書式解説~契約の変更、更新、終了に関する適切な対応と落とし穴
Contents
1 はじめに
本稿では、既に企業間で締結された契約を変更する場合や、更新する場合、又は終了させようとする場合に、契約管理としてどのような対応をすべきか、どのような落とし穴があるか、につき、契約書の条項の作成方法とともに解説致します。
本稿で解説する項目は以下の内容です。
① 基本契約と個別契約の関係
② 仕様の変更、代金額の変更の管理
③ 別途締結したNDAとの関係
④ 自動更新と中途解除
⑤ 相手方の所在不明と終了通知の送付先
2 ①基本契約と個別契約の関係
企業間で継続的な取引が行われる場合、例えば、次のような条文を内容とする取引基本契約が締結されることがあります。
1 本契約は、売主が買主に対して本件商品を売り渡す売買契約(以下「個別契約」という。)の全てに適用される。
2 個別契約において本契約と異なる内容を定めた場合は、個別契約が本契約に優先する。 |
第2項がポイントですが、取引基本契約の内容と個別契約の内容が異なる場合には、個別契約が優先するものとされています。
ところで、個別契約は多くの場合、受発注書によってやりとりがなされていますが、取引基本契約の中には、発注書が相手方に届いてから、相手方が受注の有無の返事をしなかった場合には、「受注したものとみなす」という規定を設けるケースもあります。
この場合、仮に代金支払条件や、検収期間、契約不適合責任について、取引基本契約と異なる内容が発注書に記載されていた場合には、どうなるでしょうか。
特に、取引基本契約を締結した担当者と、個別取引の担当者が異なる場合には、個別取引の担当者は、取引基本契約の存在すら認識していないこともあります。
また、相手方の発注書・受注書は、相手方の定型書式によるものが多く、相手方担当者においてすら、その細かい記載の内容・意味を把握していないこともあります。
しかし、先ほどのような取引基本契約の定め方をした場合には、取引基本契約ではなく、受発注書の記載が最終的な合意内容となります。
このような事態を避けるためには、
2 個別契約において本契約と異なる内容を定めた場合は、本契約が個別契約に優先する。 |
と定めるか、
2 個別契約において本契約と異なる内容を定めた場合は、個別契約において、明示的に本契約の規定を変更する旨の合意がなされている場合に限り、個別契約が本契約に優先する。 |
と定めておくことが必要です。
3 ②仕様の変更、代金額の変更の管理
システム構築や、工業用製品の製作等においては、品質を特定する仕様の確定が極めて重要になります。また、これらの成果物の製作を行う例においては、契約後に仕様変更が行われることも多くあります。
この場合によくあるトラブルの例が、最終的に合意された仕様は何か、仕様変更によって追加代金は発生するのかどうか、という例です。
取引基本契約などで最終確定した仕様を明らかにする方法を定めるためには、
(仕様の変更)
1 甲又は乙は、仕様書の確定後に、仕様書に記載された本件システムの仕様の変更を必要とする場合は、相手方に対して、次の事項を記載した仕様変更依頼書を交付する。 ①変更に係る仕様を含む変更の詳細事項 ②・・・ 2 前項の仕様の変更は、仕様変更依頼書に対し、相手方がこれに承諾の署名を行うことによって成立する。 |
というような定め方をすることが有用です。
また、追加代金に関しては、受託者優位に作成する場合には、仕様変更が行われるケースでは追加工程が生じることが多くありますので、
3 仕様の変更が行われた場合には、原則として追加の業務委託料が発生するものとする。 |
として、原則的な取り扱い(原則有償)を定めておくことも有用です。
4 ③別途締結したNDAとの関係
意識されていないことも多いのですが、取引基本契約を締結する前に、契約を締結するかどうかを事前検討するために、秘密保持契約(NDA)を締結することは多くあります。
そして、このようにNDAを締結した後に取引基本契約を締結する場合においても、取引基本契約書の中には、たいていの場合、秘密保持に関する条文が設けられています。
しかし、これもたいていの場合、取引基本契約とは別に、かつ、先に締結しているNDAの方が詳細な内容になっています。
