「労働協約とは何か?」について弁護士が解説
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1 労働協約とは
労働協約とは、労働条件に関して会社と労働組合との合意を書面化したものでです。
具体的には、①会社と労働組合との間の、②労働条件その他に関する協定であって、③書面により作成され、④両当事者が署名または記名捺印したものを言います。
場合によっては「覚書」、「念書」や「議事録」といった名称で作成されることがありますが、上記の定義に当たれば、それは「労働協約」です。逆に「労使協定」と銘打っていても、記名捺印のないメールや、口頭合意は、労働協約には当たりません。
2 何のためにあるか
労働者個人は、会社との関係では力の差があります。そこで、法律は、このような弱い立場にある労働者が会社と対等の立場で交渉できるようにするため、労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)という強い権利を認めています。
そうして交渉をした結果、労働条件について合意されれば、それを文書に取り交わすという事になります。つまり、一般的に行われる契約と同じです(契約交渉⇒合意⇒契約書に残す)。
労働協約は、その有効期間中、交渉の結果として合意できた労働条件が維持されることが保証されるわけですから、労働者にとって非常に強いメリットがあります。また、会社側からみても、後から述べるとおり、労働協約の有効期間中は、そこに定められた事項に関して争議行為が行われることはありませんから、労使関係が安定するというメリットがあります。
さらに、企業の経営状態が悪化した場合などに、やむを得ず労働者の労働条件を引き下げたいという場合に、その変更内容を労働協約として合意することで、個々の労働者との合意や、就業規則の不利益変更に寄らずとも、労働組合員に対してその効力を及ぼすことができます。
このように労働協約は会社と労働組合等の交渉の結果を反映させ、労働者の労働条件に強い影響を及ぼすものであることから、口頭や合意や必要な書式を備えない書面による合意では後日合意の内容等につき紛争を生じやすいため、書面及び当事者の署名または記名押印が必要とされています。
3 何を決められるか
労働協約においては、「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」を決められます。
つまり、主には賃金・労働時間・休日休暇・福利厚生・定年などおよそ個々の労働契約の内容となり得るものについて決められます。
加えて、団体交渉や労使交渉の進め方、便宜供与など、労使関係の運用事項についても定めることができます。さらには、いわゆる「経営権」に属する事柄であっても、それが組合員の労働条件に関わる事項を含んでいる場合には定めることができます。
一方で、純粋に政治的な事柄や、社会一般への宣言のようなものについて合意し書面化したとしても、その部分は労働協約ではありません。
4 どのような効力があるか
⑴ 規範的効力
労働協約で定める労働条件・待遇の基準に達しない個別契約部分はその限りで無効となり、労働協約で定めた内容に置き換わります(労組法16条)。労働契約に定めがない部分についても労働協約で定めたとおりになります。またのことは就業規則との関係でも同様です。
たとえば、次のようになります。
・就業規則・雇用契約書では「基本給月額23万円」、労働協約で「基本給月額25万円」とされた場合、その組合員の基本給は25万円となる
・有給休暇の日数について、就業規則で「年15日」、労働協約で「年20日」とされた場合には、その組合員の有給休暇は年20日となる
労働協約は、労働者の権利保護や労働条件の改善を目的として、慎重な交渉を経て合意されるものですから、その内容は妥当かつ合理的なものであると言えます。したがって、法令に反しない限り、就業規則や個別の雇用契約書の規定よりも優先して適用されるのです。
⑵ 債務的効力
労働協約も、一種の契約ですから、合意された以上は、そこに記載された事項については、誠実に履行する義務があります。
例えば、「会社は労働組合に●●㎡以上の会議室を貸与する」という労働協約が締結された場合には、会社は、その条件に沿う会議室を貸与しなければなりません。これが貸与されないという事になれば、組合は「●●㎡以上の会議室を貸せ」と主張することができますし、貸してもらえないことによって被った損害について賠償請求をすることもできます。
⑶ 平和義務
労働組合は、労働協約の有効期間中、その労働協約に定めた事項について、争議行為(ストライキなど)を行ってはならないという平和義務があるとされます。これは、労使交渉によって合意をした以上、その期間中はその合意に拘束されるのが当然だからです。これは、労働協約のなかに明示されていなくても、当然に認められると考えられており、労使関係の安定を図るという意味で会社側のメリットとも言えるでしょう。
では、労働協約の有効期間中にもかかわらず、労働者が労働協約で合意した事柄について争議行為を行った場合に、その労働者を懲戒処分することはできるでしょうか。答えは「いいえ」です。判例は、このような争議行為は、単なる契約上の債務の不履行であって、これをもって企業秩序違反とまでは言えないとしていますから(最三小判昭和43/12/24)、懲戒処分をすることは差し控えるべきでしょう。
ただし、契約上の債務不履行であることから、当該争議行為により会社が損害を被った場合は、損害賠償請求を行うことが可能です。
5 誰に効力が及ぶのか
⑴ 原則
労働協約は契約の一種ですから、原則として、その効力は、合意の当事者である労働組合の組合員にのみ適用されます。その労働組合に加入しておらず、無関係のところで合意された内容に拘束されることはないのです。
ただし、以下のように、例外的に効力が及ぶ範囲が拡張されることがあります。
⑵ 事業場単位の一般的拘束力(労組法17条)
同一の事業場で、同種の労働者の4分の3以上がある協約の適用を受ける場合、その組合に加入していない労働者にも効力が及ぶこととなります。企業全体に及ぶものではなく、事業場単位であることに注意が必要です。
ただし、4分の1未満の少数の労働者が、別の労働組合に属している場合、当該別の労働組合に属している労働者には、この一般的拘束力は及ばないと解されています。
⑶ 一般的拘束力の地域的拡張(労組法18条)
さらに、一つの地域で同種の労働者の大部分がある協約の適用を受けるようになったときには、労働委員会の決議等を経て地域全体に拡張して適用されることがあります。もっとも、日本では企業別の労働組合が主流ですから、あまり登場しない制度です。
6 労働協約の期間と終了
労働協約は、契約と同様、有効期間の満了、解約等によって終了します。
ただし、法律によって有効期間は最長3年と定められており、それ以上の期間を定めた場合であっても、3年の有効期間であるとみなされます(労組法15条)。これは、あまりに期間の長い協約は、状況の変化に迅速かつ適切に対応することができず、結局労使関係が不安定になってしまうおそれがあるからです。
そして、労働協約は、期間を定めていない場合には、90日前に予告をすることで、一方的に解約することができます。
7 最後に
労働協約は、労働組合との交渉を経て締結される合意文書です。労働協約で定められた事項には規範的効力という強い効果が与えられていますから、使用者としては、それを十分に理解して対応していかなければなりません。
グロース法律事務所では、団体交渉の対応、団体交渉後の労働協約の締結についても取り扱っておりますので、ぜひご相談ください。

山元幸太郎

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