介護施設における労務トラブル(服務規律)

介護事業所に限らず職場には守るべきルールがあり、各労働者がそのルールを守らなければ事業が成り立ちません。事業所は企業秩序の維持のために服務規律を定めておく必要があります。

従業員に守ってもらうべき規律であることから、その規律は従業員に周知されていなければ意味がありません。従って、服務規律は誰でも見ることができる就業規則に定めておくことはもちろんのこと、朝礼やミーティングなどで定期的に確認することなど工夫して従業員に守るべきルールや指針を覚えてもらうことが重要です。

そのように普段から服務規律事項を徹底しておくことで、服務規程違反を予防し、より良い事業所を作ることに役立つほか、万が一服務規程違反が生じた場合に懲戒を行うことが容易になり、秩序の維持が期待できます。

服務規程の内容は、モラルとして遵守して欲しいことから必ず守らなければならないルールまで多岐に亘り決めることが可能です。但し、従業員の自由を制限しようとする場合は、あくまでも企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるようなものでなければなりません。

介護事業所で問題となる服務規律は以下のようなものが考えられます。

 

 ・業務外の行為(特に医療行為)を行わないこと

介護サービスを行うにあたり原則として医療行為を行うことはできず、また医療行為を行う場合は法律上認められた資格を有する者が、その法律の範囲内で行わなければなりません。医療行為に限らず、安全性などの理由から会社が指示した範囲外の業務を禁じる場合もあります。

介護サービスを行うにあたり、担当従業員を呼ぶことが面倒である場合や、良かれと思う親切心や自分もできるという過信から自己の業務範囲外の医療行為や類似行為を行ってしまうことがあります。これらの行為については、利用者の安全性に直結するものですので、服務規律として定め、周知徹底するとともに、重大な違反には解雇も含めた懲戒処分を定めることも必要でしょう。

 

 ・個人情報の保護(SNS等の規制)

介護事業所における利用者の様子などを写真に撮影し、また具体的な行動などを勝手にSNSに投稿することについては、利用者の個人情報やプライバシーなどを侵害する可能性があり、一程度の規制は必要になるでしょう。特にSNSへの投稿は世界中に拡散し、拡散後は事実上二度と消去することができなくなり、事業所の社会的評価を著しく低下させる可能性も含んでいることから、従業員への周知・教育は必須です。

但し、SNSの規制は従業員の自由を制限することになりますので、事業所の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるような必要があるでしょう。例えば、業務に関連するか否かにかかわらず、一切SNSについて禁止するなどの規定については認められない可能性が高いでしょう。

 

 ・利益供与の禁止

利用者やその家族からの品物の贈与や金品の受領についての規定です。利用者間の不公平が生じると感じさせないためにも、規制している事業所が多いと思われますが、すべて禁止にするのか、一程度の範囲内であれば認めるのかなど、明確なルールを定めておく必要があるでしょう。

 

このような服務規律を定めた場合に必要なことは、定めたルールをきちんと運用するということです。規律を定めているにもかかわらずルールの適用が曖昧で恣意的なものであれば、従業員間での不公平感が生じ企業秩序がより乱れかねません。また、ずさんな規律運営を行っていた場合は、事業所として懲戒処分を行いたい場合に、前例との不公平が生じることを理由として懲戒処分が認められない場合も生じえます。

よって、服務規律を定めた場合は、公平に適用することが重要になります。

 

グロース法律事務所では使用者専門の法律事務所として介護事業所における労務問題を取扱っております。労務問題でお悩みの介護事業所様はお気軽にご連絡ください。

 

グロース法律事務所によくご相談をいただく内容

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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