譲渡制限株式の譲渡不承認時の買取について
1 はじめに
株式会社は定款によって、株式の譲渡について制限を設けることができます。具体的には、株式を譲渡するには原則として取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会。これらは定款により別段の定めが可能。)の承認が必要とするものです。非上場会社の大多数は株式の譲渡に制限を設けており、会社にとって好ましくない者が株主になることを防いでいます。譲渡制限の態様として、定款にて一定の場合において会社が譲渡を承認した旨を定めることができ、株主間の譲渡や使用人である株主に対する譲渡について会社の承認を要しないと定めることも可能です。ただし、譲渡人の持株数によって承認の要否を区別することはできないと考えられています。
しかし、株式の譲渡制限が設けられている場合に、株主が自己の所有する株式を処分したいにもかかわらず会社の承認が得られないと強制的に株式を持ち続けることとなり、投下資本の回収ができなくなり適切ではありません。
そこで会社法は、株主が株式の譲渡承認を求めたにもかかわらず、会社が譲渡承認を認めなかった場合に会社または会社の指定する買取人に買い取ることを求めることができる規定を定めています(会社法140条)。
本稿では、譲渡制限株式の譲渡承認請求と買取について解説いたします。
2 譲渡承認請求と会社の不承認
譲渡制限のある株式について株主が会社に譲渡承認を請求する場合、譲渡しようとする株式の種類・数と株式の譲受人の氏名(または名称)を明らかにして行わなければなりません(会社法138条)。
くわえて、会社が当該譲渡を承認しない場合は、会社または会社の指定する買取人(指定買取人といいます。)が当該株式を買い取ることを併せて請求することができます(買取先指定請求といいます。)。
これは株式の譲渡を受けた者からの譲渡承認請求も同様です(会社法137条。ただし原則として株式譲渡人と共同して行うことが必要です。同法2項。)。
株主から譲渡制限株式の譲渡承認請求を受けた会社は、承認の可否を決定し、譲渡承認請求を行った株主にその結果を通知しなければなりません(会社法139条)。譲渡承認請求があった日から2週間以内にこの結果の通知を行わない場合は、会社は当該譲渡を承認したものとみなされるため(会社法145条)、当該譲渡承認を拒否する場合は、必ず2週間以内に株主に対し譲渡を認めない旨の通知を行わなければなりません。
3 会社による買取または指定買取人の指定
会社が譲渡を承認しない場合、譲渡承認を求めていた株主が買取先指定請求を行っていない場合は、単に譲渡を承認しないとの通知をすることで足ります。この場合、譲受人への譲渡は認められず株主は従前のまま(譲渡を求めた株主のまま)となります。
一方、譲渡承認を求めていた株主が買取先指定請求を行っていた場合は、会社は自ら譲渡承認を求められている株式を買い取るか(会社法140条1項)、指定買取人を指定しなければなりません(会社法140条4項)。なお、会社は譲渡承認を求められている株式の一部について指定買取人を指定し、残りを会社が買い取ることを選択することも可能です。ただし、会社は指定買取人について複数人を指定することはできないと解されています。会社が複数の指定買取人を請求できるとすると、株式の譲渡人である株主に手数をかけさせてしまうというのがこの趣旨です。従って、譲り渡す株主の同意がある場合は、会社は複数の買取人を指定することができると考えられています。
会社による買取(指定買取人と共に買い取る場合を含む)、には、株主総会の特別決議が必要になります。これは会社による買取は自己株の取得と同様であることが理由です。なお、この場合の株主総会決議については譲渡承認を求めている株主は当該決議にて議決権を行使することができません(会社法140条3項)。
会社が株式を買い取るときは、株式譲渡について承認を拒絶する旨の通知(会社法139条2項)から40日以内に譲渡承認請求を行った株主にその旨を通知しなければなりません(会社法141条1項、145条2号)。なお、この40日という期間は定款の定めにて短くすることは可能ですが、長くすることはできません。
一方、指定買取人の指定は取締役会設置会社では取締役会の決議で行われ、取締役会非設置会社では株主総会の特別決議で行われます(会社法140条5項)。ただし、定款に別段の定めがあればこの限りではなく、定款にてあらかじめ指定買取人を指定しておくことも可能ですし、指定買取人の指定権限を代表取締役等に与えることを定めることも可能です(会社法140条5項但し書き)。
会社が指定買取人を指定した場合は、株式譲渡について承認を拒絶する旨の通知から10日以内に指定買取人が買取を行う旨の通知を行う必要があります(会社法142条2項、145条2項)。なお、当該通知を行うにあたっては、指定買取人は一株当たりの純資産額(資本金、資本準備金、利益準備金、剰余金の額、評価・換算差額等に係る額、株式引き受けの帳簿額および新株予約権の帳簿価格の合計額から自己株式・自己新株予約権の帳簿価格の合計額を減じて得た額)に買い取る株式数を乗じた金額を供託して、それを証する書面を交付する必要があります(会社法141条2項、142条2項)。供託は会社の本店所在地の供託所に行う必要があります。
なお、この手続きに従った通知がなされない場合は、会社が当該株式の譲渡を承認したとみなされるため(会社法145条2号・3号)、必ず実行する必要があります。
4 株式売買契約の成立
会社または指定買取人が上記3の期限内に適法な買取の通知を行ったときは、譲渡承認請求を行った者との間で当該株式の売買契約が成立します。この売買契約成立以後は譲渡承認請求を行った者は、会社または指定買取人の承諾なくして譲渡承認請求を撤回することはできません(会社法143条)。
なお、この時点では株式の売買価格は未決定であり、両当事者の協議により価格を決定していくことになります(会社法144条1項・7項)。両当事者の協議により価格が決定されない場合は、会社または指定買取人が株式を買い取る旨を通知した日から20日以内に裁判所に対し価格決定の申立てを行うと、裁判所が価格を決定する(会社法144条2項・3項)。この場合、裁判所は会社の資産状態その他一切の事情を考慮して、株式の価格を決定します(会社法144条4項)。この期間内に申立てが無い場合は、1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた金額が売買価格となります(会社法144条5項)。なお、指定買取人が買取を通知するにあたり供託した金銭は、株式売買代金の支払いに充当されます(会社法144条6項)。
5 最後に
株式譲渡制限を設けている中小企業において、株主間で経営方針が異なるため株式の売却を考えたり、長期間経営に関与していない株主が財産の処分として株式の売却を考えたりすることは珍しいことではありません。このような場合に、会社にとって好ましくない者を株主としないために、譲渡承認請求不承認時の会社による買取か指定買取人による買取は有用です。
しかし、これらの買取を行うにあたっては、決して長くない期間において必要な通知や手続きを行う必要があり、これらを怠ると会社が当該株式譲渡を承認したものとみなされ、会社にとって好ましくない者が株主になってしまうおそれがあります。
グロース法律事務所では、譲渡承認請求不承認時の株式の買取に関するアドバイスを行っておりますので、これらの手続きにてお悩みの際はご相談ください。
徳田 聖也
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