社外の労働組合・団体交渉対応について弁護士が解説

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1 はじめに
近年、従業員の一部が突然社外の労働組合(いわゆる「ユニオン」や「合同労組」)に加入し、会社に対して団体交渉を申し入れるケースが増えています。
こうした社外の特定地域の労働組合(以下「ユニオン」といいます。)は、企業内に労働組合が存在しない場合でも、誰でも加入できるものです。
会社としては、突然見知らぬ団体から団体交渉の申入れをされて戸惑うことも当然と思いますが、その対応を誤ると「不当労働行為」として法的な責任を問われるおそれがあります。
とくに近年は、SNS等による情報拡散等により、労働者個人の権利意識が高まったことを背景として、一種の駆け込み寺的にユニオンに加入して労使紛争となることが増えているのです。
本稿では、企業外の労働組合であるユニオン(合同労組)から団体交渉を申し入れられたケースにおける会社の対応に焦点を当てて、解説します。
2 団体交渉とは(企業内労組とユニオンの相違点)
(1) 団体交渉とは
団体交渉とは、会社と労働者が一対一で交渉するのではなく、労働者が組織する労働組合という集団を通じて対等な立場で交渉を行う仕組みをいいます。憲法28条および労働組合法により保障された労働者の基本的権利であり、会社は労働組合から適法に団体交渉を申し入れられた場合、原則としてこれに誠実に応じなければなりません(労働組合法7条2号)。
団体交渉の対象となるのは、賃金、労働時間といった労働条件その他の待遇に関する事項です。純粋な経営上の判断は原則として交渉の対象外とされますが、事業の撤退や再編など、労働者の雇用や労働条件に重大な影響を及ぼす場合には、団体交渉に応じる必要があります。
(2) ユニオン型団体交渉の特徴と注意点
➀ ユニオンとは
ユニオンとは、企業や業種に関係なく、労働者が個人単位で加入できる地域型・合同型の労働組合を指します。
中小企業では企業内に労働組合がないことが多いですが、従業員が個人でユニオンに加入して団体交渉を申し入れてくるケースがあります。
② ユニオンからの団体交渉申入れ
大企業とは違い、多くの中小企業においては、企業内に労働組合は作られていないため、団体交渉とは無縁であると考えておられる経営者の方が多いように思います。
しかし、前述のとおり、ユニオンは誰でも加入できる企業外の「労働組合」ですし、日本では、一人でも従業員が加入していれば、使用者と交渉する資格を有していますから、自社の従業員がユニオンに加入して団体交渉を申入れてきた場合、当該組合との団体交渉のテーブルにつかなければなりません。「うちの会社には労働組合はないのだから、応じる必要はない」などと無視をしてしまうと、後述する不当労働行為に該当してしまいます。
③ ユニオン型団体交渉の特徴
ア 個別の労働紛争解決
ユニオン型団体交渉では、全社的な労働条件や労働環境の改善ではなく、個別の紛争解決を目的とすることが多いという特徴があります。たとえば、解雇や雇止めの撤回、未払い残業代の請求、ハラスメントの救済、賃金減額や配置転換の見直しなど、個別的なトラブルの是正をテーマとすることが多く見られます。
注意すべきは、解雇や雇止めといった労働契約の終了に関する事項です。すなわち、解雇又は退職した元従業員がユニオンに加入し、ユニオンが解雇の撤回や違法な退職勧奨があったなどとして団体交渉の申入れをしてきた際、会社としては、当該元従業員はすでに社員としての身分を失っているため、団体交渉に応じる義務はないのではないかと考えることがあるかもしれません。しかし、解雇の有効性そのものが争点となっている場合には、まさに個別の労働紛争に関する事項であるため団体交渉に応じる必要があります。
イ 団体交渉の進行
企業内労働組合とは異なり、ユニオンとの団体交渉では、初対面の外部者と交渉することになります。企業内労働組合の場合は、労働協約や慣行等により、団体交渉の進行方法や出席者などについて、予め会社と合意している場合も多く、団体交渉の準備や対応が行いやすいという特徴があります。他方、ユニオンとの団体交渉では、初めて会う顔も名前も知らない人物と交渉をしなければならず、進行方法などについてもユニオンによって要求事項が異なりますから、準備や対応が行い辛いという特徴があります。従って、交渉前の準備段階から、適切に対応する必要があります。
3 不当労働行為とは
(1) 不当労働行為とは
➀ 労働組合法7条
労働組合法7条は、会社が労働組合や労働者に対して以下の行為をすることを「不当労働行為」として禁止しています。
ア 組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い(1号)
イ 正当な理由のない団体交渉の拒否(2号)
ウ 労働組合の運営等に対する支配介入および経費援助(3号)
エ 労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い(4号)
