秘密保持誓約書のポイントを弁護士が解説

本稿では、秘密保持に関する誓約書について、経済産業省のモデル誓約書を参考に規定の内容やポイント、アレンジの内容などについて解説致します。モデル誓約書については、経済産業省「各種契約書等の参考例」をご覧ください。

 

1 モデル誓約書例

本稿で解説する誓約書の例は、以下のモデルです(経済産業省「各種契約書等の参考例」から引用)。

 


 

 

秘密保持に関する誓約書

 

この度、私は、貴社に採用されるにあたり、下記事項を遵守することを誓約いたします。

第1条(在職時の秘密保持)

貴社就業規則及び貴社情報管理規程を遵守し、次に示される貴社の秘密情報について、貴社の許可なく、不正に開示又は不正に使用しないことを約束いたします。

① 製品開発に関する技術資料、製造原価及び販売における価格決定等の貴社製品に関する情報

② (以下略)

 

第2条(退職後の秘密保持)

前条各号の秘密情報については、貴社を退職した後においても、不正に開示又は不正に使用しないことを約束いたします。退職時に、貴社との間で秘密保持契約を締結することに同意いたします。

 

第3条(損害賠償)

前二条に違反して、第一条各号の秘密情報を不正に開示又は不正に使用した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の被害を賠償することを約束いたします。

 

第4条(第三者の秘密情報)

1.第三者の秘密情報を含んだ媒体(文書、図画、写真、USBメモリ、DVD、ハードディスクドライブその他情報を記載又は記録するものをいう。)を一切保有しておらず、また今後も保有しないことを約束いたします。

2.貴社の業務に従事するにあたり、第三者が保有するあらゆる秘密情報を、当該第三者の事前の書面による承諾なくして貴社に開示し、又は使用若しくは出願(以下「使用等」という。)させない、貴社が使用等するように仕向けない、又は貴社が使用等しているとみなされるような行為を貴社にとらせないことを約束いたします。

 

第5条(第三者に対する守秘義務等の遵守)

貴社に入社する前に第三者に対して守秘義務又は競業避止義務を負っている場合は、必要な都度その旨を上司に報告し、当該守秘義務及び競業避止義務を守ることを約束いたします


 

2 各項目についての解説

(1) 第1

1条は、秘密情報を定義し、従業員が秘密情報の不正開示等を行わないことを誓約する条項です。

ここでポイントの一つは「秘密情報」の内容を具体的に限定していることです。

 

この限定がなければ、守秘の範囲が不明確となり、およそ入社後の情報が秘密情報とされかねませんが、そこまで広汎な内容での秘密保持義務については、特に従業員に制裁を科す場面では守秘義務を負う秘密として認められない可能性があります。

 

したがって、秘密の範囲については、従業員に意識的に守秘させる意味においても、また、特に不正競争防止法を意識した場合には、秘密管理性なども問題となりますので、可能な限りの特定が望ましいと言えます。

 

一方、さじ加減の難しい内容ですが、細かく特定し過ぎた場合には、そこから漏れる情報も生じてきます。

このあたりは、各社毎に守秘義務の対象となる情報を、コアな部分は何か、その周辺は何か等情報の洗い出しから検討いただく必要があります。

 

また、留意点として、就業規則において秘密保持義務を定めている場合です。

入社時の誓約書と就業規則の内容が異なる場合に、就業規則の内容が優先するケースもありますので、規定の相違について留意のうえ、ご対応ください。

 

(2) 第2

退職後においては、従業員との契約関係はなくなりますので、退職後も守秘義務の効力を存続させるためには、特別の合意が必要です。この点も就業規則に規定が多いと思いますので、前記のとおり規定の齟齬はご確認下さい。

 

モデル例では、退職時にも秘密保持に関する契約書を締結することとされています。円満退職の場合には、締結に応じてくれるケースがありますが、解雇等なんらか会社との対立含みで退職に至るケースでは、任意に契約に応じてくれないケースがほとんどと言えます。その場合に備えても、入社時に同内容の誓約書を取得しておくことや、就業規則に必要な秘密保持の規定、特に退職後における守秘義務の規定を設けておくことは重要です。

 

(3) 第3

モデル例自体は、法律の一般原則を述べた規定と言えますので、端的に言えば、書いても書かなくても、従業員に守秘義務違反があり、会社に損害が生じた場合、会社は被った損害の賠償を請求はできます。

 

一方進めて、法律と異なる会社優位な規定にする場合には、例えば損害額の推定規定を設けたり(年収相当分等)、損害には弁護士費用を含むと規定するなどの例があります。

 

(4) 第4条、第5条について

従業員が入社以前に他社に勤めていたケースでは、知らず知らずのうちに当該他社の秘密を取得してしまう場合があります。この場合、当該従業員だけの問題にとどまらず、会社として当該他社から損害賠償請求を受ける可能性があります。そのため、会社として注意義務を尽くしたことを確認する意味でも、このような誓約内容を設けることに意味があります。

 

3 最後に

秘密保持誓約書、秘密保持契約書はインターネットにおいても比較的モデル例が掲載されている類型の契約例です。しかし、上記のとおり各社においてアレンジすべき内容もあり、会社優位にするために工夫すべき条項がありますので、各社毎にご検討いただければと思います。

 

反社会的勢力排除に関する誓約書

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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