覆されない合意書作成のポイント~退職合意書を参考に~

 

1 はじめに

本稿では、退職勧奨に基づいて退職をする従業員との合意書を例に、作成のポイントを解説致します。

特に、退職合意書については、後々、真意でなかった等として紛争になるケースが多いため、特に使用者側として留意すべきポイントを解説致します。

 

2 題材(事例)

題材として、以下の例を設定しました。

(事例)

株式会社本町2丁目商事は、従業員本町太郎について、繰り返しの業務指導によっても能力向上が見込めないため、また、上司の指示にも反抗的態度を示すようにもなってきたため、令和6年1月末での退職を求める、退職勧奨を行なった。

従業員本町太郎は、退職に難色を示して、未払い残業代があるかのようにほのめかしてきた。

株式会社本町2丁目商事としては、従業員本町太郎が顧客情報を扱っており、他社に就職された場合に、もし顧客情報を横流しされた場合には、営業上も大きな損失が出ると考えて、本来の退職金(50万円)に特別の手当(50万円)を加算し、これを改めて退職勧奨を行なった。

条件としては合わせて、顧客データなどの一切を返還することや、退職後5年の競業避止義務を負うことについて提示した。

従業員本町太郎は、本日2月27日、退職勧奨により本年1月末で退社するということ、条件もすべて了解すると返答してきた。

本町太郎は、2月から来社していないが、私物が会社に残っており、本人は不要なので処分して欲しいと言ってきている。

 

3 退職合意書作成にあたっての重要なポイント

このような退職勧奨の例においては、特に、自らの真意に反して退職を強いられた、合意せざるを得ない状況で合意させられた、といった主張が後日なされるケースがよくみられます。

上記事例の中で、このような主張が仮になされたとして、使用者側として有利な反論が出来るとすると、①本町太郎に特別の手当を支払う約束をしていること、②それを踏まえて本町太郎が合意していること、この点は非常に重要と考えます。なぜなら、合意に至ったのは、会社側の一方的な申入れだけではなく、本町太郎側にとっても一定メリットのある内容があり、それを良して本町太郎も合意するに至った、よって、本町太郎の意思は真意に基づいたもの、との説明が出来るからです。

 

4 合意書例

実際の合意書作成の場面においても、このような引き換えの事情は記載しておくべきです。単に、解決金としていくら支払う、いついつ退職、以上ですべて精算、というような単純なものではなく、従業員側がどのようなメリットと評価できる事情を享受し、それを踏まえて合意したかという経緯はある程度分かるようには記載しておくべきです。

以上を踏まえた合意書例としては、以下のようなひな形をご案内致しますので、各事案毎の修正を前提として、ご参考にいただければと思います。

 

(合意書例)1 甲と乙は、本日までの協議に基づき、また乙においては第2条の手当の受給等も踏まえ、甲乙間の雇用契約を令和6年1月末日(以下「退職日」という)限り、解約することに合意した。

2 甲は乙に対して、甲の退職金規程に基づく退職金のほか、有給休暇の残日数その他一切の事情を考慮した上での特別退職手当を含めて、一切の解決金として金100万円を支払うものとし、これを令和6年2月末日限り、乙の従前の給与振込口座に振込送金する方法で支払う。なお振込手数料は甲の負担とする。

3 甲は第1項の合意解約に関し、雇用保険の離職証明書の離職事由は、甲からの退職勧奨の受け入れ扱い(会社都合)で処理する。

4 甲及び乙は、退職日までの未払賃金の存しないことを確認する。

5 乙は、本合意が成立した事実及び本合意の内容を事前に甲が承諾した第三者以外に開示漏洩してはならない。

6 乙は甲の就業規則上定められている営業秘密及び個人情報に関する守秘義務、競業避止義務その他退職後も負うべきものとされている義務を遵守するとともに、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等のうち、現に保有するものを速やかに返還するなど、退職時に必要とされている諸義務を履行することを約する。

7 乙は、退職日時点において、甲の会社内に乙の私物がある場合、その所有権を放棄し、甲が任意に処分することに異議を述べない。

8 甲及び乙は、本合意に定める他、乙が退職後においても負うべきものとされる義務を除き、甲乙間において他に何らの債権債務関係が存在しないことを相互に確認する。

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