「労使協定とは何か?」について弁護士が解説
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1 労使協定とは
労使協定は、使用者と労働者の過半数を代表するものなどが締結する協定です。その意義は、もともとは本来であれば法律上規制されていることを、労使間の合意によって例外的に可能とするための意味合いが強くありましたが、労働条件の内容を直接形成する協定も多くあります。
具体的には、使用者が、①法律が特に定めた事柄について、②原則として事業場単位で、③過半数労働組合(これがない場合は過半数代表者)と締結する書面のことを労使協定と言います。
労使協定は、後述のとおり事業場全体に効力が及ぶことも特徴です。
最も有名で、かつ、殆どの会社で締結されている労使協定が「36(サブロク)協定」です。これは、原則的に禁止される残業について、労基法36条で定められる労使協定を締結することにより、残業させられるようにするものです。
2 労使協定の役割
上記のように、労使協定は、労働条件や働き方について、労使双方の合意に基づき例外的・柔軟な運用を可能とするものです。
日本における労働に関する法律は、労働者の保護に非常に手厚く、そのままでは企業の経済活動がままならないという側面があります。そこで、労使協定の締結を条件として例外を認めることで、労働者を保護しつつ企業のニーズにも応えているのです。
3 労使協定の具体例
上記の36協定以外にも、イメージしやすいものとして以下のようなものがあります。
・フレックスタイム制を採用する場合の労使協定
・計画年休に関する労使協定
・1ヶ月単位、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定
4 労使協定の効力
⑴ 免罰効
使用者の刑事責任が免除されるという効果です。
労使協定には、本来法令によって禁止され、違反した場合に罰則が予定されている行為について、締結した労使協定の範囲内で許容するという効果があります。
冒頭で例示した「36協定」についてみてみましょう。本来は法定労働時間8時間/日、40時間/週と定められており(労基法32条)、これを超えて労働させた使用者は、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則が予定されています(同法119条1号)。しかし、同法36条1項に定める労使協定を締結した場合には、(その協定で定められた上限までという制限はあるものの)法定労働時間を超えて労働させたとしても、法律違反とはならず、刑事罰を科されないということになります。
⑵ 私法上の効力
労使協定の最大の効果は上記の免罰効ですから、基本的には、何らかの権利義務を生じさせる効力はありません。
このことを、「36協定」で見てみましょう。36協定を結んだからといって、労働者がその分の残業をしなければならないという義務や、使用者が残業をさせる権利は生じません。あくまで、残業させること・残業することが「可能になった」というだけの話であり、実際に残業をさせたい場合には、別途就業規則や雇用契約など、契約上の根拠が必要となります。
他方で、最近では、私法上の効力を有する労使協定も登場しています。たとえば、計画年休に関する労使協定には、私法上の権利義務を生じさせる効力があるとされますし、育児介護休業法における育児休業対象の除外者を定める労使協定に至っては、免罰効ではなく、私法上の効力のみを有するものとされます。
5 労使協定の特徴(労働協約との違い)
労使間で締結される文書として、労働協約があります。労働協約と労使協定は全くの別物ですが、混同されやすいため、比較をしながら労使協定の特徴を見ていきましょう。
⑴ 締結主体
労働協約は使用者と労働組合が締結するものですから、それ以外の過半数代表者が使用者と何らかの合意文書を交わしたとしても労働協約にはなりません。
他方で、労使協定については、「過半数労働組合」か「法定の要件を備えた過半数労働者代表」が使用者と締結すれば労使協定として有効なものとなります。
後者の「法定の要件を備えた過半数労働者代表」がどのような人かイメージし辛いと思いますが、労務管理について使用者と一体となるような立場にある人ではなく、労働者の過半数から民主的に支持された人と考えてください。
⑵ 効力が及ぶ範囲
労働協約は、原則として締結主体である労働組合の組合員にのみ効力が及びますが、労使協定は、当該事業場で働く労働者全員に効力が及びます。
⑶ 有効期間
有効期間が3年とされる労働協約と異なり、労使協定には一律の有効期間の規制はありません。ただし、36協定や変形労働時間制など一部の協定においては、有効期間の規制がある場合があります。
以上のように、労使協定と労働協約は、その意義・効果など、まったく異なるものですが、両者の違いが意識されていないことも多いです。会社と労働組合との合意が書面化されている場合には、これらを混同しないように注意してください。
例えば、過半数労働組合との間で締結した36協定の中に、労基法36条が求める事柄以上のことを定めている場合がありますが、それは、労働協約としての効力を持つ場合があります。
また、「協定」という言葉を用いていても、使用者と労働組合との合意であって、性質が労働協約であるということもあります。
6 労使協定の届出
労使協定の中には、労働基準監督署、いわゆる労基署への届け出が必要とされているものがあります。これを適切に行わなかった場合には、下記のとおり罰則も科されますので、注意が必要です。下記に代表例を記載します。
⑴ 事前の届出が必要なもの
・労働者に時間外労働・休日労働をさせる場合
36協定については、労基署へ届け出ることで労使協定の効力が生じますから、事前に届出をしておかねばなりません。
また、これを怠った状態で労働者に残業させた場合には、前述の免罰効がないため、労働基準法32条に違反し、6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」となります(同法119条1号)。
⑵ 事後でよいが、届出が必要なもの
・使用者が、委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する場合
・1ヵ月・1年単位で変形労働時間制を採用する場合(ただし、就業規則に定めた場合は不要)
・1週間単位で非定型的変形労働時間制を採用する場合
・事業場外みなし労働時間制を採用する場合
・専門業務型裁量労働制を採用する場合
労使協定の届出が義務とされているこれらの場合において、これを怠った場合には、使用者に30万円以下の罰金が科されることとなります。
⑶ 届出が不要なもの
・賃金の一部を控除して支払うこと(法定控除については労使協定の締結不要)
・対象期間を1か月以内とする変形労働時間制
・フレックスタイム制を採用する場合
・休憩を分散して付与する場合
・代替休暇制度
・年次有給休暇の時間単位での付与を定める場合
・年次有給休暇の計画的付与を定める場合
・年次有給休暇中の賃金を、標準報酬日額で支払う場合
・育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇を取得できない労働者の範囲を定める場合
7 労使協定の周知義務
締結した労使協定は、その内容を、適用される事業場の労働者に対して周知しなければなりません。これに違反した場合には、30万円以下の罰則が定められています(労基法120条1号)。
周知の方法については、労働基準法施行規則52条で次のように定められています。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
②書面を労働者に交付すること
③磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
8 最後に
労使協定には、使用者のニーズに応えて柔軟な制度設計を可能にするというメリットがあるものの、その種類の多さや、届出の要否など、分かり辛いことも多いです。
労務制度の見直しをする際には、弁護士や社労士といった専門家の助言を受けることをお勧めします。
グロース法律事務所では、労務管理に関するご相談を広く取り扱っております。ぜひご相談ください。

山元幸太郎

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