公正取引委員会による音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査について
公正取引委員会は、音楽放送番組等の分野の実演家について、優越的地位の濫用等を防止し、個人を守り創造性が最大限発揮される取引環境を整備するため、音楽・放送番組等の実演家とその所属する芸能事務所・プロダクションとの契約等について実態調査を実施し、その令和6年12月26日にその調査結果を発表しました。
この実演家には俳優、舞踊家、演奏家、歌手の他、タレント、お笑い芸人、声優、動画配信者、モデル、司会者、文化人などを広く含むものとされています。
調査結果の内容は公正取引委員会HPにて公表されていますが、調査の結果、①実演家と芸能事務所の取引、②放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引及び③レコード会社と芸能事務所・実演家の取引において、独占禁止法上・競争政策上の観点から問題となり得る行為が確認されたとされており、具体的には以下のような実態が問題とされています。
Contents
【実演家と芸能事務所の取引】
・専属義務の期間について
〈問題となりうる行為〉→過度な期間にわたる専属義務・期間延長請求権
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用、排他条件付取引、欺瞞的顧客誘引
・競業避止義務等
〈違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用、排他条件付取引、欺瞞的顧客誘引
・移籍・独立に対する行為
〈問題となりうる行為〉→金銭的給付の要求、移籍独立をした(希望する)実演家に対する妨害、事業者団体による移籍制限
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用、排他条件付取引、欺瞞的顧客誘引、取引妨害、不当な取引制限、共同の取引拒絶
・実演家の権利に対する行為について
〈問題になりうる行為〉→成果物に係る各種権利等の利用許諾、芸名・グループ名の使用制限
〈独禁法違反となりうる類型〉→取引拒絶、取引妨害、欺瞞的顧客誘引
・実演家の待遇に関する行為について
〈問題になりうる行為〉→報酬に関する一方的決定、業務等の強制
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用
・契約の透明性を妨げる行為について
〈問題になりうる行為〉→契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと、取引内容を明示しないこと、明細等を明示しないこと
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用を誘発する行為、欺瞞的顧客誘引
【放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引】
・取引条件について
〈問題になりうる行為〉→契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと、交渉に応じないこと
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用
【レコード会社と芸能事務所・実演家の取引】
・契約終了後の活動制限
〈問題になりうる行為〉→実演禁止条項、再録禁止条項
〈独禁法違反となりうる類型〉→優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引
公正取引委員会は当該調査の結果から、今後「本報告書で指摘した独占禁止法上問題となる行為を含め、音楽・放送番組等の実演家を対象とした独占禁止法上の問題について注視するとともに、独占禁止法違反行為に対しては厳正・的確に対処していく」と公表していますので、これまで慣行的に行われてきた実演家に対する様々な制限についても、今後は規制の対象として扱われる可能性が高いため、芸能事務所は契約書の作成や契約内容の説明などを含め、実演家との契約について改めて見直すことが求められます。
徳田 聖也
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