株主総会決議が取り消された場合の決議に基づく行為の効力について

株主総会決議の取消しは判決によって取消しが認められ、確定することによってはじめて無効となります。

しかし、株式会社においては、当該株主総会決議を前提にして、日々新たな取引関係や、組織上の行為等が積み重ねられていきます。このうち、特に決議がなされたという外形的な事実を信頼した第三者に対する関係では、取引の保護が必要と考えられる場合があります。

そこで、判例・実務においては、取消しが確定した場合でも、遡って無効とする場合とそうでない場合とを決議の内容によって分けて解釈、判断されています。

本稿では、いくつかの決議内容について概説致します。

 

1 取締役の報酬等の決定

会社法第361条は、以下のように規定し、取締役の報酬等について株主総会の決議によって定める旨が規定されています。よって、規定に該当する場合に株主総会決議がなされています。

 

361

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

(以下略。)・・・

 

このような取締役の報酬等についての決議は、決議自体ですべての効力が生じ、特に取引の相手方が生じるような内容ではありません。そこで、一般原則どおり、取消しの判決が確定した場合には、決議は遡及的に無効となります。

 

役員の責任の一部免除についての株主総会決議(会社法第425条第1項)も同様です。

 

2 合併、株式交換、事業譲渡、新株発行等

上記1と異なり、合併等においては、決議を要件として、それを前提とした行為が積み重ねられていきます。「無効」であることの法的な意味は、原則的には、会社の内部的な関係だけではなく、そのような積み重ねられた行為をも遡って無効にすることにあります。

しかし、このような意味での無効を認めた場合に、取引の相手方などが不測の損害を被ることは明らかです。

よって、このようなケースにおいては、当該株主総会決議は、決議の取消しが確定した時点から将来に向かって無効になるだけで、遡って無効になるものではないと解釈されています。

 

3 取締役の選任決議

よくあり得るケースの一つとして、内部の対立から、取締役の選任決議の効力が争われるケースがあります。

実際の場面を見ると、取締役が選任された後は、当該取締役や取締役の中から選ばれた代表取締役によって、会社の行為は日々積み重ねられていきます。

よって、2と同様、外形を信頼した取引の相手方を保護する必要が生じてきます。

会社法では、このような場合に、2の場合と異なり、いくつかの第三者保護に関する規定を設けています。

例えば、会社法第354条は、

 

株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。

 

という規定を設けていることから、決議が取り消された場合においても、このような第三者の保護規定を利用して、取引を保護することは可能です。

基本的には、原則どおり遡って無効と解釈した上、このような特別の第三者保護の規定を用いて、取引保護に値する第三者の保護を図るというのが妥当と考えられます。

 

4 最後に

このように、決議取消し訴訟によって取消しが認められたとしても、決議の効力については解釈によって様々です。また、決議取消し訴訟は、判決の確定まで時間を要します。

そこで、取消し判決が無意味とならないように、取消し訴訟を提起する場合には、取締役の職務執行停止、職務代行者選任の仮処分(民事保全法第23条第2項)を行なうことも必要に応じてご検討ください。

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