介護施設における労務トラブル(労働時間の適正な把握)

介護事業所における労務管理について、労働法規を遵守しなければならないことは法律上の義務ですが、介護業界でより良い人材を確保し、介護サービスの質を上昇させるためにも、これらの労働法の規定を遵守し、より働きやすい職場環境を醸成することは必須となります。

介護事業所で働く従業員の方々に関する労働基準関係法令や雇用管理に関する規定の適用について、厚生労働省は介護事業所における雇用環境に合わせた「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」を発表しています。本稿ではそこで紹介されている労働時間の適正な把握について解説いたします。

 

 

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けています。しかし、実際の労働時間が適正に把握されていなければ、これらの規定は意味のないものになってしまいます。そこで、使用者には労働時間を適正に把握するなど労働時間を適正に管理する責務があります。

そこで労働時間の把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準が厚生労働省より示されており、その基準の具体例について「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が発表されています。

当該ガイドラインで示されている使用者が講ずべき具体的措置は3以下のとおりですが、そもそも労働時間とはどのような時間のことを指すのでしょうか。

 

労働時間とは

労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」とされています。

ガイドラインでは次のような時間は労働時間であるとされています。

 

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内で行った時間

よって、介護事業所においても、制服等への着替えの時間や各利用者の受け入れに合わせた準備行為、利用者帰宅後の清掃などについても労働時間に含まれます。

 

イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保証されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

よって、介護事業所においても、昼休憩中に人が不足した際には食事介助の手伝いが事実上義務付けられている場合や宿直の休憩時間において利用者からの呼び出し等があれば対応しなければならない場合は、休憩時間ではなく労働時間となります。

 

ウ 参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

よって、介護事業所においても、例えばAED講習等が義務づけられた場合などは、所定業務時間外に行われた場合でも労働時間となります。

 

使用者はこれらの「労働時間」について正確に把握したうえで、各労働者の労働時間の適正な把握に務めなければなりません。

 

 

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

(1) 始業・終業時刻の確認及び記録

労働時間の適正な把握のためには労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録に残しておくことが必要です。

記録に残すことで後から検証できるようにする必要があります。

(2)  始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な確認方法

ア 使用者が自ら現認することにより確認し、適正に記録すること

イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

 

就業時間について改ざんの可能性の低い、客観的な記録による管理が求められます。当然、タイムカードやICカードの客観的な記録を残せるものについて、その運用が適正なものである必要があります。

仕事が残っているにもかかわらず、終業時刻になったからといって、タイムカードを打刻し、仕事を続けている場合などは適正に記録していることにならないことは当然です。

介護事業所においても、タイムカード打刻後に、日報や引継ぎ事項の記入を行っている場合は適正な記録とは言えません。日報や引継ぎ事項の作成は通常労働時間に含まれるものであり、当該時間も労働時間として把握しなければならないものだからです。

ウ その他自己申告制による場合は

・労働時間の実態を正しく記録し適正に自己申告を行うことについて労働者に十分な説明を行うこと

・必要に応じて実態調査を実施し、実態と合致していない場合は補正をすること

・労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと

などが明らかにされています。

 

グロース法律事務所がお手伝いできること

以上のとおり、労働時間の適正な把握は事業者側に義務が課されており、労働者との間で労働時間が問題になった場合に、「各労働者について正確な労働時間を把握するのは困難である」というような主張は通りません。従って、普段からガイドラインを参考にしながら、従業員の労働時間を客観的に記録する仕組みを講じておくことが重要となります。

グロース法律事務所では使用者専門の法律事務所として介護事業所における労務問題を取扱っております。労務時間の管理でお悩みの介護事業所様はお気軽にご連絡ください。

 

グロース法律事務所によくご相談をいただく内容

・利用者さんとのトラブル(クレーム・暴言・暴力・ハラスメント)についてどのように対処すればよいかアドバイスが欲しい

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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