労働時間の管理

 

会社は従業員の労働の対価として給与を支払うため、個別の従業員の労働時間を把握しなければなりませんが、そもそも労働時間とはどのような時間を指すのでしょう。これを誤って解釈していると意図せずに給与が未払いになってしまうなど、様々な弊害が生じます。そこで会社として労働時間・休憩・休日についてのルールを把握しておくことは重要です。

 

労働時間とは

労働時間とは「使用者(会社)の指揮命令監督のもとに置かれている時間」を指します。そして、指揮命令監督のもとにあるか否かは、労働契約や就業規則などの定めでではなく、従業員の状況を客観的にみて決められるものとされています。

すなわち、就業規則で始業時刻が午前8時30分と定められていた場合でも、客観的に、実際に午前8時からの就業の実態があれば、午前8時からが労働時間ということになります。

それでは具体的にどのような状態が「指揮命令監督のもとにある」といえるのでしょうか。基本的な考え方は、従業員にとって業務上義務になっているか否かという点です。任意に行っているように見えても、実質上義務化されている状況では「指揮命令監督のもとにある」と判断されます。

例えば、労働時間の始期においては、始業時刻前の準備が問題になります。制服や作業着などの着替えについては、当該制服などへの着替えが義務的なものとされている場合は労働時間になると考えられています。

また、朝礼や準備体操、会議、引継ぎ作業などについても、それが業務上欠かせない場合や義務的である場合は労働時間になると考えられています。

これは、労働時間の終期においても同様であり、点検作業や片付け、ミーティングなどについても義務的なものであったり、業務上必須である場合は労働時間に該当します。

なお、通勤時間は労働時間に含まれないと考えられています。

 

法定労働時間と所定労働時間

労働基準法(以下「労基法」といいます。)32条は、使用者は労働者に休憩時間を除いて、週に40時間及び1日8時間を超えて労働させてはならないと規定しています。例外はありますが、これが法で定められた労働時間の上限であり「法定労働時間」といいます。

一方、個別の労働契約や就業規則で定められた労働時間を「所定労働時間」といいます。

所定労働時間が法定労働時間を超えるように定められている場合、その超えている部分について無効になり、法定労働時間の基準によることになります。

なお、常時10人未満の商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客・娯楽業(飲食店など)の小規模のサービス業などについては、一日8時間の上限は変わりませんが、一週間の法定労働時間は44時間までとされています。

 

36条協定

法定労働時間を超えて従業員に働いてもらうには、労基法36条に基づく労働組合等との協定(いわゆる36協定)をして、その協定を労基署に届け出る必要があります。これを行っていない場合は、そもそも従業員に残業を命じることはできません。36協定がないにもかかわらず、残業を命じている場合は罰則がありますのでご注意ください(なお、この場合も会社が従業員に対し残業代を支払わなければならないのは当然です。)。

なお、休日出勤を命じる場合にも36協定が必要となります。

 

時間外労働・休日出勤の割増賃金

従業員に時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合は、通常の賃金に一定割合を乗じた額の割増賃金を支払わなくてはなりません(労基法37条)。

割増賃金が必要な時間外労働とは「法定労働時間」を超える労働であり、「所定労働時間」は超えるものの「法定労働時間」内の労働時間については、当該時間について当然残業代は支払う必要があるものの、割増をする必要はありません。

また、深夜労働とは午後10時から午前5時までの労働を指します。

それぞれの割増率は時間外労働が25%以上、休日労働が35%以上、深夜労働が25%以上と定められていますが、それぞれが重複する場合の割増率については次のように定められています。

 

・時間外労働+深夜労働=50%以上

・休日労働+深夜労働=60%以上

・時間外労働+休日労働=35%以上

 

なお、一ヶ月60時間を超える時間外労働については、その超える部分について割増賃金率は50%以上に定めなければなりません(労基法37条1項但書)。なお、中小企業については当該規定の適用は猶予されていましたが、平成35年(2023年)4月1日以降は中小企業にも適用されることとなっていますのでご注意ください。

