高齢者虐待防止法における施設の義務
厚生労働省の発表によると、平成29年度に行われた調査結果では、養介護施設従事者等による虐待について、相談・通報件数、虐待と判断された件数がいずれも過去最多となっています。
介護施設従事者等の高齢者虐待の防止については、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」といいます。)との法律が定められています。高齢者虐待防止法では介護施設等の事業所に対しどのようなことが求められているのでしょうか。
なお、高齢者虐待防止法では養護者(高齢者の世話をしている家族・親族・同居人等)についての規定や、国・地方公共団体・都道府県・市町村の役割や責務に関する規定も定められていますが、本稿では養介護施設従事者等に関する規定を中心にご説明いたします。
Contents
高齢者虐待防止法における虐待
高齢者虐待防止法では虐待の態様を次のとおり5つに分類しています。
① 身体的虐待
高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること
具体例:平手打ちをする。無理矢理食事を口に入れる。ベッドに縛り付けたり意図的に薬を過剰に服用させたりして身体拘束・抑制をする。
② 介護・世話の放棄・放任
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
具体例:高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを相応の理由なく制限したり使わせない。入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題だったり皮膚が汚れている
③ 心理的虐待
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
具体例:排泄の失敗を嘲笑したり、それを人前で話すなどにより高齢者に恥をかかせる。侮辱を込めて子供のように扱う。高齢者が話しかけているのを意図的に無視する。
④ 性的虐待
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
具体例:排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する
⑤ 経済的虐待
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
具体例:日常生活に必要な金銭を渡さない・使わせない。年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する。
高齢者福祉サービス事業者の責務
① 高齢者虐待早期発見義務
高齢者虐待法では高齢者虐待を発見しやすい者として、養介護施設従事者等に高齢者虐待の早期発見に努めるよう定めています(法第5条)
② 通報義務
高齢者虐待法21条では、養介護施設従事者等はその職務先において高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は速やかに市町村に通報しなければならないと定めています。
また、この通報義務について、守秘義務に関する法律の規定は通報をすることを妨げるものとして解釈してはならないと定められていることから(法21条第6項)、積極的に行われることが期待されています。
③ 不利益取り扱いの禁止
高齢者虐待防止法第21条7項では養介護施設従事者等は上記通報をしたことを理由として解雇その他不利益な取り扱いを受けないと定められており、事業者は従業員が通報を行ったことについて故意に虚偽の通報をした場合などを除いて解雇や降格・減給等の不利益な取り扱いを行うことは許されません。
また、通報者が事業所内で判明している場合は、従業員間でのいじめやパワーハラスメントが発生しないように注意を払うべきでしょう。
④ 養介護施設従事者等への研修実施・苦情処理体制構築義務
高齢者虐待防止法20条では介護施設従事者等に対し高齢者虐待防止の為の研修実施を行うことや利用者本人及びその家族からの苦情処理の体制を構築することが義務づけられています。
高齢者虐待は、虐待に関する知識不足や不適切なケアが発展して発生することが多いと考えられています。これらを未然に防ぐために高齢者虐待に関する研修を実施することは重要です。
また、苦情処理の体制として、苦情受付の担当者や責任者をあらかじめ定めておくことや、苦情を透明・公正に解決するための第三者委員会を設置することなどが考えられます。
グロース法律事務所がお手伝いできること
グロース法律事務所では高齢者虐待問題について、その予防から発生した際の対処までトータルでサポートさせていただきます。高齢者虐待についてお悩みの事業者様はぜひ一度お問い合わせください。
グロース法律事務所によくご相談をいただく内容
・利用者さんとのトラブル(クレーム・暴言・暴力・ハラスメント)についてどのように対処すればよいかアドバイスが欲しい
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徳田 聖也
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