コロナ禍における債権回収 ~特に破産懸念先からの債権回収の留意点~

1 コロナ禍における倒産件数の状況と今後の動向

東京商工リサーチが2022年1月13日に発表した2021年の企業倒産件数は、前年比22パーセント減の6030件でした。これは、コロナ禍で経営状況が悪化している企業に対して国や金融機関による積極的な資金供給、財政支援があってのことと考えられます。

 

このような低水準の倒産件数は本年中にも増加傾向に転じるとの見方もありますが、今後も経済に与える影響を考えた場合に、一転して資金供給が絞られたり、金融機関が強硬な債権回収に走るということも考えがたいのではないかと思われます。

 

一方、長引くコロナ禍の経営では売上自体が伸びていない実態もあり、本業によるキャッシュが得られない結果、取引債権に対する支払いについては、公租公課や固定経費の支払いの後回しにされる結果、部分的な回収にとどまったり、支払いが遅滞したりという状況が続くことが予想されます。

 

本項では、上記状況を踏まえて、緊急時の債権回収のため、また平時の債権管理のためにどういった視点をもって取引先と向き合い、債権回収を図るべきかについて概説致します。

 

2 取引先の信用情報の収集と対応の検討

取引先の資金繰りが悪化しているかどうか確知することは容易ではありませんが、従来の取引先であれば、①支払猶予の申し入れ、②分割弁済の申し入れ、③申し入れ無き支払い遅滞、④契約後の値引き申し入れ、⑤取引先従業員の離職情報、⑥営業店舗の閉鎖、縮小、移転等によって、推知することは可能です。

 

当該取引先が例えば貴社の唯一の販売先ではなく代替先があるような場合には、こうした兆候を踏まえて、いち早く100%の債権回収をはかる必要が生じます。具体的には、こうしたケースでは、他の債権者への支払いも遅滞し初めていることが多いため、弁済期の変更等に応じることなく、支払いを求めたり、取引基本契約等での解除事由に該当する場合には、契約を解除するなど、負債が増大しないよう検討していく必要が生じます。

 

一方、当該取引先が貴社にとっても重要な仕入先、販売先である等貴社の事業活動において切っても切り離せない関係の時は事態は深刻化するおそれがあります。こうしたケースでは、貴社は他の仕入先、販売先等を見つけるなども同時に進めなければ、連鎖倒産のリスクが生じてきます。当該取引先が販売先の場合には、売掛金の未収が生じるとともに、貴社の仕入先への支払いにも影響が生じるなどしてくるため、いずれにしても、未収のリスクを減らすこと、その時点での可能な限りの債権回収が重要となってきます。

 

前記した兆候(但し、③⑤⑥は倒産可能性が高い兆候です)が見られる取引先は、まだ具体的な倒産手続の申立までは予定していないことも多いと思われますので、貴社の未収リスク、連鎖倒産のリスクを考えた場合には、他の債権者に先んじて債権回収を図ることが重要となってきます。

 

3 回収手法

(1) 任意での請求と回収、契約解除

ひとまずは任意での請求を行うこととなります。この場合、当然債務者は資金繰りのために支払先や額を選んでいることも多いと思われます。権利行使も行き過ぎた場合には刑法犯に触れる可能性もありますので、その点は当然留意が必要ですが、情に流されて支払い猶予に応じた結果、後に回収出来なくなったという例は多く相談事例で存します。

 

支払猶予に応じるとしても、書面で具体的な合意(弁済期やさらなる支払遅滞の場合のペナルティ等)をすべきですし、人的担保も含めた担保設定を考えるなど、支払を猶予しても回収が見込めるだけの交渉と合意は行っておく必要があります。

 

また、継続的取引関係にある売掛先であれば、契約解除があり得ることも前提に交渉することも必要となる場面があります。契約解除のうえ、販売商品の返還を請求する選択肢も含めて具体的な交渉を行っておく必要があります。

 

(2) 相殺、担保(商事留置権等)

売掛先に対して、同時に(相殺禁止に該当しない)債務も負担している場合には、相殺によって実質的な債権回収を図ることが可能です。但し、売掛金について弁済期が到来している必要がありますので、こうした場合に備えて、取引基本契約などで売掛先の期限の利益を喪失させる条項について合意しておくことが平時から重要です。また、緊急時に急遽売掛先からの債務を負担するということも難しいため、相殺可能な債権債務関係(保証金の預かり等)を作っておくことは平時の債権管理として重要です。

 

また、緊急時には商事留置権も効果的な機能を発揮することがあります。

 

商事留置権は、商人である債権者が、同じく商人である債務者に対して商行為に基づく弁済期にある債権を有し、債務者の所有する物又は有価証券を占有していれば、債権者は商事留置権に基づいてその物又は有価証券を留置することができるというものです。

 

売掛先の資金繰りの関係で支払い猶予を求められた場合には、売掛先の所有物(他の在庫商品)を預かるなどで商事留置権を主張できる状態を作り出しておくことも債権保全策としては考えられます。売掛先がいざその所有物を返して欲しいという状況が生じた場合には、弁済がなされない限り返さない、という主張が出来るため、これによって任意弁済を期待出来るのです。

 

(3) 保全

売掛先が支払いを遅滞し、訴訟の結果を待っていては回収が出来ないと判断されるケースでは、売掛先の金融機関の口座や所有不動産を仮差押え  したりすることも考えられます。

 

もっとも、口座情報は容易に分からないことも多いですし、不動産については担保が設定されているケースがほとんどですので、断念せざるを得ないケースも多く見られます。また、仮差押が引き金となって倒産に至るケースもあるため、ケースバイケースで申立は検討が必要です。

 

とはいえ、仮差押命令が発令された結果、急遽債務者から和解を求められて支払いがなされてくるケースもあるため、売掛先(債務者)の信用情報、取引状況などを出来る限り情報収集のうえ、申立の判断を行っています。

 

以上は売掛先につき破産手続が開始されるまでを想定し概説しています。

破産に至るケースでは、破産手続が開始されるまでに債権回収を完了していたとしても、破産管財人に否認(否認権の行使)される場合もあり、破産法の要件が認められる場合には、破産管財人に返還しなければならない場合もあります。

また、担保権の有無によっても取扱が大きくことなってきます。これらの点については別稿で解説予定です。

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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