中小企業・同族企業における株主総会開催の実務 ~みなし総会決議の利用~

はじめに

中小企業、特に同族企業においては、毎年決算承認がされ、また取締役等の選任がなされている場合においても、実際には株主総会が開催されたことがないといった例が認められます。

こうした場合のリスクが顕在化するのは、一部の少数株主が経営層と対立した場合や、100%株主であった創業者に相続が発生し、対立する相続人間に株式が分散してしまったような場合です。

争われる形としては、総会決議不存在確認の訴えなどが典型です。

もっとも、中小企業においては、特に人数の限られた同族企業においては、都度株主総会を現地開催出来ない(したくない、必要がないetc)という実情もあるところです。

株式の管理・集中についての対策は別稿に委ねますが、本稿では、会社法で認められた、実際に現地に集まって株主総会を開催する原則型ではなく、書面によって総会決議があったものとみなされる制度について、その要件などを概説致します。

 

1 株主総会の種類

株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会があります。

定時株主総会とは、会社の各事業年度の終了後、一定の時期に招集されるものであり(会社法296条1項)。主に終了した事業年度の計算書類が提出されるなどします(会社法438条1項~3項)。

一方、臨時株主総会は、必要がある場合に招集されるものです(会社法296条2項)。

代表取締役によるほか、株主により招集されることもあります。

 

2 招集手続

原則論としては、株主総会は取締役が招集し、また、株主総会を招集するには、株主に対してその通知をしなければなりません(会社法296条3項、299条1項)。

もっとも、この招集手続きは、書面投票制度・電子投票制度を採用しない限り、株主全員の同意がある時は省略することが可能です(会社法300条)。

また、本稿で説明するみなし決議においても、招集手続は不要です。

 

3 株主総会のみなし決議(書面決議といわれることもあります)

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす、とされています(会社法319条1項)

 

分解すると、

①取締役又は株主が

②株主総会の目的である事項について提案した場合

③当該提案につき議決権を行使することができる株主

④全員

⑤書面又は電磁的記録により同意の意思表示をした時は

⑥当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみな(す)

 

これをみなし決議と呼んでいます。

①取締役又は株主

代表取締役に限らず、また株主においても提案が可能です。

②株主総会の目的である事項の提案

議題と、一定の場合に議案の要領についての提案への同意が必要です。

具体的には、議題としては「取締役選任の件」が議題の例です。

また、「一定の場合」としましたが、会社法施行規則63条7項で、議案の要領の記載が必要な事項が定められています。

・役員等の選任

・役員等の報酬

・定款の変更

・事業譲渡、合併等の組織変更 等々

従いまして、提案においては、議案の要領の記載が必要かどうかについても留意いただく必要があります。

例えば、定款変更については、新旧比較の具体的変更案を記載することなどが必要です。

 

提案の提出時期については、通常の招集通知と異なり、提出時期(同意書の回答期限等)について法律上の定めがありません。

そのため、提案日と同意日が重なっている例もあり、またみなし決議を多く利用するような会社の例では、同日付で対応している例が多いと言えますし、提案「書」を作成していない例も多くあります。

しかし、組織変更や定款変更など、重要議案においては、疑義が残らないよう、提案書は必ず作成すべきですし、ある程度の期間をおいて提案することが望ましいです。

また、議事録にも関係しますが、「誰が」提案したのか、明らかにしておく必要があります。

③議決権を行使することができる株主

本稿では詳細は割愛致しますが、例えば、議決権なき株主や、特別利害関係にあって議決権行使制限を受ける株主、自己株式取得の場面における一定の株主などは議決権行使をすることができない株主として、みなし決議において同意を必要とする株主からは除外されます。

④株主全員が

仮に一株しか保有していない株主が反対していたとしても、同意しない株主がある場合には、みなし決議は成立しません。

もっとも、代理人として同意することは可能です(定款上代理人が株主に限られるなどの制限には留意ください)。この場合には、委任の有無について紛争にならないよう留意が必要です。通常の総会における議決権の代理行使の委任状が、みなし決議の同意の委任状とカバーできるかという問題も生じますので、分けて考えるべきです。

⑤書面又は電磁的記録により同意の意思表示をした時

口頭同意では、みなし決議は成立致しません。「電磁的記録」とは、会社法施行規則で、「磁気ディスクその他これに準ずる方法により一定の情報を確実に記録しておくことができる物をもって調製するファイルに情報を記録したもの」と定義されています。(規則224条)。電子メールは、その通知方法自体は電磁的「方法」ですが、通常は、サーバーやハードディスク等に保存されることとなるため、電磁的「記録」にもあたると考えられます。

⑥当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみな(す)

みなし決議と呼ばれるゆえんですが、すべての同意が会社に届いた時点において、総会決議があったものとみなされます。

 

4 議事録

通常の株主総会と同様、株主総会議事録を作成し、保存しておく必要があります。

記載事項は、次のとおりとされています(会社法施行規則72条4項1号)。

① 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容

② ①の事項の提案をした者の氏名又は名称

③ 株主総会の決議があったものとみなされた日

④ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

 

5 各種フォーマット

みなし総会決議に関する各種フォーマットについては、お問合せいただければと存じます。

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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