褥瘡管理編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】

介護事故は、事故類型ごとに分類することが可能であり、介護事故全般に共通する対策の他に類型ごとに取るべき対策があります。

本稿では褥瘡管理について、実際の裁判例を基に事業所として取るべき対策について検討します。

 

注意義務違反の水準について

介護事故において、事業所が負うべき法的責任の一つに契約上の義務違反がありますが、この責任の有無を判断するにあたっては、介護を行うものが具体的にどのような義務を負っているのかが特定される必要があります。本件では利用者に発生していた褥瘡についてどのような管理を行わなければならない義務を負っていたのかについて具体的に言及されています。

 

平成24323日横浜地方裁判所判決

  • 事案の概要

株式会社が運営していた介護付き有料老人ホームにおいて、入居者が当該老人ホーム入居前から発生していた褥瘡が入居後に悪化し、それに起因する敗血症を発症して死亡した事案。

 

  • 当事者

入居者 要介護度4であり、入居時には一日のほとんどをベッドに寝た状態で過ごし、体調が良い時には車いすに移って食堂で食事をとることがあった。排便にはおむつを使用していた。持病として糖尿病に罹患していた。

入所前に別の病院に入院しており、仙骨部に直径3cm程度の褥瘡が認められたが、改善傾向だった。

事業所 有料老人ホームを経営する株式会社。

 

  • 事故に至る経緯
    •  平成17年8月に肺炎により入院し同年12月に退院したが、退院時には仙骨部に褥瘡が生じておりその大きさは直径3cm程度であった。
    •  平成18年1月入居者は事業所の経営する有料老人ホームへの入居契約を締結した。入居にあたり提出された入居者のかかりつけ医師の診療情報診断書には傷病名として糖尿病及び褥瘡との記載があり、褥瘡は改善傾向にあるものの今後考えられる問題点として褥瘡の悪化との記載も認められた。
    •  平成18年1月3日時点では褥瘡部について特に悪化していなかったものの、同月16日時点では入居者の調子が悪いとみられたことから、医療機関で受診した。
    •  1月11日及び14日に仙骨部に便汚染があった。なお、その間褥瘡部に貼られていた保護材は張り替えられることはなかった。また、褥瘡部について特に医師の診断を仰ぐこともなかった。
    •  16日の診断では仙骨周辺にガス壊疽が認められ、広範な壊死性軟部組織感染症が生じていた。また炎症状態を示す数値であるCRP値は基準の90倍であり、顕著な炎症反応を示していた。褥瘡部分は強い悪臭を放ち、周囲の皮膚はぶよぶよしていることが確認されていた。
    •  遅くとも同月18日の時点では褥瘡の大きさは12cm×12cmにまで拡大し、黒色壊死した皮膚に表面を覆われ、腐敗臭を放ち、滲出液を排出するまでに悪化していた。
    •  入所者は敗血症を発症していると判断され、処置が行われたが症状が改善することなく2月1日に死亡した。なお、敗血症を引き起こした原因菌は腸管内に常在し、糞便から分離されて感染症の原因となることがある腸球菌であったことが考えられるとのことであった。

 

(4) 裁判所の判断

事業所は介護付き老人ホームとして入居契約及び特定施設入所者生活介護利用契約に基づき、入居者に対し、介護、健康管理、治療への協力等のサービスを提供する義務を負っていた。

入居者は一日ベッドに寝た状態で過ごしていたのであり、もともと糖尿病に罹患していたことから、褥瘡を生じやすく、また治りにくい要因を有していた。

そして、上記事実②より具体的に仙骨部に生じていた褥瘡に関しその存在及び悪化に注意を要することが必要である情報を把握していたことからすると、事業所は入居者に対し、二時間ごとの体位変換による除圧、患部の洗浄等による清潔の保持その他の適切な褥瘡管理を行い、仙骨部の褥瘡を悪化させないよう注意すべき義務を負っていた。

しかし、事業所は、④により褥瘡が悪化する恐れがあるにもかかわらず、保護材を取り換えることもなく、また具体的な洗浄等も行わず、また褥瘡部を医師に診せることもしなかったものであり、褥瘡の清潔の保持には不十分な点が認められる。よって、事業所には入居者に対する適切な褥瘡管理を行い、褥瘡を悪化させないように注意すべき義務の違反があったものと認められる。

 

 

裁判例から見るべき対応

本件では約2100万円の賠償責任が認められました。

この裁判例からわかることは、他の介護事故と同様に入所前や入所時に他の医療機関から提供された介護に関する具体的な事情(本件であれば現に褥瘡が発生していること、またベッドで一日の大半を過ごしかつ糖尿病の持病を持っていることから褥瘡が悪化しやすい体質であること)については、より高度な注意義務が認められるということです。

このような場合は他の入所者と同じような対応ではなく、当該入所者のリスクに応じた対応が必要となります。その為には、各入居者のリスク及び対応の必要性についてその入居者と関わる職員全体で情報を共有する仕組みを構築しておかなければなりません。

本件では入居者と関わる全ての職員に褥瘡管理が必要であることと、褥瘡部について清潔に保つためには具体的にどのようなことをしなければならないか(またはしてはならないか)ということについて理解してもらう必要があります。また、褥瘡部の管理については医療処置が必要な場合もありますので、医者や看護師との連携についても共有する必要があるでしょう。

具体的な対策としては、やはり他の介護事故と同様に事故対策マニュアルの作成、情報共有の仕組み構築が欠かせず、それらを作ったうえで、実際に運用することが必要になります。従って、定期的な研修などにより作成したマニュアルの確認を随時行うことも必要と考えられます。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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