 

休憩

 

(1) 休憩とは

労基法34条では、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならないと定めています。そして、休憩は「労働時間の途中に」「一斉に」「自由に」与えなければならないとされています。

 

(2) 労働時間の途中に

休憩時間は労働時間の途中に与えなければなりません。しかし、途中であればどの時間帯でも構いませんし、休憩時間の分割も許されると考えられています。従って、こまめに休憩を付与し、合計時間が45分ないし60分の条件をクリアしていれば構いません。

また、休憩時間を一定の時間帯に定めることも要求されていません。

 

(3) 一斉に

休憩時間は原則として一斉に与える必要があります。しかし、全員が一斉に休憩を取ってしまうと、その間業務の一切が止まってしまい、業務に支障をきたすことが考えられます。

そこで、労働組合等との協定により一斉に与えるという原則を変更することができます。また、運輸交通業、商業、金融・保険・広告業、映画演劇業、郵便・電気通信業、保健衛生業、接客・娯楽業等の業種については、そもそも一斉休憩の原則が除外されています。

 

(4) 自由に

使用者は労働者に対し休憩時間を「自由に」利用させなければなりません。休憩時間とは労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間であり、休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間であるといえます。労働者が休憩時間中に昼寝をすることやゲームをすることを禁止することはできません。

休憩しているような状態であっても、いつでも仕事に戻らなければならない状態であれば労働から完全に解放されているとは言えず、休憩にあたりません。

従って、小売店で来客が少ない時間帯にバックヤードで休憩しているものの来客があった場合はその対応を義務付けられている場合や、昼休み時間中の電話対応が義務付けられている場合は、いわゆる手待ち時間として休憩時間ではなく労働時間となります。

また、同様に業務時間中に仮眠が許されている場合であっても、仮眠中に何らかの事象が起きた場合に対応が義務付けられている場合は、たとえ実際に何の事象が生じずに仮眠時間を確保できていたとしても、労働時間となります。実際に裁判例でもビル管理従事者が、仮眠時間において仮眠室における待機義務を課され、警報や電話に対し直ちに相当の対応をすることが義務付けられていた場合には、当該仮眠時間は休憩ではなく労働時間に該当するとの判断がなされています。

 

(5) 休憩と認められない場合

休憩時間を自由に利用させていると認められず、休憩時間が労働時間と認定された場合は、休憩時間に関する規定に反することはもちろんのこと、これまで休憩時間として労働時間にカウントしていなかった時間について、未払い給与が発生することになります。その結果、法定労働時間を超える場合はその部分につき割増賃金を支払う必要があります。

従って、使用者としては従業員の休憩中に仕事に関することを義務付けていないか慎重に見直す必要があります。

 

休日

 

(1) 休日とは

休日とは、労働者がそもそも労働契約上労働義務を負わない日とされています。

労基法35条は、「使用者は労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。」とし、そのうえで例外規定として「前項の規定は4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。」と規定しています。

この週1回の休日を「法定休日」といい、この法定休日に労働を命じる場合は前述の36協定が必要であり、かつ、割増賃金を支払う必要があります。

また、「毎週少なくとも1回」における「毎週」とは特に「日曜日から土曜日」までと決められてはおらず、就業規則等で自由に定めることができます(特に就業規則で定められていない場合は、暦週どおり「日曜日から土曜日」と解されます。)。但し、4週間の例外規定を定める場合は、就業規則に4週間の起算日について定めておく必要があります。

なお、週1回の休日とは、原則として特定の日の「午前0時から午後12時」まで与えなければなりません。但し、昼夜交替勤務の場合や旅館業やタクシー・トラック運転手など2暦日にまたがる職種の場合は例外が認められています。

 

(2) 休日振替と代休

 

① 休日振替

休日振替とは、「事前に」休日と労働日を入れ替えることを指します。業務上の理由で事前に休日を労働日に変更し、労働日を休日に変更することから、就業規則等による事前の定めが必要です。もしも就業規則等に定めがない場合は、労働者の個別の同意が必要になります。

