経歴詐称が判明した社員を懲戒解雇することができるか


【相談】

当社は、昨年6月、Aを中途採用しました。Aの履歴書の「賞罰」欄には、「特になし」との記載がありましたが、実際は、10年以上前ではあるものの、学生運動の際に二度逮捕勾留歴があり、うち1件について公務執行妨害の執行猶予判決があることが分かりました。その後も政治運動は続けていたようで、当社との面接の直前にも、政治運動に参加した際、同じく公務執行妨害中で逮捕され、すぐに釈放されたようで、面接の際、起訴まではされていなかったようですが、面接の際には逮捕されて刑事処分がまだ決まっていないことなどは何も説明がありませんでした。最近、Aから雑談で起訴されたことを聞いた社内の人間からの情報提供で、Aが公務執行妨害罪で起訴されたことが分かりました。

当社は、懲戒解雇事由にあたるものとして、Aに退職勧奨もしましたが、Aは賞罰欄の記載については嘘を書いたと認めたものの、面接直前に逮捕された件については、面接の際に特に質問もされなかったので、何も言わなかったと言い、過去の犯罪歴があるからといって懲戒解雇までされるのはおかしい、退職には応じないと言って、退職勧奨には応じませんでした。

懲戒解雇に踏み切ろうと思いますが、可能でしょうか。

 

【解説】

1 一般論としての懲戒解雇の可否

本稿では詳しく触れませんが、懲戒解雇には一定の根拠、手続が必要です。

懲戒解雇は、企業秩序の維持を目的として行われるものであるものの、企業秩序を大きく乱す行為が行われたとしても、労働契約あるいは就業規則に、その行為が「懲戒解雇事由」として具体的に列記されていなければ、懲戒解雇を行うことが出来ません。

また、手続としては、懲戒処分に先立ち労働者に「弁明の機会」を与えることは必須ですし、就業規則に規定があれば、例えば懲戒委員会を開催することも必要です。

加えて、客観的合理的理由があり、社会通念上も相当と言える場合でなければ懲戒解雇は出来ません。

これらについては、別稿を参照下さい。

 

2 経歴詐称について

(1) そもそもなぜ労働者は入社面接の際に真実を告知すべきであるのか?

まず、大前提として、労働者がなぜ入社面接の際に経歴につき真実を告知すべきであるのかという点ですが、法的な説明としては、企業秩序の維持に関係することだからということが出来ます。

具体的に言いますと、労働契約というのは、単に労働してもらう、それに賃金を支払うという関係にとどまりません。労使相互の信頼関係を基礎とした継続的な契約関係にあります。学歴や職歴、経歴は、求人側としては労働力の評価に直接かかわる事項でもありますが、継続的な信頼関係、という視点でみた場合、職場内での適応性、会社への貢献意欲、企業の社会的信用の維持、という意味での企業秩序の維持にも大きく関わる内容です。

このような視点で見た場合、賞罰欄での、特に「罰」という意味での犯罪歴や、過去の懲戒解雇歴などは、企業秩序の維持という点では極めて重要な事項となります。

判例上もこうした視点のもと、企業秩序の維持に関係する事項については、会社が必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うとしています(東京高判平成3220日労判59277頁が具体的に判示しています。維持した上告審は最一小判平成3919日労判61516頁)。

(2) 学歴や犯罪歴の有無の虚偽申告はどう判断されるか?

上記説明のとおり、最終学歴は、単に採用側の労働力評価に関わるだけではなく、企業秩序の維持にも関係する事項となり得ます、犯罪歴についても同様です。

よって、求職者は、これに対し、真実を申告すべき義務を有していると言えますし、懲戒解雇相当と考えられる重大な経歴詐称等と認められる例が多いと言えます。

但し、制限的に考えられる例があることにも留意が必要です。

仮に虚偽申告がなされたとしても、その後会社に長年勤務し、その間特に過去の犯罪歴と同種と思われる秩序違反も認められないような場合等ケースは様々です。

個別のケース対応はご相談下さい。

(3) また、判例上(上記紹介の判例)は、「履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうものと解すべきであり、公判継続中の事件についてはいまだ判決が言い渡されていないことは明らかであるから、控訴人が被控訴会社の採用面接に際し、賞罰がないと答えたことは事実に反するものではなく、控訴人が、採用面接にあたり、公判継続の事実について具体的に質問を受けたこともないのであるから、控訴人が自ら公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったということも相当とはいえない。」とされていることにも注意が必要です。

設問のケースでは、採用前には有罪判決は確定しておりませんので、賞罰がないとの申告を行っていたとしても、これを懲戒解雇の事由とすることが出来ません。

 

3 求人側としてどうすべきか?

判例も踏まえると、経歴詐称の問題については、採用面接時において、どのような事項をどの範囲で質問し、回答を求めることが出来るかをしっかりと認識しておくことが必要です。履歴書の記載について、聞きにくいから聞かなかったということでは、後日、質問されなかったので答えなかっただけ、という弁明をされ、懲戒事由につながらなかった、ということもあり得ます。

採用時から留意すべき問題としてご検討下さい。

 

グロース法律事務所によくご相談をいただく内容

・能力不足、勤務態度不良の社員に対してどのように対応したら良いか分からない。

・直ちに解雇したい。退職勧奨はどのようにしたら良いか。

・懲戒処分をしたいが、どのような手順で進めたら事後問題が生じないか。

・解雇をした社員から解雇無効を主張されている。どのように対処すべきか。

・問題社員に対応できるように就業規則を見直したい。

問題社員分野に関するグロース法律事務所の提供サービスのご紹介と費用

〇注意指導等をどのように行うべきか。

・事案に応じた各種書式の作成・提供等

(費用の目安)

5万5000円~

顧問契約先様の場合、ひな形提供、若干の修正は顧問料内

〇退職勧奨をどのように行うべきか。

・従前の対応の確認、事案の把握

・スケジューリング、Q&A、当日の具体的対応

・事後対応

(費用の目安)

継続案件の場合は、11万円(税別)~又はタイムチャージ

〇懲戒処分をどのように行うべきか。

・従前の対応の確認、事案の把握

・弁明の機会の対応

・懲戒処分通知書等の作成フォロー

(費用の目安)

継続案件の場合は、11万円(税別)~又はタイムチャージ

〇訴訟対応

訴額等に応じて算定

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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