施設からの利用契約解除について(裁判例を基に)

 

 

介護施設における利用者からの暴言・暴力の箇所で紹介したとおり、利用者が周囲の利用者や従業員に暴言・暴力を行った場合に、施設から当該暴言・暴力を行った利用者に対して利用契約の解除を行うことが必要な場合があります。

そのため、利用契約書においては施設からの解除条項を定める必要がありますが、介護施設利用契約は福祉サービスであり正当な理由なく提供を拒むことはできないことや、また継続的な利用を前提にした契約であること、当該施設が終の棲家として想定されていることなどから、軽微な債務不履行では施設側から契約解除することは認められず、施設側からの契約の解除が認められるには利用者の行為により信頼関係が破壊されているなどの要件が付加されることが考えられます。

本稿では、福祉施設において施設側からの解除の効力が争われた事案を紹介いたします。

 

【平成2658日大阪地方裁判所堺支部判決】

・当事者

利用者X 幼少期から知的障害(総合判定A)および四肢麻痺を有する成人女性

事業所  指定障害者施設を運営する社会福祉法人

利用契約につき、施設からの解除として

「利用者が施設やサービス従事者又は他の利用者に対して、契約を継続しがたいほどの重大な背信行為を行った場合、利用者に対し、30日間の予告期間を置いて契約を解除することができる」との規定が定められている。

 

・事案の概要

社会福祉法人が運営する障害者支援施設において、利用者Aが利用者Xに対し暴行を行い、利用者Xは後頭部打撲等の怪我を負った。当該暴行を受けるまで利用者Xは平日において毎日施設利用を行っていたが、当該暴行事件を契機に施設側は今後は利用者Xの利用を従業員が比較的利用者Xに対して手厚く支援できる土日に限定した利用とする旨を決め、利用者Xの両親に告げた。

しかし、両親は利用者Xは暴行の被害者であるにもかかわらず、その後の施設利用を制限されることに納得がいかず、また、利用制限について議論を行わず結論を決めている施設に憤り、話し合いの場で、父親が強く机を叩き施設長に対し「おい、お前な」と強い口調で抗議した。また、母親も利用者Xの利用制限は人権侵害であり、また職員から名誉を棄損されたとして訴えるとの発言を行った。

施設側はこれらの両親の言動は施設への脅しであり、利用者の重大な背信行為に該当するとして、利用者Xとの利用契約を解除した。これに対し利用者Xは解除の効力が認められないとして争った。

なお、利用者Xは12年間当該施設を利用しているが利用者X(及び両親)がこのような言動に及んだのは初めてであった。

 

・裁判所の判断

裁判所は以下のように述べて、施設からの解除を認めませんでした(呼称等一部変更しています。)。

「確かに、利用者父は、施設との平成二四年五月五日の話し合いの場で、机を叩き、大声をあげるなど、不穏当な言動をした場面があった。
 しかし、利用者父が施設職員に対してこのような言動に及んだのは、利用者が本件施設を利用してから一二年間で、この一回のほかにない。しかも、利用者父がこのような言動に至ったのは、本来、本件事故の被害者であるはずの利用者が、施設の一方的な判断により、本件施設の利用を土曜日と日曜日のみに制限され、当日、一時間四五分もの長時間の話し合いを経ても、施設が何ら譲歩の余地も見せずに、結論ありきとして話し合いを打ち切ろうとしたところにある。」

「このような従前の経緯や当日の被告の対応に照らすならば、利用者父が、上記のような不穏当な言動に及んだとしても、真にやむを得ないとみるべき側面があり、これを重大な背信行為であると評価するにはなお十分でないというべきである。」

 

施設側からの解除において考慮される事情

上記の裁判例からわかることは、利用者側に単に不穏当な言動があるというのみでは、利用契約の解除は認められない場合があるということです。

利用者側の暴行・暴言を理由とする解除の有効性について考慮される事情は、利用者側の行為の重大性・悪質性、契約期間における暴行・暴言の回数、施設側の落ち度などが考えられます。

施設側が繰り返し真摯に対応しているにもかかわらず、利用者側(家族を含む)が執拗に不相当な言動などを繰り返している場合などは、信頼関係が破壊される事情となります。そのような場合に備え、施設側が真摯に対応していたことを示す証拠を確保する必要があり、そのような利用者等へどのような対応を行ったかなどを報告書のような形で残しておくことも重要です。

 

グロース法律事務所がお手伝いできること

グロース事務所では社会福祉法人における利用者対応について随時ご相談を受け付けております。利用者対応でお困りの場合は、ぜひ一度ご相談ください。

 

グロース法律事務所によくご相談をいただく内容

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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