そうすると、あとで合意した契約が先に合意した契約より優先する、という大原則による限り、NDAについては少なくとも、取引基本契約の内容と矛盾する限度では、効力を失うということになりそうです。
せっかく、秘密の範囲を特定するなどしても、おおざっぱな取引基本契約の秘密保持の条文によってNDAが修正されてしまうリスクはあり得ます。
このような事態を避けるためには、取引基本契約の秘密保持に関する条文の最後に、
本条の規定にかかわらず、本契約に関し、別途甲乙間で本条の内容と異なる秘密保持に関する合意を行った場合には、当該合意が本契約の規定と抵触する限度で優先するものとする。 |
という定めを置くことで対応することができます。
5 ④自動更新と中途解除
取引基本契約においては、例えば、次のように契約の自動更新の条文が設けられることが通例的です。
1 本契約の有効期間は、本契約締結の日から20●●年●●月●●日までとする。
2 前項の規定にかかわらず、期間満了の●か月前までに委託者又は受託者のいずれからも書面又は電磁的方法による本契約の終了の申し入れのない場合、本契約は同一条件で自動的に1年間更新され、以後も同様とする。 |
継続的な取引を行う場合には有用な条文ではありますが、一方で、
・相手方との契約条件を見直したい場合
・知らず知らずに望まない契約が更新されていた場合
には留意が必要です。
相手方との取引条件については、当然ながら、契約期間中は有利な当事者は変更したくありませんし、不利な当事者は変更を望みます。変更は合意によってしかできない以上、一方が承諾しなければ、契約は変更されません。
契約の更新は、このような取引条件の見直しにおいては、重要な機会となります。
その点で、上記の条文の例は、見直しには十分に対応できていない規定です。
これを回避するためには、例えば、「本契約の変更又は終了の申し入れのない場合、本契約は同一条件で自動的に1年間更新され、以後も同様とする。」と定め、仮に一方当事者から変更申し入れがあった場合には、自動更新はされない、という体裁をとっておくことが重要になります。
また、知らず知らずに望まない契約が更新されていた場合や、想定外の不利な契約をしてしまっていた場合などは、次のような中途解約に関する条文を設けることも重要です。
(期間内解約)
1 委託者は、受託者に対して、解約日の1か月前までに書面又は電磁的方法により通知することにより、いつでも本契約を解約することができる。 2 前項の場合でも、委託者は、受託者に対して、解約を理由に受託者が被った損害について、損害賠償責任を負わない。 |
実はここで重要な内容は、2項です。民法では相手方にとって不利な時期に契約を中途解除した場合などに損害賠償義務を認める規定があります。そこで、念のため、取引基本契約を中途解約するにあたり、このような損害賠償の免責規定を設けておくことが意味を持ってくることとなります。
6 ⑤相手方の所在不明と終了通知の送付先
相手方が倒産状態となり行方不明になった場合等に、契約の解約申し入れや、解除、更新拒絶を行おうにも、適切な期間内に対応できない場合があります。
民法では、意思表示の公示送達という裁判手続きを用いることで相手方への意思表示をしたものとみなすような制度が用意されていますが、(念のため並行して行うとしても)煩雑であることはいうまでもありません。
そこで、契約管理としては、双方の合意事項として、
第〇条(中途解約)、第〇条(解除)、第〇条(期間)に定める相手方に対する通知については、本契約の署名欄に記載の住所または、別途相手方に通知した所在地に対する通知をもって、その到達の有無にかかわらず、通知ないし意思表示がなされたものとみなす。 |
という条文で対応することも考えられます。
6 最後に
近時は、契約書のひな型がインターネット上でも多く参照、確認できるようになりました。
しかし、貴社にとっての有利不利や、イレギュラーな事態が生じた場合の対応方法や工夫例などは様々です。
貴社の既存のひな型とも見比べていただき、ご参考にいただければ幸いです。

谷川安德

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