手付であることが表記されていても「解約手付兼違約手付」とされることから、解約手付の趣旨ではない場合は、契約書に解約手付の趣旨ではない旨を明示しておく必要があります。

なお、宅建業者が売主となる場合は手付金として売買代金の20%を超える額の手付を受け取ることが禁止されており(宅建業法39条1項)、買主の履行の着手より前に手付解除を制限することも禁止されています(宅建業法39条3項)。

 

7 担保権等の消除

不動産は担保の目的物になることも多く、そのような場合には抵当権が付され登記されています。また、賃貸借の目的になっていることも多くあります。

買主としては、そのような負担がある状態では購入目的が達成できない場合は、売主が担保権等を抹消して買主に引き渡すことを契約書に明記することを求めます。

また、同様に不動産に関する公租公課や負担金の未納がある場合は、引渡前に支払いを完了しなければならない旨の規定を入れておくべきでしょう。

 

8 建築確認通知書・検査済証、図面等の関係書類の引渡

建築確認通知書とは、建築時に提出された建築確認申請書が、建築基準法に定められた基準に合致していることを確認した旨が行政庁から建築主へ通知される書面のことです。また検査済証とは建築完了時に行われた検査で建築確認申請通りに建物が建築されていることを証する書面のことです。

これらに加え、図面や仕様書や付属書類などの関係書類について、建物の売買においては引渡してもらう必要があります。特に転売目的で建物を購入する場合は、これらの書類が揃っているか否かで転売価格が大きく異なることがありますので、かならずこれらの書類の引渡条項を明確にしましょう。

 

9 残置物の所有権放棄規定

不動産引渡後に残置物があった場合、その処分や所有権の帰属について規定がないと、当該残置物について買主がわざわざ売主の許可を得て処分しなければならなくなります。残置物の所有権が売主にある場合は買主が勝手に処分することはできません。

そこで、不動産引渡後に当該土地及び建物内に残置した物については、売主は所有権を放棄したものとみなし、売主が処分することについて異議を述べない旨を明らかにしておく必要があります。また、その際の処分費用の負担についても記載しておくべきでしょう。

 

10 融資利用特約

不動産は高額であることから買主が融資(ローン)を利用して購入することもあり、融資利用を前提とした契約である場合は、融資の承認が得られず購入することができなくなった場合の規定を置く必要があります。

基本的には融資の承認が得られなかった場合には買主に解除権を与えることが多いですが、融資の審査までに一定の期間を有する場合には、その期間に本売買契約に基づく費用が発生している場合があります(境界確定のための測量費用など)ので、その費用はどちらが負担するのかを定めておくことも必要でしょう。

また、融資が承認されなかった場合の手付金の取扱いも定めておく必要があるでしょう(大半は手付金無利息返しです)。

 

11 区分所有者の管理費

中古区分所有物件(マンションの一室等)の売買契約の場合は、売主が管理費や修繕積立費(以下「管理費等」といいます。)を生産しているかの確認も重要になります。なぜならば、建物の区分所有等に関する法律第8条で区分所有者の管理費等の債務は特定承継人も責任を負う旨が規定されており、売主の管理費等が滞納されていた場合は買主が未払分まで支払い義務を負うことになるからです。

従って、中古区分所有物件を購入する際は管理費等の支払い状況を確認し、その負担に関する規定を契約書にて明記しておくべきでしょう。

 

12 所有権移転登記に関する規定

売買契約による不動産所有権の移転は、不動産登記を行わなければ、第三者に自己の所有を対抗できないことから、所有権移転と共に登記手続きを行うことは必須です。従って、多くは決済時(代金の支払いと引換え)に所有権移転登記を行う旨の規定が置かれます。

実際の登記手続きは法務局への申請によって行われることから、代金の支払いと引換えの売主の義務は所有権移転登記手続きに必要な書類一式を買主に引き渡すことであり、契約書にもその旨を記載します。

 

13 強行法規に注意

不動産売買契約では主に上記の事項について自己に不利にならないような観点から契約書を作成することが必要ですが、ある一定の条件について当事者間で定めることができないことが法律で定められている場合があります(強行法規)。そのような場合に法律に違反する契約を行ったとしても、当該契約の効力は認められず、法律の範囲内に修正されます。例として、不動産売買契約では以下の条項が強行法規として問題になります。

・宅地建物取引業法第40条

宅地建物取引業者は、自らが売主となり宅地や建物を売却する場合は、瑕疵担保責任の行使期間を引渡時から2年以上とする特約を除いて、買主に不利になる事項を約束しても無効になると規定しています。よって、宅建業者が中古物件を消費者に販売する際に「担保責任を負う期間は引渡時から1年以内」というような規定を設けることはできません。

・住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条

新築建物の売主は、買主への引き渡しから10年間は建物の主要構造部分の瑕疵については責任を負わなければならず、これを短縮する規定は無効となります。

・消費者契約法8条

不動産売買について売主が事業者であり、買主が消費者である場合は消費者契約法が適用されますので、8条1項5号により瑕疵担保責任が生じた場合にその責任の全部を免除する旨の規定は無効となります。但し、瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は瑕疵を修補する責任を定めていた場合は免除の特約は有効になります。

 

以上、不動産売買契約は一般的に高額な取引であり、その特徴からも契約内容につきリーガルチェックすべき点は多い類型の取引です。リーガルチェックを怠ることにより、高額な損失が生じる可能性があります。グロース法律事務所では不動産売買契約のリーガルチェックも行っておりますので、これから不動産売買契約の締結を考えておられる場合は、一度ご相談ください。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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