売主の責任の見直し

1 売主の責任の見直し内容

これまでの民法においては、売買の目的物に「隠れた瑕疵」がある場合に、売主に損害賠償義務等の責任が定められていました。

しかし、「瑕疵」って何?、代金減額請求は認められるの?といった、法解釈等で争いのある内容があったため、今回の債権法改正では、「隠れた」「瑕疵」という文言は、廃止し、代金減額請求を含めた売主の責任、買主が取り得る救済手段について明確に定めました。

 

2 「隠れた瑕疵」はどうなったか

これまでも、「瑕疵」とは、契約の内容に適合していないことと、というのが判例の大筋の理解でした。

そこで、そもそも売主は、売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務があることから、結局、当事者の合意した契約の内容に適合しているか否かが、「瑕疵」の問題であるとして、次のように規定が見直され、「隠れた瑕疵」という文言は使用が廃止されました。

 

(新562条)

「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、・・・履行の追完を請求することができる」

 

少し、事例で考察してみましょう。

(事例1

Xは、某有名メーカーの食器等のみを用いて飲食を提供することを売りにして、レストランをオープンさせることとしました。

Yは、某有名メーカーの食器等を取り扱う販売代理店で、Xからの相談を受け、レストランで使用する某有名メーカーの食器等について、Xに販売しました。

しかし、Yから納品のあった食器等には、一部ひっかきキズのようなものがある食器が混じっていました。

(事例2

Xはレストランをオープンをするにあたり、食器等取扱い業者のYとも相談のうえ、少し年齢層を高めに、落ち着いたお店にしたいと考え、Yに食器等の選定を一任しました。

Xは、開店予算も限られていたため、なるべく安価で食器等を準備して欲しいとYに要望し、Yは、高級な陶磁器のように見える食器等を輸入して調達出来るが、大量生産品で、輸送の過程で欠けることもあることをXに説明し、その前提にて、XY間では代金額が定められました。

その後、Xに食器等が納入されましたが、表面にYが言っていたようなキズがある食器がいつくつか見つかりました。

 

この二つの事例を比べていただくとおわかりのとおり、事例1では、キズのある商品は契約内容に適合しませんが、事例2では、キズのある商品が一部混在していることは代金額にも反映されており、交渉過程からしても契約内容不適合とまで言えない取引です。

この当たりが、一つ明確になったと言えます。

 

3 買主の救済手段

買主の救済手段についても、次とおり定められました。

① 追完請求権(=修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)

② 代金減額請求

③ 損害賠償請求権

④ 解除

このうち、①追完請求権の一つの「修補」請求、②代金減額請求については、これまで明文の規定がなく、契約で特に合意していた場合は別ですが、法律の規程上は、明確な規定がありませんでした。その点で、明確化、あるいは新設された買主の救済手段といえます。

実は、これは重要な内容を含みます。つまり、法律の規定では、これら買主の権利が原則となったわけですから、売主側としては、例えば代金減額請求までは認めたくないということであれば、これを契約書に書いておく必要があるということになります。

まさに、改正債権法の施行に伴って見直すべき契約内容の一つです。

 

以上、債権法改正に伴い、既存の契約書については、様々見直しのポイントがありますので、既存契約書チェックとともに、お気軽にお問い合わせください。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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