議決権の代理行使と代理人資格の制限について弁護士が解説
1 はじめに
会社法第310条1項は、株主が代理人によって議決権を行使できることを定めています。本来は株主自らが議決権を行使するのが大原則ですが、我が国では、古くから株主総会の開催日が集中している現状があるなどにより、事実上自ら株主総会に出席して議決権を行使することが出来ない場合も多く認められます。そこで、株主に権利行使の機会を保障する必要があるなどから認められているものです。
ところで、株主の中には、総会を撹乱させることによって、会社から不当な利益を得ようとしたり、何らかのメリットのある決議事項を引き出そうとする者がおります。前者は典型的にはいわゆる総会屋ですが、総会屋については株主に対する利益供与の禁止などの会社法の規制によって現在では激減しています。
一方、後者は様々です。少数株主が自らにとって有利な決議を引き出すために、反社会的勢力などに、議決権の代理行使を委ね、総会を撹乱させるような例もありました。
そこで、会社側としては、自衛のため、株主総会における代理人資格を株主に限定する定款の定めを設け、これによって株主ではない代理人の出席を防ごうとする例が増えました。非公開会社などでは、その場合の代理人が株式を取得することも通常困難であるため、中小企業の多くでは、このような定款の規定が多く見られます。
しかし、このような定款の規定をめぐっては、
①古くは、このような制限は、そもそも会社法310条1項に違反して無効ではないのか
②株主たる法人の株主ではない従業員に議決権代理行使を認めることは定款に違反するのか
といった問題についての最高裁判例が続き、その後、
③株主ではない弁護士の代理出席を拒むことはできるか
といった問題について、裁判例が出てくるようになりました。
中小企業の株主総会対策としては、二つの視点に留意が必要です。
一つ目は、実はそもそも自社の定款において、代理人資格の制限の有無があることを知らないケースが多く、大前提として、その内容を把握しておくことが必要ということです。これは、設立にあたり、定款内容も含めて司法書士に一任し(おそらく説明は受けているとは思いますが)、認識、記憶から外れてしまっている場合や、事業承継によって古い定款を引き継いだ場合などに多く見られるケースです。
二つ目は、議決権の代理行使の制限については、限度があるということです。これが本稿の主題となります。
代理出席の可否、代理行使の制限について対応を誤った場合、株主総会決議取消請求等を提起されるリスクが生じます。
特に、親族間で株式を持ち合っている会社においては、感情的対立も激しく、訴訟リスクを避けるための法的知識は不可欠です。
2 重要な最高裁判例その1
まず、最高裁昭和43年11月 1 日第二小法廷判決は、前記しました1①に関し、「議決権行使の代理人を株主にかぎる旨の定款の規定が、商法二三九条三項(現在の会社法310条1項です)に違反して無効である」との主張に対して「同条項は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論上告会社の定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができるから、右商法二三九条三項に反することなく、有効であると解するのが相当である」と判示しました。
要するに、「合理的な理由による相当程度の制限」であれば、議決権を行使する代理人の資格を定款により制限することが認められ、議決権行使の代理人の資格を株主に限る定款規定は、かかる「合理的な理由による相当程度の制限」に該当すると判断したものということができます。
3 重要な最高裁判例その2
先ほどの最高裁判例を踏まえた場合、例えば、法人が株主の場合、代表者自らが議決権行使できる場合には問題ありませんが、株主ではない従業員が出席し議決権を代理行使した場合、その株主総会には瑕疵があるのではないかという疑義が生じることになりました。
そして実際、ある会社の株主であった地方公共団体及び会社の(株主ではない)職員、従業員が議決権を代理行使した例において、他の株主から決議取消請求がなされた事案がありました。
これについての最高裁判例が、最高裁昭和51年12月24日第二小法廷判決で、同判決では「定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえって、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらす」として、代理人資格を株主に限定する旨の定款の定めがある場合であっても、法人株主の代理人として、株主ではない従業員等 (代表権を有しない者)を出席させることは、当該定款の規定に反しないと判断しました。
これが前記1②についての判例です。
4 株主ではない弁護士の代理出席を拒むことはできるか
これら最高裁判決を踏まえつつ、定款で代理人資格を株主に限定している会社が株主ではない弁護士の株主総会への代理出席を拒否したことについて、決議取消請求訴訟が提起された例がありました。
これについて、東京高裁平成22年11月24日判決は、結論として、請求を棄却した第1審を支持し、決議取消しを認めませんでした。弁護士の代理人としての出席については、総会を撹乱させる目的など、本来代理人資格を制限しようとした趣旨には当てはまらないところではありますが、仮に撹乱させる者かどうかという判断を受付段階等で求めた場合には、明確な基準もないことから総会の混乱を来し、また、かえって会社側にとって都合の良し悪しを判断する余地を認める可能性もあるということなどを理由としました。
このような裁判例はむしろ多数でしたが、近時、非公開会社の例において、弁護士の代理出席を拒んだ場合に、会社法310条1項違反を認める場合があるとする裁判例が出ました(東京地裁令和3年11月25日)。
この裁判例は、非公開会社の特徴等に注目し、議案について株主間の対立がある場合においても、特に株主が少なければ少ないほど、委任できる相手がおらず、もし、予め株主の申し出により弁護士による議決権行使の代理行使を認めるべきか否かを検討する機会を与えられ、総会撹乱による会社や株主の利益を損なうか否かの検討ができたにも拘わらず、また、弁護士の職責等に照らしても、そのようなおそれがないと判断できたにも拘わらず、一律に弁護士の代理出席を拒むことは、議決権の代理行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすおそれがあるとして、会社法310条1項違反の可能性を認めたものです。
5 中小企業は何を準備すべきか
このように、議決権の代理行使の制限に関しては、一定の制限を認める最高裁判例を前提に、どのような場合まで認められるかという限界の問題に発展しています。特に、非公開会社においては、そもそも株主が少ない、対立が先鋭化しがちであるという特殊性も踏まえておく必要があります。
総会を開催する会社にとっては、代理人資格を限定する定款の規定があるから万全という訳ではなく、その限界、線引きについては、予め法律専門家の法的アドバイスを踏まえておいていただきたいと思います。
弊所では、総会開催にあたってのトータルサポートも行なっておりますので、個別的判断も含め、お問合せいただければと思います。
谷川安德
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