入浴事故編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】

介護事故は、事故類型ごとに分類することが可能であり、介護事故全般に共通する対策の他に類型ごとに取るべき対策があります。

本稿では入浴時の事故について、実際の裁判例を基に事業所として取るべき対策について検討します。

 

注意義務違反の水準について

介護事故において、事業所が負うべき法的責任の一つに契約上の安全配慮義務違反がありますが、この責任の有無を判断するにあたっては、介護を行うものがどのような水準の注意義務を負うのかということについて争いになることがあります。

この点について、介護でも様々な場面がありますが、事故の起きる可能性が高いシチュエーションではより高度な注意義務(事故を予見し、回避する措置を講じる義務)が認められる場合があります。

本件の裁判例では浴室における転倒事故の危険性から高度な注意義務が課されています。

 

平成24125日青森地方裁判所弘前支部判決

  • 事案の概要

社会福祉法人の運営するデイサービスにおいて入浴介護サービスを受けていた高齢者が、入浴介助中に浴室内で転倒し、大腿骨を骨折し、後遺障害等級12級の後遺症が認められた事案。

 

  • 当事者

入所者 大正9年生まれ

入所以前に大腿骨を骨折し日常生活における単独歩行は困難な状態であった。そのため入浴介護を受けることを主な目的としてデイサービスの利用を始めた。事故時の養介護度は3であった。

事業所 特別養護老人ホームの他、老人デイサービス事業の経営を行う社会福祉法人

  • 事故に至る経緯
    •  入所者は平成201月に右大腿骨を骨折し、以降寝返りや起き上がりは自力で可能であったが、日常生活における歩行が困難であった。そこで同年4月より入浴介護を受けることを主な目的として、事業所におけるデイサービスの利用をはじめ、入浴介護サービスを受けていた。
    •  入所にあたり入所者の娘が担当者に、入所者が平独り歩きを試みていることに対して懸念を抱いていることを説明し、事業所も担当者会議においてその事実を把握していた。
    •  入所後9月ころから入所者は車いすや簡易トイレへの移動を少しの介助で行えるようになっていたが、かえって、待ったがきかずに不安定な体勢での移動を試みるようになり、そのことは事業所担当者も把握していた。11月には入所者は青痣をつくり、事業所担当者が確認したところ転んでぶつけたと回答していた。
    •  平成21年には下肢機能が相当程度回復し、自立歩行は困難であるものの立ち上がりが上手くなり、簡易トイレへの移動介助も楽になっており事業所も把握していた。
    •  平成21331日、入所者は他の利用者4名と共に入浴介護サービスを利用した。介護担当者は2名であった。

脱衣後入浴補助簡易車椅子に乗り、浴場に入場し洗身を終えた。その後他の利用者が洗身介助を介護担当者に依頼したことから、介護担当者は入所者に待っているように告げ、入所者もうなずいたことから、入所者の車椅子をすぐ側に移動させたうえで他の利用者の入浴介助を行っていた。すると入所者が突然前かがみになって車椅子ごとバランスを崩し、床面に転倒した。

入所者は当該転倒により左大腿骨を骨折し、後遺障害等級12級の後遺症が残った。

 

  • 事業所の主張

本件事故の際、介助担当者は入所者のすぐ横に座って他の利用者の洗身の介助を行っており、かつ入所者にそのまま座っているように伝えて入所者もうなずいていたことから、入所者に目を配りつつ洗身介助を行っていたにも関わらず、入所者がにわかに立ち上がったことから転倒したものであり、安全配慮義務違反を尽くしていた。

 

  • 裁判所の判断

注意義務について

「介護事業所の担当者としては、浴室という湯水や洗剤等により滑りやすい危険な場所において,一般的に身体能力が低下し刺激に対する反応性も鈍化している高齢者に対して入浴介助を行う際には,対象者の見守りを十全に行うなどして対象者の転倒を防止する義務があるところ,上記のように,日常的な自立歩行は困難であるものの,ある程度の挙動傾向のみられる対象者については,より転倒の危険が高いといえるのであるから,自立歩行可能な対象者に比べて更に高度の注意を払う必要があり,具体的には,対象者から目を離さないようにするとか,一時的に目を離す場合には,代わりの者に見守りを依頼したり,ひとまず対象者を転倒のおそれのない状態にすることを最優先とするなどの措置を取る義務があったというべきである。」として、入浴介助時には転倒の危険が類型的に高いことから、より高い注意義務が課せられているとしています。

具体的義務違反について

②③④により、入所者は日常的な自立歩行は困難であるが、ある程度挙動傾向のみられる対象者であり、転倒の危険が高いことは予見可能であり、他の利用者の洗身介助を行うにあたり、他の介助者に見守りを依頼せず、側に寄せて注視するだけでは注意義務を尽くしたことにはならない。として、事業所の責任を認めています。

 

裁判例からみる取るべき対応

本件では事業所に830万円の賠償が認められています。

この裁判例からわかることは、浴室など介護事故が発生しやすい危険な場所における介護については、より高度の注意義務(介護事故の予見可能性と介護事故の結果回避義務)が課されるため、事故を防止するために、より万全の体制で臨む必要があるということです。実際にこの判決の中では、入浴介助の人数(利用者5名に対し介助者2名であったこと)について、「介助者を増やすことは人数的に困難であったと認められるが、そのことをもって事業所の注意義務が軽減されることはない」と指摘しており、人員体制の不足は注意義務を軽減する理由になることはないと指摘しています。

入浴介助については、転倒の他、浴室内での溺死という重大な事故が発生し得る場ですので、人員体制も含め、十分な安全対策を講じることが求められているということができるでしょう。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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