取締役の説明義務違反と株主総会決議取消し

1 取締役の説明義務違反と、総会決議取消事由

(1) 説明義務

会議の一般原則からして、議決権を有する者から当該会議において、会議の目的たる事項(議題のことです)について、質問があった場合、代表者・役員等議題を提案した者が、質問に対し回答すべきことは当然のことです。

会社法には、以下の定めがありますが、これはこのような大原則を確認する規定として設けられたものです。

 

第314条

取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。

 

 (2) 決議取消事由

会社法831条1項では、次の事由が決議取消事由として定められています。

①株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

②株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。

③株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

 

そこで、①に関し、株主総会において取締役が株主からの質問に対し、説明を拒否したり、説明が不十分であった場合に、決議取消しの訴えが提起されるという紛争が起こされていることとなります。

 

本稿では、どのような場合に、一括回答を行なう場合を想定して、決議取消事由(①)に該当しないようにするためには、どのような点に留意すれば良いのかを概説致します。

 

2 一括回答方式

総会に先立って多数の質問状が提出されている場合に、総会議長や取締役があらかじめ質問項目を整理した上で、一括して回答を行うことがあり、これを一括回答方式と称しています。

(1) そもそも説明義務はどのような場合に発生するか?

実は説明義務は、議案が上程された際に、株主から総会の場で質問を実際に受けなければ発生しません。したがって、事前に質問状が届いていたとしても、仮に、先に一括回答もせず、総会の場で質問状を提出した株主が質問をしなければ、説明義務は生じないと考えられています。

通常は、議案上程に際し、議長や取締役から事前質問に対する一括回答を行なっていることがほとんどと思いますが、その場合でも、仮に、質問状を提出した株主から、質問がなされなかった場合には、「説明義務違反」の問題は生じません。

よって、この場合には説明が不十分であった、質問した項目への回答がなかったということで、決議取消事由にあたると株主が主張することは理論的には出来ないと考えられています。

(2) どこまで説明すれば良いか?

実務的には、どこまで説明・回答すれば良いか、つまり説明義務の対象範囲が準備としても会社側の対応としては検討を要するところです。

現行会社法314条では、「特定の事項についての説明」「当該事項について必要な説明」という限定があるように、具体性を欠く抽象的な質問についは説明義務の対象に含まれません。例えば、単に法令の解釈を問うような質問などです。

もともと取締役の説明義務は、取締役の責任追及の手段ではなく、株主が議題を理解するための情報収集の機能を認めるためにあるものですので、議題の合理的な理解や議決権行使の判断のために客観的に不要な質問は、説明義務の対象には含まれません。

 

3 総会対策として

総会対策においては、視点としては、法的に、あるいは判例上どこまでの義務が認められているのかという問題と、それを踏まえて、どこまで(場合によっては義務と認められる範囲を超えて)説明するか、という二つの視点を分けて検討することが必要です。株主構成、株主との対立構造、議題の内容等個別具体的な場面を前提に、回答をご準備ください。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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