システム開発委託契約書について

1 システム開発契約書とは~注意すべき全体像~

(1) タイトルについて

システム開発契約書は、「開発契約書」「開発委託契約書」「業務委託契約書」など、様々なタイトルで使われることがありますが、契約書のタイトルは契約内容の判断に必要な情報ではあるものの、民法上は、「請負」と理解されるものがほとんどです。従いまして、どのようなネーミングをとるにせよ、一般的にはシステム開発に関する請負契約書、と理解しておく必要があります。

(2) 何を書いておくべきか

発注する側と、受注する側、では判断のポイント自体は異なりますが、請負、であることを踏まえて、次のような内容は必須です。

① 受発注業務は特定されているか?

② その完成形は仕様書などで特定されているか?

③ 請負代金はどの仕事に対する対価として定められているか?

④ その支払い時期は?

⑤ 仕事の完成を何で確定させる?

⑥ 不具合の対応は?

また、システム開発には、新たに知的財産権が発生し、あるいは既存の知的財産権が利用されることがほとんどであるため、一般的な秘密保持契約のほか、著作権、特許権等の知的財産権が、誰に帰属するのか、ということにも気をつけなければなりません。

このような、全体像を理解したうえで、契約書をチェックしていくことが必要です。

 

2 実際には、どのような条文とすべきか

(本契約の目的)

委託者は、本契約に基づき、受託者に対し、●●向けメール配信システム(以下「本件システム」という。)の企画、設計、構築等に関する業務(以下「本件受託業務」という。)を委託し、受託者は、本契約に基づき、当該業務を受託した。

 

まずは、契約の目的です。どのような目的のためにこの契約を締結するのか、ということは、契約の範囲や性質を判断するうえで必要です。個別の条文でも特定できますが、個別の条文の解釈の大前提となるものですので、明確に規定をしておくべきです。

 

(本件受託業務の内容)

本件受託業務の概要は、次のとおりである。

  本件システムの企画業務

  本件システムのサーバー構築・基本設計業務

  本件システムのアプリケーション設計業務

  本件システムのアプリケーション開発、デバッグ業務

  その他前各号に関連する業務

 

受託業務の内容を定めることは、システム開発契約書の要となるものです。

①~④も、前提となる企画状況や、既存システムの有無等によって、様々決め方がありますが、どのような業務が契約の内容となっていて、どのような業務に対して、対価が支払われるのか、という重要な決め事となります。

あえて、⑤についても規定例を載せましたが、これは実は争いの内容になりかねない、という意味合いで載せています。なぜなら、委託する側は、ここまでしてくれると思っていた、受託する側は、そこまでやるならもっと受託料をいただかなければ出来ない、ということにもつながりかねないからです。

明確に規定する、という視点からは、個別に追加合意していくこともできるわけですから、⑤については削除が望ましいと言えます。

 

(委託料)

1 委託者は、本件受託業務に対する対価を、以下に定める金額によって、本契約に定める時期に受託者に支払うものとする。

① 本件システムの企画業務及びサーバー構築・基本設計業務

円(税別)

② 本件システムのアプリケーション設計業務

円(税別)

③ 本件システムのアプリケーション開発、デバッグ業務

円(税別)

2 次の各号の一に当たるときは、相当額の追加費用が発生することを原則とし、受託者は再見積を行って委託者に対し委託料の変更を請求することができる。

(1) 委託者の都合により本件受託業務の仕様等が変更されるとき。

(2) 成果物の納入期限が委託者の都合により変更されるとき。

 

委託料の定めにおいて、重要なことは、どの業務(仕事の完成)に対し、どの対価が定められているかということです。総額で支払いをする場合もありますが、受託業務の内容が多岐にわたる場合には、段階的に大きな区分けができる業務毎に対価を定めることも必要です。上記はその例です。

また、システム開発につきものとなるのが、追加作業です。法的紛争の多くのパターンは、追加修正作業に費用が発生しているのか、という内容です(他には、システムの不具合や未完成)。受託側としては、上記の例によって、追加費用が原則発生するということを明記しておくことが必要です。

 

(仕様の確定)

1 受託者は、別途本件受託業務の内容、範囲その他の明細事項を定めたシステム仕様書を作成した上、委託者に対してこれを交付し、委託者は当該システム仕様書を確認する。その上で、委託者及び受託者は、それぞれこれに記名押印して、これを確定システム仕様書として確定する。

2 受託者は、確定システム仕様書に基づき、本契約に従って本件受託業務を遂行するものとする。

 

仕様の確定は、仕事の完成を何をもって判断するか、どこまでが設計・開発の範囲で、追加費用はどこから発生するか等様々影響を持つ内容です。

したがいまして、詳細は割愛しますが、仕様の変更が生じた場合に、どのように合意していくかという内容も含めて、詳細に規定しておくことが望ましいです。

 

(検収)

1 受託者は、別途定める納入期日までに、別途定める納入条件により、別途定める成果物(以下、「本件成果物」という。)を、別途定める納入場所に納入するものとする。

2 委託者は、受託者の支援を得て、納入後7日以内に、本件成果物に対するシステムテストを実施し、確定システム仕様書に適合する場合には、受託者に対して、書面によりその旨を通知することにより、検収を完了する。

3 前項の検収により、確定システム仕様書に適合しない場合には、委託者は受託者に対し、具体的な不具合を指摘してこれを通知し、受託者は当該不適合部分につき無償修補を行うものとする。但し、当該修補作業を行うにつき、受託者において、主要なプログラムの修正が必要になる等本件システムの主要部分の修正が必要と判断した場合には、委託者と受託者は、追加費用、その額及び修正期間等を別途協議する。

4 当該テスト期間内に、前2項の通知がない場合及び不具合の指摘がない部分については、当該テスト期間満了をもって、検収を完了したものとみなす。

 

検収についての規定例です。検収を行うにあたっては、何をもって成果物が完成しているといえるのか、といった基準が必要ですので、先ほど述べましたとおり、「仕様書」を前提として確定しておく必要があります。

この検収によって、それが完了すれば費用の請求をすることが出来ますし、また検収時に不具合が見つかれば、それを手直しするという問題も生じます。多くあるトラブルの一つに、いつまでも無償で修正作業を余儀なくされる、という例があります。これは「仕様書」を確定していなかったり、検収方法について明確に規定がなかったり、といったことに起因するトラブルです。こういったトラブルがないように、という視点から契約内容を確定していく必要があります。

(著作権)

本件受託業務により受託者から委託者に納入された本件成果物に関する著作権は、受託者に帰属するものとし、受託者は委託者に対し、委託者が自ら本件システムを使用するために必要な範囲で、著作権法に基づく利用を無償で許諾するものとする。

著作権についての例だけを紹介致しますが、上記は、受託者側に権利が帰属することを明らかにする例です。ケースによっては、代金支払いとともに、一切の著作権が、委託者から受託者に移転するという例もあるかと思います。

このような場合でも、引き続き委託者側が次の開発のために、本件システムの原型となる従前から委託者側がもっていたシステム情報等を使用する例もあります。その場合、受託者に著作権が帰属するとだけ合意してしまうと、著作権法違反の問題が生じますので、上記に加えて、「委託者が、本契約締結前から有していた著作権その他の知的財産権は、引き続き委託者に帰属することを確認する」という規定を設けることも必要です。

 

システム開発契約書に関しても、委託者側、受託者側、どちらの立場にたって契約をするのかによって、検討ポイントは大きく異なります。以上の全体像をベースとして、貴社の取引形態に合わせた契約書作成を行うことをおすすめ致します。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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