内定をめぐるトラブルを避けるために

内定をめぐるトラブルの類型としては、

① 内定取消しあるいは、内々定の取消しをめぐるトラブル

② 内定辞退をめぐるトラブル

の大きく二つの類型があります。

これらについて、「内定」の法的性質から、使用者としてトラブルに巻き込まれないようにどのような対応をとるべきか、解説を致します。

 

内定取消しあるいは、内々定の取消しをめぐるトラブル

1 「内定」とは何か

「内定」は、法律的には、「始期付解約権留保付労働契約の成立」であると言われています。

具体的には、入社予定日を労働契約の「始め」とする、「労働契約を解約する権利が使用者側に留保された」、労働契約の「成立」を意味します。

 

まず、ここで抑えておくべきことは、既に労働契約が「成立」している、ということです。そのため、「内定の取消し」が「労働契約の一方的な解約」を意味することとなります。

一方、「内々定」は、事案により様々です。一般的には、上記したような追って「内定」をします、という段階に過ぎませんので、使用者労働者双方の意識としても、労働契約の成立まで認められない事案が多いかと思います。

しかし、内々定の取消しをめぐっても、使用者側に損害賠償請求が認められる例がありますので、この点は後述致します。

 

2 「内定」が取消しできるのは、どのような場合か

冒頭の紛争類型①を回避するためには、「内定」の取消しができるのは、どのような場合であるかを理解しておく必要があります。

 

これについては、既に最高裁判例があり、先ほどの使用者側に留保された労働契約の解約権の行使が認められるのは、採用内定当時知ることができず、また知ることを期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが、当該解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合、にのみ許されるものと解されています(最二小判昭54.7.20民集335582頁,判タ39932頁,最二小判昭55.5.30判タ41772頁)。

 

既に述べましたように、「内定」は労働契約の成立を意味します。従いまして、これを取消す、すなわち解約権を行使するということは、「解雇」と同じ意味合いを持つこととなります。

したがって、法律上は、解雇の場合と同様の理解が必要です。

 

その理解のうえにたって、ただ内定の場合には、まだ実際に働き始める「始期」までに、内定時と異なる情報や事情変更などがあり得るという特殊性から、通常の解雇とは少し判断基準が異なる場合があるという理解をしておく必要があると考えます。

 

そのような理解に立つと、内定時に使用者側において把握し、その検討のうえで内定を出したが、やはり懸念があるとして内定取消しを行う事案などでは、内定取消しが権利の濫用であるとして、慰謝料請求等が認められる例が多いことが理解出来ますし、使用者側としては注意が必要であるということとなります。

 

先ほどの最高裁判例の一つである最二小判昭54.7.20民集335582頁の事案は、入社2カ月前に会社が内定を出した従業員に対して「当初から感じていたグルーミー(陰気)な印象がぬぐえない。」として内定の取り消しを行った事案ですが、採用内定当時知ることができず、また知ることを期待できないような事実ではなく、こういった内定当時から懸念していた事実を前提に内定を取消すことは、それのみを理由としては基本的には不可と考えておく必要があります。

 

一方、採用内定後に、無届デモにより公安条例違反等の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受けるなどの違法行為をしたことを知ったため、採用を取り消した、という前記最二小判昭55.5.30判タ41772頁の事案では、内定取消しは有効なものと判断されています。

 

その他、採用時には、全く予期できなかった労働者側の身体的、あるいは精神的な変化によって就労予定であった業務が行えないと判断されるような例や、使用者側の経営状態の悪化により、事業縮小に伴う採用の見直しをせざるを得ないような場合にも、内定取消しが認められるものと考えられますが、その認定は相当に限定的なものと考えて、対応を行う必要があります。

 

3 「内々定」の取消し

「内定」と異なり、採用内々定関係は,多くの場合,企業及び応募者の双方共に、それにより労働契約の確定的な拘束関係に入った、との意識には至っていないと考えられます。

したがって、一般論としては,採用内々定によっては始期付解約権留保付労働契約の成立とは認められない例が多いと考えられます。

しかし、個々の具体的事案に応じて,当該ケースにおける拘束関係の度合いによっては,実質的に「採用内定」と認められることもありますし,またその「予約」として,一方的かつ恣意的な内々定の破棄については、使用者側に損害賠償責任を生じさせる意義を持つこともあると考えられています。

 

 

内定辞退をめぐるトラブル

上記と異なり、使用者としては、当該内定者が就労してくれることを期待していたにも拘わらず、予定者から内定辞退の申出をされた場合、法的にどのような対応が可能かということも、内定に関して押さえておくべき内容となります。

まず、前提として、「内定」が労働契約の成立を意味することは先ほど解説したとおりです。

 

したがいまして、内定の「辞退」というのは、この一旦成立した労働契約の解消を一方的に行う意思表示ということになります。

この点、民法では、「期間の定めのない労働契約については、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、解約の申し入れから2週間を経過することによって終了する。」(627条第1項)と規定されています。

 

すなわち、使用者側が内定を取り消す場合と異なり、また、一般的な退職と同様、内定辞退は、その解約の申入れから2週間を経過したときに申入れの効力が生じるとされています。

 

企業対応として、「辞退するのであれば、交通費を請求します」「今後、貴殿貴女の大学からは採用を見合わせることとなるので、その覚悟で」等々、採用をしたいばかりに内定辞退がされないようなやりとりをする例も見受けられますが、これらは、特別な合意が無い限り、法律上の根拠があるわけではありません。

 

したがいまして、辞退を思いとどまってもらうため、という企業側としての思いの伝え方を超えた対応は、思わぬ法的トラブルを生じさせますので、注意が必要です。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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