副業・兼業の促進に関するガイドラインについて
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1 はじめに
副業・兼業を希望する労働者が増える中、副業・兼業は若いうちから自ら希望する働き方を選べる環境を作れること、また社会全体としてもオープンイノベーションや起業の手段としても有効であり都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資するという面もあると考えられています。
よって、副業・兼業を促進する方向性が進んでいますが、副業・兼業を行うにあたっては長時間労働や安全衛生管理の他、企業の秘密漏えいについても問題になりうることから、これらに留意しつつ副業・兼業を行える環境を整備する必要があります。
そこで、厚生労働省は平成30年1月に副業・兼業に関し企業の対応と労働者の対応を示した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、以後令和2年9月と令和4年7月に改訂がなされています。
自社の従業員が副業・兼業を希望し、副業・兼業を認める場合は副業・兼業の促進に関するガイドラインを参考にすることが必要です。
2 副業・兼業時の労働時間の通算について
(1) 労働時間は通算される
労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みますと通達により明らかにされています(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))。
労働時間を通算した結果、法定労働時間を超えて労働させる場合には割増賃金を支払う必要があります。
そこで問題となるのは、割増賃金はどちらの会社が支払うことになるのかということです。
(2) 割増賃金支払の原則的な考え方
副業・兼業を行う場合には、先に労働契約を締結した事業主(A社とします)と後から労働契約を締結した事業主(B社とします)との両者と雇用契約を締結していることになります。
副業・兼業における割増賃金の支払は様々なパターンがあり複雑ですが、原則として後から労働契約を締結した事業主(B社)が支払う義務があるものの、先に労働契約を締結した事業主(A社)が時間外労働になると把握しながら残業を命じた場合には、その部分について先に労働契約を締結したA社が割増賃金の支払義務を負います。
まず、A社の一日の所定労働時間が8時間の場合に、B社が一日2時間の所定労働時間で労働者と雇用契約を締結した場合、B社は初めから自社の2時間の所定労働時間が当該労働者の一日あたりの法定労働時間である8時間を超えることが分かっているので、B社は2時間の所定労働時間について割増賃金の支払が必要です。
一方で、A社の所定労働時間が5時間の場合、B社と3時間の所定労働時間の雇用契約を締結した場合は、両社共に所定労働時間内であれば合計8時間を超えないため割増賃金の支払は不要となります。この場合においてA社が当該労働者について1時間の残業を命じた場合(A社で6時間の労働となる)、A社は当該労働者がB社で3時間働くことで合計9時間になることを把握しながら自社で1時間残業させることを命じたことから当該1時間分についてはA社に割増賃金の支払を行う義務があります。
なお、上記パターンの他にも、A社とB社の合算の所定労働時間が8時間に満たない場合(例えば合計の所定労働時間が6時間の場合など)における、時間外労働の算定については、労働契約締結の前後ではなく、所定外労働時間の発生順に通算するなど様々なパターンを検討しなければなりません。
以上より、副業・兼業を認める場合においては、当該労働者からの申告等により他の事業場における実労働時間の把握などが必須となります。
3 安全配慮義務・秘密保持について
副業・兼業を行う場合には、上記割増賃金の支払の他、長時間労働等による労働者の心身の健康を害するおそれに配慮しなければなりません。事業主としては副業・兼業を認める場合には、それに対応した安全配慮義務が求められることになります。
そのためには副業・兼業先の状況の報告は重要ですので、副業・兼業を認める場合には報告を必須とすることや副業・兼業により労務提供上の支障がある場合には副業・兼業を禁止又は制限できる旨の定めを置くことも検討しなければなりません。
また、他の事業主の下働くことで当該労働者が業務上の秘密を漏えいしたり、また、自社で副業・兼業先の業務上の秘密を漏えいしたりするリスクがあります。このため就業規則等において業務上の秘密が漏えいする場合には、副業・兼業を禁止又は制限することを定めると共に、日ごろから業務上の秘密の取扱いについて注意を喚起する必要があります。
4 令和4年7月の改訂による副業・兼業への取組の公表の推奨
上述のとおり、副業・兼業を認めるにあたって事業主の負担は小さいとは言えませんが、副業・兼業を認める企業も増えており、より良い人材確保のためには副業・兼業を認めていくことが必要になることも予想されます。
令和4年7月のガイドライン改正内容は、企業に対し副業・兼業への取組を自社のホームページ等により公表することを推奨し、労働者に対しても適切な副業・兼業先を選択する観点から、企業の上記公表された情報を参考にすることを推奨しています。
よって、企業成長のために、副業・兼業を認めることの取組は今後ますます重要になります。
5 グロース法律事務所のサポート内容
以上のとおり、副業・兼業を認めるには、就業規則等の改訂を含め様々な対応が必要となります。グロース法律事務所では労務問題における企業側専門の法律事務所として副業・兼業対応のアドバイスも行っておりますので、ぜひお問い合わせください。
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