放漫経営を行った取締役の責任について弁護士が解説

 

1 取締役の第三者に対する責任

株式会社の取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条)ならびに忠実義務(会社法355条)などの種々の義務を負っています。これらの義務違反につき、取締役に悪意または重大な過失がある場合は、直接第三者に対して損害賠償責任を負います(会社法429条)。

 

取締役は経営の専門家として会社から委任を受けて、会社の経営に関する裁量権を有しています。この裁量権の範囲内であれば、例え経営に失敗し、会社や第三者に経済的な損失が生じたとしても、取締役個人が賠償責任を負うことはありません。しかし、取締役放漫な経営を行ったり、取締役としての業務を行わず経営を放任するなど、裁量権を逸脱して第三者に損害を与えた場合は、取締役個人として賠償責任を負うことになります。

 

本稿では、取締役の放漫経営や経営の放任により取締役の第三者責任が裁判で問題となった事例を紹介いたします。

 

2 放漫経営による取締役個人の責任が認められた事例

(1) 利益が生じる見込みの低い人員採用・設備投資等を無計画に行った事例

A社は個人経営から法人成りした直後であり、試算もなく、月の売上高が100万円程度であり、それに対する利益も10万円程度であったにもかかわらず、売り上げ拡大のため一挙に従業員を大幅に増員し、また、それらの従業員が使用する営業用の自動車を購入し、接待交際費も月額100万円程度支出するなどの無計画な経費支出を行ったため、会社設立から数ヶ月で倒産状態となった。

 

このような事情のもと、売掛金が回収できなかった取引先がA社の代表取締役に対し損害賠償請求を行った事案。

 

裁判所は、売り上げ拡大のために取締役が従業員を増員したり、営業用の車両を購入したり、接待交際費を増額すること自体は取締役の裁量権の範囲で行い得るものであることは認めつつも、会社の規模や資金状況から見れば、短期で資金ショートすることは誰の目から見ても明らかな状況から、代表取締役の行った経費支出は取締役としての忠実義務に違反し、それにより取引先に損害を与えたとして、未収金分の損害賠償を認めました。

 

(2) ずさんな事業計画に基づく事業の失敗

B社は終身型老人ホームを経営するため事業計画を立て、販売開始後2年以内に全ての居室が完売できる旨の計画を立てていたが、老人ホーム開設後4年を経過しても、わずか6%程度のみの販売(入居)にとどまり、その間も当初の事業計画を変更するなどの協議が行われた形跡はなかった。

 

このような入居状況であり、資金状況が極めて悪化したため、B社は入居者に対し約束していた、医療体制やケースワーカーの配置、売店の設置や近隣施設へのバスの運行などあらゆる場面で不備が生じ、十分なサービスが提供されたとは到底言えない状況であった。

 

そのような状況のもとで、入居者が十分なサービスを提供できなかったことについてB社の取締役に損害賠償を求めた事案。

 

裁判所は、事業計画立案後に社会情勢やB社を取り巻く環境が特段変化したとは言えない状況であることを指摘し、当初2年で完売予定であったにもかかわらず、4年経過時点でわずか6%あることから、当初の事業計画が極めてずさんであったことを認定したうえで、老人ホームを営利事業として開設しようとする者は、契約内容の完全な履行が将来にわたって維持・継続できる確かな経営見通しがないのに、入居者が「心身共に充実安定した生活を送ることができる」かのように広告・宣伝して入居契約を締結し、ホームに入居させることは許されないと指摘しました。また、ホームを維持・継続するに足りる程度の入居者が確保されないことが予測される場合には、将来契約上の債務の履行が不完全に終わることが明らかなのであるから、早急に対応策を検討し、その事実を入居契約者に告知して、入居者に不測の損害あるいは不満や不安を与えないようにすべき注意義務があるとしています。

 

そして、当初の事業契約がずさんであることや、それに対し何等の対策をとらずに入居者への告知も行わなかった取締役に損害賠償責任を認めています。

 

(3) まとめ

放漫経営による取締役の個人責任については、経営は基本的に取締役の裁量権が広範に認められるものの、客観的に損失を与えることが明白であると共に、そのような放漫な経営を継続することで取引先や顧客に損害が生じることが認識可能出るにも関わらず、何らの対策も取らずに漫然と放漫にそのような経営を継続した場合は、取締役個人の賠償責任が認められる傾向にあります。

 

3 経営の放任による取締役の責任が問題となった事例

(1) 他の代表取締役に経営を任せきりにした代表取締役の責任(肯定)

A社の代表取締役はBC2名であったところ、BCに会社の業務の一切を任せきりにしていた。Bは自らの氏名の社長印も全てCに預けていた。

 

そのような中で、Cは会社の経営状況が極めて悪化しており、約束手形を振り出しても満期時に支払うことができないと明確に予見できる状況であったにもかかわらず、取引先への代金支払い手段として約束手形を振り出した。

 

結局、当該約束手形は支払不能となったため、取引先が代表取締役Bの個人責任を追及した事案。

 

裁判所は、「代表取締役が他の代表取締役その他の者に会社の業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何ら意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠ったものと解するのが相当である。」として、代表取締役Bの責任を認めました。

 

(2) 夫である取締役に経営を一任していた代表取締役の責任(否定)

D社の代表取締役はEであったものの、Eは名目上の代表取締役であり、夫である取締役Fに経営の全てを任せていた。なお、EはほぼD社の業務に従事した事実はなく、また、FからD社の事業について口を出さないように指示されており、実際にD社の業務に関する知識や経験も全く無く、代表取締役としての報酬も受けていなかった。

 

そのような中で、取締役Fは取引先に対する取引を継続しても、取引先に対する支払いが不能であることが予測できるにもかかわらず、取引を継続させ取引先に損害を与えたため、取引先が代表取締役Eに対し、経営の一切をFに任せきりにした責任を追及した事案。

 

裁判所は、名目上の代表取締役につき、他の取締役に業務の一切を任せることによる任務懈怠が認められるためには、「当該代表取締役が監視義務を尽くしていたならば、当該取締役の任務懈怠を防止できたとの事情がなければならず、このような事情がない場合には代表取締役の任務懈怠と第三者の損害との間には相当因果関係がない」として、本件事情のもとでは、代表取締役ED社の経営不振の状況すら認識しておらず、また、Fの業務上の行いを止められる関係性ではなかったとして、Eの責任を認めませんでした。

 

(3) まとめ

代表取締役は、他の取締役に経営を任せきりにした場合において、原則として当該取締役に対する監督責任違反による任務懈怠が認められますが、具体的な状況から、当該取締役に対する監督が不可能と認められ得る場合は、例外的に任務懈怠責任を負わない場合があります。ただし、自らの意思で代表取締役への就任を受諾した以上、監督責任を負わないのは例外的であると考えられます。

 

グロース法律事務所では、特に中小企業の会社役員の責任に関するアドバイスの経験が豊富です。中小企業における役員の責任追及に関するご相談がございましたら、一度ご相談ください。

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徳田 聖也

徳田 聖也

京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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