また、休日振替後の休日についても、週1回または44回の条件を満たす必要があります。振替後の休日について、週1回の休日の要件を満たさない場合はその週の休日がないことになり、週40時間の法定労働時間を超えてしまう場合が考えられますので、要注意です。

休日振替の場合は、事前に休日を労働日に変更することから、当該変更後の労働日は休日出勤ではないことから、特に休日出勤を前提とした割増賃金を支払う必要はありません。これが後述の代休と異なる点です。

 

② 代休

代休とは、労働者に休日に労働させた「後に」、別の労働日だった日を休日に指定することです。代休制度も業務上の理由で労働日と休日を変更することから、就業規則等による事前の定め、もしくは、労働者の個別の同意が必要になります。

代休の場合、休日に出勤した事実は変更がないことから、当該労働日は休日出勤ということになり、当該休日出勤については割増賃金の支払いの対象となります。従って、事後に代休を与えたからという理由で、休日の出勤日に対し割増賃金の支払いを行っていなければ、当該割増賃金分について給与が未払いということになりますので、注意が必要です。

以上のように、事前に休日と出勤日を入れ替える「休日振替」と休日出勤を行った事後に出勤日を休日に変更する「代休」では、割増賃金の支払いについて取り扱いが異なりますので、会社として休日振替・代休について明確なルールを策定する必要があるでしょう。

 

 まとめ

以上のとおり、企業にとって従業員の労働時間管理は重要であり、労働時間の意味・休憩・休日についても理解しておく必要があります。これらについて誤った理解に基づき給与計算を行っていた場合は、企業が意図しないまま給与が未払いになっていることもあります。

グロース法律事務所では、企業法務に精通した弁護士が従業員の労働時間管理について適切なアドバイスを行いますので、労働時間管理でお悩みの際は、お問い合わせください。

グロース法律事務所によくご相談をいただく内容

・(元)従業員から残業代を請求する内容証明郵便が届いた

・(元)従業員から残業代を請求する訴訟を起こされた

・不当な残業代請求を行われないように雇用契約書や就業規則等を見直したい

残業代分野に関するグロース法律事務所の提供サービスのご紹介と費用

〇残業代請求対応(裁判・労働審判外の交渉)

(元)従業員からの残業代請求に対し、従業員本人または代理人弁護士と交渉を行います。

請求額に応じて算定

報酬算定表はこちら。但し最低着手金11万円~

〇残業代請求対応(裁判・労働審判)

裁判・労働審判での主張立証活動、当日の立会いを行います。

請求額に応じて算定

報酬算定表はこちら。但し最低着手金33万円~

〇就業規則及び賃金規程等各種規程見直し

33万円~

各会社の実情に応じ、残業代に関する制度の選択をアドバイスし、それに応じた就業規則及び各種規程の見直しを行います。

〇労働時間管理に対するアドバイス

5万5000円~

使用者が行うべき労働者の労働時間の把握及び証拠の確保に関するアドバイスを行います。

グロース法律事務所への問い合わせ

お電話(06-4708-6202)もしくはお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

お電話の受付時間は平日9:30~17:30です。また、お問い合わせフォームの受付は24時間受け付けております。初回の法律相談については、ご来所いただける方に限り無料でご相談させていただいております。

※遠方の方はオンライン会議での初回面談も承りますので、お申し付けください。また、新型コロナウイルス感染症の影響でどうしても来所ができないという方につきましても、オンライン会議で初回無料で面談を承りますので、お申し付けください。

The following two tabs change content below.
徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
徳田 聖也

最新記事 by 徳田 聖也 (全て見る)

「労働時間の管理」の関連記事はこちら

現在、初回のご相談は、ご来所いただける方に限り無料とさせていただいております現在、初回のご相談は、ご来所いただける方に限り無料とさせていただいております
  • サービスのご紹介
  • 二つの理由
  • 顧問契約活用事例
  • 顧問先の声

グロース法律事務所が
取り扱っている業務

新着情報

 TOP