賃貸借契約書とは②(原状回復義務)
本稿では、賃貸借契約のうち、原状回復義務について、留意点やひな形などを解説いたします。
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原状回復義務
賃借人は、賃貸借契約が終了した際に、契約上、原状回復義務を負います。
ここでしばしば問題となるのが、
「畳がすりへっている」
「フローリングにこすり傷がある」
「網戸が破損している」
「壁面が変色している」
「たばこの火の不始末と思われるコゲがある」
「壁面にネジ穴がある」
といったような例で、賃貸人と賃借人のどちらが原状回復の費用を負担するのか、という点です。
「原状回復」義務については、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」において、
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
と定義され、その費用は賃借人負担とされています。
一方、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとされました。
そして、国土交通省の賃貸住宅標準契約書(改訂版)では、負担区分について、上記ガイドラインにおいて定められた内容にしたがった別表を付けて、標準契約書としています。一部を抜粋すると、
床(畳・フローリング・カーペットなど)については、
(賃借人負担)
- 畳の裏返し、表替え(特に破損してないが、次の入居者確保のために行うもの)
- フローリングのワックスがけ
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
(賃貸人負担)
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合)
- 冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害を与えた場合)
- 引越作業等で生じた引っかきキズ
- フローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
とされています。
賃貸物件のオーナーとしては、まずは、ガイドラインや諸判例に従い、原状回復義務としては、一般論として、どのような負担が賃貸人に求められているのか、あるいは賃借人に求めることが出来るのかを踏まえておくことは、紛争回避のために大変重要なこととなります。
特に、賃貸人と(法人ではない一般の)賃借人の場合、賃借人には、借地借家法による保護のほか、「消費者契約法」という、消費者(賃借人)を特別に保護する法律も適用されます。
契約書において、たとえ原状回復義務については、すべて賃借人の負担とする、と記載していたからといって、争われた場合には、「決して」そのとおりにならないと言って過言ではありません。
上記ガイドラインを踏まえたうえで、それ以上の負担を賃借人に負って欲しいと考える場合には、以下の内容につき、理解しておく必要があります。
まず、原状回復義務の範囲に関し、一般的な範囲以上に賃借人に負担させようとする場合には、特約、を結んでおく必要がありますが、その特約については、最判平成17年12月16日において、次のように示されています。
「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」
また、消費者契約法では、その第 9 条 1 項 1 号で「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の 予定」等について、「平均的な損害の額を超えるもの」はその超える部分で無効であること、同法 10 条で「民法、商法」等による場合に比し、「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定されていますので、この点も意識した特約にしておく必要があります。
これらを踏まえて、上記ガイドラインにおいては、
① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて 認識していること ③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること |
が特約が有効とされるための要件として示されています。
さらに、賃借人の義務負担の特約である以上、賃借人が義務負担の意思表示をしているとの事実を支えるものとして、特約事項となっていて、将来賃借人が負担することになるであろう原状回復等の費用がどの程度のものになるか、単価等を明示しておくことも、紛争防止のうえで欠かせないものであると考えられる、としています。
このように、原状回復義務の範囲や負担を巡っては、トラブルになりがちである一方、既にガイドラインや諸判例も出されているところであり、特約を結ぶ上においては、十分にその内容を理解しておく必要があります。契約書にクリーニング特約がある、というだけではその書き方次第では特約が無効とされてしまう場合がありますので、留意が必要です。
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徳田 聖也
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