徘徊事故編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】

介護事故は、事故類型ごとに分類することが可能であり、介護事故全般に共通する対策の他に類型ごとに取るべき対策があります。

本稿では徘徊事故について、実際の裁判例を基に事業所として取るべき対策について検討します。

 

予見可能性と結果回避可能性

介護事故において、事業所が負うべき法的責任には不法行為責任と契約上の安全配慮義務違反がありますが、いずれにおいても責任の有無を判断するにあたっては、その介護事故が発生すること(危険)を予見することができたか(「予見可能性」)と、何らかの措置を講ずれば介護事故の結果を回避することができたか(「結果回避可能性」)が検討されます。この予見可能性と結果回避可能性が認められた場合に、事業者は介護事故について賠償責任を負うことになります。

以下の裁判例でも予見可能性と結果回避可能性について争点になっています。

 

平成28年9月9日福岡地方裁判所判決

  • 事案の概要

社会福祉法人の運営するデイサービスに通所していた高齢者が、非常口から施設を抜け出し、行方不明になり、同日夜に低体温症により死亡した。

 

  • 当事者

利用者:昭和12年生まれ 要介護2

アルツハイマー型認知症

(認知症高齢者自立度ⅢaないしⅢb

事業所:社会福祉法人

養護老人ホームの経営、老人デイサービスの経営

デイサービスは特別養護老人ホーム等の建物の2階の1区画にある。事故当時は28名の利用者に対し、9名の職員体制であった。

 

  • 事故に至る経緯

①利用者は平成25年ころにはアルツハイマー型認知症と診断され、認知症高齢者自立度についてⅢa(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが主に日中を中心にみられ介護を必要とする状態)ないしⅢb(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが夜間にもみられるようになり介護を必要とする状態)と評価されていた。そして、主治医意見書介護認定審査会の審査においてもいずれも徘徊がある旨が明記されていた。

②平成25年12月利用者と事業所はデイサービス利用契約を締結した。その際に作成されたデイサービス計画において、利用者に徘徊癖があることは明記されていた。

③事故当日の人員体制について、利用者28名に対し9名の職員で対応し、実際に利用者が施設を抜け出した昼の時間は4名が昼休憩で5名により見守りを行っていた。

④正面建物玄関や正面出入り口には職員常駐する事務所が併設されたり、人が出入りすると鈴の音がなる装置が設置されていたが、非常口にはそのような装置は設置されておらず、また施錠もされていなかった。

⑤事故当日の朝、利用者は「帰りたい、主人が迎えに来ている」などと話し、帰宅願望が認められた。

⑥同日昼ころ、利用者はデイサービス建物内を歩行し、非常口から施設を抜け出し、敷地外へ出た。その後20分後に職員が抜け出しの事実に気付き捜索活動を行ったが利用者を発見することはできなかった。

 

  • 事業所の主張

◎施設を抜け出す予見可能性はなかった

利用者は事故まで7回程度デイサービスを利用しているが、異常行動があることは確認できず、ほぼ自立して活動していたのであり、施設を抜け出すという行動について予見することはできなかった。

 

◎結果回避可能性はなかった(取りうるべき対策は講じていた)

一般的な利用者が通常使用する正面玄関は人の出入りを監視する体制が構築され、正面出入り口は利用者の出入りを把握する装置が設置されていた。全ての出入り口について施錠を行うことは利用者の自由な行動を制限することであり、拘束に該当しそのようなことはできない。

非常口については、消防からの指導もあり施錠しておらず、過去に一般的な利用者が使用したことはなかった。

29名の利用者を監視する体制としては人員も含めて十分備わっていた。

 

  • 裁判所の判断

◎予見可能性について

①②⑤により、利用者が建物から抜け出し、徘徊を行うことは予見することが可能であった。これまでに異常行動が見られなかったとしても、利用者に徘徊癖があるということを認識している以上、施設からの抜け出し徘徊を警戒するべきことは当然である。

◎結果回避可能性について

③について、施設としての人員体制について問題があるとは言えない。また、④について施設の物的な体制の不備があるとも言えない。

しかし、①②⑤などにより利用者の施設抜け出し・徘徊のおそれがあったことは明らかであり、利用者の動静を見守る義務があった。

本件では具体的に利用者の動静を見守っていたとはいえず、動静を見守るべき義務(注視義務)違反が認められる。

 

裁判例からみる取るべき対応

本件では事業所に3000万円の賠償が認められています。

この裁判例からわかることは、

認知症の症状等により、施設からの抜け出し、徘徊のおそれが指摘されている利用者については、抜け出し・徘徊の可能性が高まるにつれて(本件では午前中に帰宅願望が強くなっていることが認識されている)、具体的な動静見守りを行わなければならないということです。

そのためには、まず各利用者の抜け出し・徘徊の可能性についての一般的な情報を職員間で共有しておくことはもちろんのこと、具体的に抜け出し徘徊の可能性が高まった場合にはその情報を速やかに共有し、注視体制(担当者をつける、全員で当該利用者への見守り意識を高めるなど)を構築できる体制を構築しておかなければなりません。

また判決では施設の物的な体制の不備はないとされていますが、非常口にブザーの設置をしていれば、この利用者の抜け出しは防げた可能性は高いと思われます。よって、そのような物的設備の体制を見直すことも必要です。

これらのことを行うには、普段からマニュアルを整備すること、ヒヤリハット報告により危険を洗い出しておくこと、何よりこれらの情報を常に共有する体制を作ることが不可欠です。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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