会社法における株主の各種書類閲覧・謄写請求

 

1 株主の監督是正権

株主は会社のオーナーですが、株主のみの地位では実際に会社の経営に携わっていないため、会社内部の状況が分からないことが多くあります。そこで、会社法では、株主が会社の経営状況や財務状況を把握して取締役等役員の責任を追及したり、不正を監督是正するため、株主に各種書類の閲覧・謄写請求権を認めています。

これら各種閲覧謄写請求権は、請求権を持つ株主の範囲や開示の要件が異なります。会社としてはこれら株主からの請求権に備え対応できるようにしておく必要があります。

本稿では会社法で株主に認められている各種閲覧謄写請求権について解説いたします。

 

2 株主に認められる閲覧謄写請求権

(1) 株主総会議事録の閲覧謄写請求権(会社法318条4項)

株主総会議事録は株主総会の日から10年間本店に議事録を、5年間支店に議事録の写しを備え置かなければなりません(会社法318条2項3項)。この「備え置く」とは株主(または債権者)から閲覧・謄写の請求があった場合にいつでも応じられるようにしておくことを言います。

株主は、会社の営業時間内であればいつでも株主総会議事録の閲覧・謄写の請求をすることができます。持分に関する要件がないため、1株でも株式を有していれば請求することが可能です。

会社は原則として株主総会議事録閲覧謄写請求を拒否することはできません。ただし、株主総会議事録の閲覧謄写請求が会社の営業を妨害する目的でなされるなど、不当な目的にて閲覧謄写請求を求めた場合には拒否することが可能です。

なお、親会社社員(親会社の株主)は裁判所の許可を得たうえで子会社の株主総会議事録の閲覧謄写を行うことができます(会社法318条5項)。

 

(2) 取締役会議事録の閲覧謄写請求権(会社法371条2項)

取締役の責任を追及する前提として、取締役が取締役会でいかなる判断がなされたのか、また決議を行うべき事項について決議が行われていたのかを確認する必要があります。そこで、会社法は株主に取締役会議事録の閲覧謄写請求権を認めています。

取締役会議事録は、取締役会の日から10年間,議事録を本店に備え置かなければならなりません(会社法371条1項)。

 

株主は、権利を行使するため必要があるときは、会社の営業時間内であればいつでも取締役会議事録の閲覧・謄写の請求をすることができます。持分に関する要件がないため、1株でも株式を有していれば請求することが可能です。理由を明示して請求することも不要です。

なお、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の場合は、株主は事前に裁判所の許可を得たうえで取締役会議事録の閲覧謄写請求を行うことが可能です(会社法371条3項)。また、株主総会議事録の閲覧謄写と同様に、親会社社員(親会社の株主)は裁判所の許可を得たうえで子会社の取締役会議事録の閲覧謄写を行うことができます(会社法371条5項)。

 

(3) 株主名簿の閲覧謄写請求権(会社法125条)

ア 閲覧謄写の要件

株式会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければなりません(会社法125条1項)。株主は、会社の営業時間内であればいつでも株主名簿の閲覧・謄写の請求をすることができます。持分に関する要件がないため、1株でも株式を有していれば請求することが可能です。

また、親会社社員(親会社の株主)は権利の行使をするため必要があるときは、裁判所の許可を得たうえで子会社の株主名簿の閲覧謄写を行うことができます(会社法125条4項)。

イ 拒絶事由(会社法125条3項)

株主名簿閲覧請求は125条3項に拒絶事由が列挙されており、当該拒絶事由に該当しない限り閲覧謄写を行わなければなりません。拒絶事由は以下のとおりです。

①権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき

株主としての権利の確保や行使以外の目的である場合は拒絶が可能です。不当な宣伝活動に出るおそれがあるときや嫌がらせ目的、会社に対する報復目的などの場合は拒絶が可能です。

