取締役等の職務執行停止、職務代行者選任の仮処分

1 はじめに

本稿では、代表取締役等の職務執行停止等の仮処分について、特に何が実際の申立において申立人側にとって難しい争点となっているのかを中心に概説致します。

 

2 どの場面で利用されるか

取締役等の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分は、例えば、その取締役を選任した株主総会決議が不存在である等の場合に、株主総会決議不存在確認訴訟(本案訴訟)の判決により確定的な解決がされるまでの間の仮の暫定措置として,現に当該株主総会決議に基づき選任されたとする取締役等の職務執行を停止して,職務代行者を選任する旨の仮処分です。

民事保全法23条2項による仮処分で、条文では次のように定められています。

 

 

「仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。」

 

 

つまり、本案判決までの間に、例えば当該代表取締役が株式会社の業務執行を

し続けると,株式会社に著しい損害又は急迫の危険が生ずるおそれがある場合には,その代表取締役の職務執行を停止し,職務代行者にこれを行わせるというものです。

 

3 保全の必要性

実際の申立においては、職務執行停止に関する「保全の必要性」の疎明に多くの労力を要します。

なぜ「本案判決を待っていては著しい損害又は急迫の危険」が生じるのか、この点を裁判所に認めてもらう必要があります。

どのような場合が「保全の必要性」が認められるかについては、ケースバイケースではあるものの、類型的には、①当該株式会社の対外的信用が従前の代表取締役にあり、新たに選任された取締役では信用を基礎とした取引継続が困難であり、会社の損益に多大な影響を及ぼすおそれがある場合、②新たに選任された取締役が会社財産を自分又は第三者のために私的に流用するような場合等が挙げられます。

単なる仲違いや、抽象的な経営能力不足では、保全の必要性までは認められないケースが多いと思われます。

 

また、株式の保有割合によりますが、例えば、決議不存在確認等の訴えが為されたとしても、改めて株主総会決議を適法に開催し、同一の取締役が選任されることが想定される場合でも、保全の必要性が否定されると思われます。

 

4 職務代行者、担保・予納金

(1) 職務代行者は誰が選ばれるか

職務代行者については、基本的には裁判所が選任する弁護士が就任して おり、申立人や申立代理人が就任するケースはないといえます。

(2) 担保

民事保全一般に関してですが、保全命令発令にあたっては,申立人には通常担保を立てさせています。あくまで、民事保全は仮の審理ですので、民事保全で認められた内容と、本案判決の内容が同じとは限りません。事案によっては、例えば選ばれていたであろう取締役に損害が生じる可能性もあります。この場合の損害賠償に充てるための金員が担保と言われるものです。

担保の額は、一律ではなく、疎明の程度や、会社の事業内容・規模・職務執行停止される取締役の員数などによって個別に判断されます。

(3) 予納金

また、担保とは別に、保全命令発令にあたり、予納金の納付を命じられます。これは、本来取締役の報酬は、株式会社から支払われるものですが、株式会社の資産、キャッシュの状況も分かりませんので、職務代行者が報酬を取り損ねることが無いよう、一定の額を予納金として納付することが求められます。

予納金の額も一律ではありませんが、東京地裁の運用では、概ね半年分の取締役報酬との説明もなされています(それ以外の裁判所の運用は必ずしも明らかではありません)。

 

5 最後に

申立後においては、実際の多くの場面では、保全の必要性が認められずに取下を求められたり、和解で解決するようなケースも多いかと思います。時間を要する案件であり、終局的な姿を見据えて適切に手続・手法を選択していく必要がある領域と考えています。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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