残業代請求に対する使用者側の反論(各論)

 

固定残業代

固定残業制とは、労働基準法37条における時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務に対し、使用者が基本給や諸手当にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払う制度をいいます。

よって、残業代請求に対する使用者側の反論となるわけですが、このような制度設計をしている企業も多いのですが、どのような場合に同条の定める割増賃金の支払がされたといえるかが、数多く争われ問題となってきました。

この点に関連して明示的な判断を示した最高裁判例としては、最二小判平成6613日集民172673頁、判タ856191頁〔高知県観光事件〕、最一小判平成2438日集民240121頁、判タ137880頁〔テックジャパン事件〕、最三小判平成29228日集民2551頁、判タ143685頁〔国際自動車事件〕などがあり、これまでの最高裁判例においては、

 

通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」「区分性」)、そのような判別ができる場合に、

割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として労働基準法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否か(「対価性」)

を検討して、割増賃金の支払いがされたといえるか否かが判断されてきました。

 

少し詳細な論点に入りますが、「区分性」についていえば、例えば定額給与の場合、月給制であれば基本給の一部が固定残業代として区分されている必要があります。一方、年俸制であれば、賞与を含んだ年俸の場合には、一月の支払う金額の一部が区分されていることが必要、という意味での区分性が求められます。

時間数によって区分をしようとしているときには、どの労働の時間数で区分しているのか、この点

が明らかになっていない場合には、区分性なしとの判断に振れてしまう可能性があります。

 

また、「対価性」についていえば、

□時間外労働の実態に応じた金額設定がなされているか

□誰を対象に支給されているのか

□賃金決定要素はどのように記載されているか、名称

□時間外労働が生じるか否かに拘わらず支給されるか

といった点が判断要素となってきます。

 

就業規則や、賃金規程等に固定残業分として、定額の時間外手当の記載をすれば足りる、と誤解のある使用者もいらっしゃいますが、裁判ではかなり細かい反論が求められますので、日頃からの労務管理にはくれぐれもご留意下さい。

 

 

管理監督者

「管理監督者」とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法第412号)を言います。ただし、これでは、いかなる場合が「監督」「管理」の地位ある者か判然とせず、行政解釈や裁判例を通じて、明らかとされてきました。

残業代請求を拒み得る内容も含めて、管理監督者については、整理すると以下のような適用除外事項があります。

 

■労働時間に関する諸規定 →週40h 日8h  以上の制限なし

労働時間(法32~325

労働時間及び休憩の特例(法40

時間外労働時間についての協定(法36

年少者の労働時間の制限(法60

 

■休憩に関する諸規定 →休憩時間付与の制限なし

休憩(法34

労働時間及び休憩の特例(法40

 

■休日に関する諸規定 →休日付与の制限なし

休日(法35

災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等(法33

 

■割増賃金

37の適用除外 時間外労働・休日労働に関する規定の適用がないため論理的に適用除外

なお、深夜労働に対する割増賃金は適用除外とされていない(最高裁H21.12.18労判10005頁)

 

このような管理監督者について、行政上(昭和22913日付け発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)は、以下のとおり示されています。

 

法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。具体的な判断にあたつては、下記の考え方によられたい。

 

(1)原則

法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。

(2)適用除外の趣旨

これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時 間等の規制になじまないような立場にある者に限つて管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。

(3)実態に基づく判断

一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たつては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。

(4)待遇に対する留意

管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといつて、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。

 

 

このように記載するとややこしそうですが、要するに次のとおり整理されます。

【必要性】

一定の職責を有する役付者の中には、経営者と一体となっており、その職務権限と責任の重大性、勤務態様から、労働時間等の規制の枠を超えて勤務することが不可避な立場にある者が存在すること

【許容性】

そのような者は自己判断で出退勤や休憩取得が認められており、その点で労働時間の拘束を受けておらず、

給与等の労働条件で他の労働者よりも優遇されていること

という整理です。

 

地裁判例ですが、(大阪地裁S62.3.31労判49765頁)の事件では、次のような事案で管理監督者性が争われました。

 

(事案)

原告は、人事第二課長で、主として看護婦の募集業務に従事していた者であり、時間外・休日・深夜労働による割増賃金の支払を求めて争われた事例

(判断)

原告は、被告における看護婦の採否の決定、配置等労務管理について経営者と一体的な立場にあり、出勤、退勤等にそれぞれタイムカードに刻時すべき義務を負っているものの、それは精々拘束時間の長さを示すだけにとどまり、その間の実際の労働時間は原告の自由裁量に任せられ、労働時間そのものについては必ずしも厳格な制限を受けていないから、実際の労働時間に応じた時間外手当等が支給されない代わりに、責任手当、特別調整手当が支給されていることもあわせ考慮すると、原告は、右規定の監督若しくは管理の地位にある者に該るものと認めるのが相当である。

 

中小企業の多くにおいて、「管理監督者だから残業代は不要」として、名ばかりの役職を付け、実態は先ほどの必要性、許容性を満たさない立場の方が散見されます。

残業代請求への対応という意味でも、しっかりとした制度設計のもと、日頃の労務管理を行うことが必要です。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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