②株式会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき

ことさらに会社に不利な情報を流布して会社の信用を失墜させ、または株価を下落させるなどの目的や多数の株主が同時に閲覧謄写請求を求めるときには拒絶が可能です。

③株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するために請求を行ったとき

名簿業者への売却などを目的とする場合は拒絶することが可能です。

④過去二年以内において、株主名簿の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

上記③について2年以内に前歴がある場合を指しますが、現に株主名簿閲覧請求を受けている会社以外の会社における前歴でも当てはまると解されています。

 

(4) 計算書類等の閲覧・謄本交付請求(会社法442条3項)

株式会社は各事業年度にかかる計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表)及び事業報告書並びにこれらの附属明細書を定時株主総会の日の一週間前の日から五年間本店に(支店には三年間)備え置かなければなりません(会社法442条1項2項)。

株主は会社の営業時間内は、いつでも計算書類等の閲覧の請求、謄本又は抄本の交付の請求を行うことができます(442条3項)。ただし、謄本または抄本の交付を請求する場合は、会社の定めた費用を支払わなければなりません。

請求を行う株主について、持分に関する要件がないため、1株でも株式を有していれば請求することが可能です。

 

また、親会社社員(親会社の株主)は権利の行使をするため必要があるときは、裁判所の許可を得たうえで子会社の計算書類等の閲覧・謄本交付請求を行うことができます(会社法442条3項)。

 

(5) 会計帳簿閲覧謄写請求(会社法433条1項)

ア 閲覧謄写の要件

総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く)の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧・謄写の請求を行うことができます。この場合株主は請求の理由を明らかにしなければなりません(会社法433条1項)。

なお、100分の3の持株比率要件については、閲覧謄写請求の時点にとどまらず、実際に閲覧謄写を行う時点でも満たされていなければなりません。ただし、閲覧謄写請求時に持株比率要件を満たしていた場合に、会社の新株発行により持株比率要件を満たさなくなった場合は閲覧謄写することは認められるとの裁判例はあります。

また、親会社社員(親会社の株主)は権利の行使をするため必要があるときは、裁判所の許可を得たうえで子会社の会計帳簿等閲覧謄写請求を行うことができます(会社法442条3項)。

イ 会計帳簿又はこれに関する資料について

閲覧謄写の対象たる「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲については争いがありますが、会計帳簿は計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(損勘定元帳、仕訳帳、各種補助簿など)とされ、これに関する資料は当該帳簿の作成の直接の材料となる資料(契約書や伝票、領収書など)とされています。なお、確定申告書は会計帳簿又はこれに関する資料に含まれないとする裁判例があります。

ウ 拒否事由(会社法433条2項)

会計帳簿等閲覧謄写請求は433条2項に拒絶事由が列挙されており、当該拒絶事由に該当しない限り閲覧謄写に応じなければなりません。拒絶事由は以下のとおりです。

①株主が権利の確保行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき

②会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき

③請求者が競業関係にある事業を営み又は従事する場合

④開示により知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき

⑤過去二年間において④の事実があったとき

会計帳簿閲覧請求権は、株主がその理由を明らかにして行う必要があります。上記拒絶理由該当性の判断の他、会計帳簿等をいかなる範囲で開示するかの判断を会社ができるようにするためです。よって、請求書面に具体的に閲覧謄写の理由が記載されていない場合は閲覧謄写を拒否することが可能です。裁判例では「新株の発行その他会社財産が適正妥当に運用されているかの調査のため」との理由の記載では具体的に記載されたといえないとするものもあります。

 

3 会社としての対応

上記各種閲覧謄写等の請求については、株主から要件を満たした請求が行われた場合に即座に対応する必要があります。また、拒絶できる場合などを事前に把握しておかなければ閲覧謄写を認めるべきでない場合にも資料を開示してしまい、会社に損害を与えることもあります。

弊所では、各種閲覧謄写等請求に対する対応についても各会社に合わせたアドバイスを行っておりますので、いつでもご相談ください。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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