② 団体交渉応諾義務・誠実交渉義務
上記の不当労働行為のうち、団体交渉時にとくに問題となるのは2号の「正当な理由のない団体交渉の拒否」です。
団体交渉にそもそも応じないことが該当することはもちろんですが、さらに、企業には誠実交渉義務があるとされ、誠実に交渉しない対応も、広い意味での団体交渉の拒否に当たるとされています。もっとも、これは合意することを求めるものではなく、誠実に対応した結果合意に至らなかったという場合には不当労働行為にはなりません。
(2) 不当労働行為への救済
労働組合法7条違反については労働者が団結し、団体交渉をする権利を擁護するために、司法上の救済に加えて、労働委員会による特別の救済手続が定められています。
労働委員会による救済手続としては、労働委員会に裁量権が認められており、個々の事案に応じ様々な是正措置が取られます。
4 団体交渉を申し入れられた会社の対応について
(1) 団体交渉の申入段階の対応
➀ 申入れ
団体交渉は、殆どの場合、団体交渉申入書といった題名の書面によってなされます。郵送だけでなく、ユニオンの幹部が直接持参する場合もあります。
申入書には、加入した従業員、要求事項、団体交渉の日時や場所が記載されていることが通常です。
② 回答書の送付
上記の申入れに対しては、以下の事項について早急に決定したうえで、書面で回答を示すべきです。
ア 加入者の確認
稀に、ユニオンに加入した従業員を特定していない申入れがあります。加入者を全員教えなければ交渉しないという態度は不当労働行為と言われかねませんが、他方で、一人は加入していることを確認しなければ団体交渉を行うべき相手か否かが判断できませんので、その点の確認を行うべきです。
イ 団体交渉の日時・場所
ユニオン側から一方的に指定されることが通常ですが、これに応じないからといってただちに不当労働行為になることはありません。スケジュールとして差し支えることは当然あり得ることですから、合理的な範囲で日時の候補を提案し協議する対応が望ましいでしょう。
また、場所については、会社の会議室などが指定されていることもありますが、団体交渉が行き詰まった際に居座られる、顧客や他の従業員への影響があるといったことも考えられますから、外部の貸会議室等時間の区切りのある場所を提案することが望ましいといえます。
ウ 出席者の確定(人数)
ユニオン側は、交渉力を持たせるために多くの組合員を引き連れてくる場合があります。しかし、人数をいたずらに増やしても交渉が紛糾し混乱するだけですから、双方同じ程度の人数で上限を設ける提案をするべきでしょう。
また、ユニオンは、会社に対して、決定権のある代表者の出席を求めることが通常です。何らの権限のない従業員を参加させたことにより団体交渉が実質的に進まないとなれば不当労働行為に該当する可能性がありますので、、一定の権限があり、交渉事項について事情を把握している者が出席するべきです。
さらに、ユニオンは知識と経験がありますから、そのペースに乗せられてしまい、混乱のなかで応じる必要のない要求に応じてしまうこともあり得ます。そこで、弁護士の同席が望ましいでしょう。
エ 資料の送付
要求されている資料があれば、交渉事項に関して対応可能なものについて誠実に開示・送付をする対応が望ましいでしょう。
(2) 団体交渉時の対応
➀ 従業員本人が出席している場合の賃金
また、従業員本人が就業時間中に団体交渉に出席する場合、その時間について賃金を支払う義務は原則としてありません(ノーワーク・ノーペイの原則)。
② 書面へのサインを要求されたら
労働組合から、議事録等の書面にサインをするよう求められることがあります。しかし、これに応じてしまうと、当該書面が労働協約としての性質をもつ可能性があります(労働協約については別稿をご参照ください)。従って、何らかの合意に至った場合にのみ署名押印等をするという対応に徹するべきです。
③ 暴言を受けるなどした場合の対応
交渉の過程でユニオン側から暴言や威圧的な態度を取られることもありますが、経営者が感情的に反応してしまうと、むしろ不利な状況に追い込まれかねません。冷静に対応し、必要に応じて「本日はこれ以上の協議は難しいので、改めて日時を設定して続行する」といった形で場を切ることも検討すべきです。
5 おわりに
ユニオン型の団体交渉は、企業規模や業種を問わず突然対応を迫られるものです。
突然やってくる外部者に対して強い拒否感を示す経営者の方もおられますが、そこで対応を誤ってしまうとさらに不利な状況に追い込まれてしまいかねません。
また、ユニオンとの団体交渉は、要求事項や相手方となるユニオンの規模や性格等によって個別事案によりさまざまですから、事案に即した対応を求められます。
グロース法律事務所では、ユニオン型団体交渉を含む労働組合対応について、企業側に立ったサポートを提供しています。
お困りの際はぜひご相談ください。
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